授業時数「最大15%削減」へ──浮いた時間を“個別最適な学び”に変えるには
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文部科学省が、各学校の判断で教科ごとの年間授業時数を最大15%ほど減らせる仕組みを、2028年度にも導入する方針を示しました。次期学習指導要領(2030年度〜を想定)に向けた見直しの一環で、中央教育審議会で議論が進んでいます。「授業が減る」という言葉だけを見ると学力低下を心配したくなりますが、改革のねらいはむしろ逆です。本コラムでは、決まろうとしていることをやさしく整理したうえで、浮いた時間を「個別最適な学び」に変えるための視点を、教材制作の現場から考えます。
何が決まろうとしているのか

まず、報じられている内容を事実として整理します。細かな数字よりも、「どんな性質の見直しなのか」をつかむことが大切です。
総授業時数は変えず、配分の裁量を広げる
今回の見直しの最大のポイントは、全体のコマ数は据え置いたまま、各教科の時間配分に学校の裁量を持たせるという点です。小学4年〜中学3年の年間の総授業時数(1015コマ)は変わりません。そのうえで、各教科について年間授業時数を最大15%程度まで減らせるようにします。つまり「学ぶ量を全体として削る」のではなく、「国が一律に決めていた時間割の一部を、学校が地域や子どもの実態に合わせて組み替えられるようにする」という趣旨です。
いつから始まるのか
スケジュールは二段構えで理解すると分かりやすくなります。次期学習指導要領そのものの全面実施は2030年度からを想定していますが、この時数配分の弾力化については、それに先行して2028年度にも導入する方針が示されています。学校現場が新しい枠組みに慣れ、教材や時間割の運用を整える助走期間を設ける狙いがあるとみられます。改訂告示から校種別の全面実施・教科書改訂までの全体像は「次期学習指導要領・教科書改訂スケジュール」で一覧にまとめています。
「15%」という数字の受け止め方
「15%」と聞くと大きく感じるかもしれませんが、これは上限であり、すべての教科・すべての学校が一律に減らすわけではありません。減らすかどうか、どの教科をどれだけ調整するかは、各学校の判断に委ねられます。裏を返せば、この制度をどう使いこなすかで、学校ごとの学びの姿に差が出てくる可能性がある、ということでもあります。
「減らす」ではなく「配り直す」──浮いた時間の3つの受け皿

この改革の本質は、削減そのものではなく、浮いた時間の使い道にあります。報道では、減らした分の受け皿として次の3つが挙げられています。いずれも「一律・一斉」から「実態に合わせた柔軟な学び」へという方向で共通しています。
1. 児童生徒への個別指導
一つ目が、つまずいている子への補習や、得意な子への発展学習といった個別の指導に充てる使い方です。一斉授業は「クラス全体を同じペースで進める」前提に立っているため、理解の早い子には物足りず、ゆっくり理解したい子には駆け足になりがちでした。浮いた時間を個別指導に回せれば、こうした「一人ひとりの理解の差」に、正面から時間を割けるようになります。
2. 教員の研究・研修(最大70コマ)
二つ目が、教員が授業を練り直したり研修を受けたりする時間で、最大70コマまで充てられる見通しです。良い授業や良い個別指導は、準備と学び直しの時間があってはじめて成り立ちます。教員の多忙化が大きな課題となるなか、「授業準備や研修の時間」を制度として確保しようという狙いがうかがえます。子どもの学びの質は、それを支える先生の余裕と地続きだ、という発想です。
3. 他教科への上乗せ
三つ目が、減らした分を別の教科に上乗せする使い方です。上限は設けない方向で検討されており、学校が「ここに力を入れたい」という重点を、時間配分で表現しやすくなります。たとえば地域や学校の実情に応じて、言語活動や探究的な学び、理数分野などに時間を重点配分する、といった運用が考えられます。
なぜ、いまこの見直しなのか

背景には、ひとつの原因ではなく、いくつかの現場の事情が重なっています。
学習内容の増加と、過密になった時間割
これまでの学習指導要領では、学ぶ内容がおおむね増える方向で改訂が重ねられてきました。その結果、限られた時間のなかに多くの内容を詰め込む形になり、「一つひとつをじっくり」よりも「とにかく進める」授業になりやすい、という指摘が現場から上がっていました。総量を増やし続けるのではなく、配分に余白と裁量をつくる――今回の見直しには、そうした問題意識があります。
多様化する子どもと、一斉授業の限界
子どもの学力・興味・学習の背景は、以前にも増して多様になっています。同じ教室のなかに、先へ進みたい子も、前の学年の内容に戻って学び直したい子もいます。全員に同じ内容を同じペースで届ける一斉授業だけでは、こうした多様さに応えきれない場面が増えてきました。「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両立が求められている背景には、この多様化があります。
教員の多忙化
授業準備、成績処理、部活動、保護者対応など、教員が担う仕事は幅広く、多忙化が深刻な課題になっています。授業の質を上げたくても、そのための準備・研修の時間が確保しづらい――この構造的な問題に手を打たなければ、どんな理念も現場で回りません。時間の一部を研究・研修に充てられるようにする今回の枠組みは、この課題への一つの応答でもあります。
期待と、慎重に見ておきたいこと

新しい仕組みには期待できる面と、注意して見守りたい面の両方があります。どちらか一方だけを見て評価しないことが大切です。
期待されること
最大の期待は、一人ひとりに合った学びに時間を使えるようになることです。つまずきを早めに拾い、得意はさらに伸ばす。先生には準備と学び直しの余裕が生まれ、授業そのものの質が上がる。うまく回れば、「時間を減らしたのに学びは深まった」という状態を目指せます。
慎重に見ておきたいこと
一方で、裁量が広がるということは、使いこなし方によって学校間の差が生まれうるということでもあります。浮いた時間が形だけの自習になってしまえば、期待した効果は得られません。また「どの教科を減らすか」の判断には、保護者や地域への丁寧な説明も欠かせません。制度が目指す学力・資質の保証と、現場の裁量のバランスをどう取るかが、これからの運用の焦点になります。
個別最適な学びを、何が支えるのか

「浮いた時間を個別指導に」と言葉にするのは簡単ですが、教員一人が30人以上を同時に、それぞれ違う内容で見るのは容易ではありません。ここで力になるのが、1人1台端末とデジタル教材・ICTです。時間の裁量が広がるほど、その時間を支える「道具」の質が問われます。
理解度に応じた出し分け
デジタル教材は、正誤や解答時間に応じて次の問題の難易度を変えたり、間違えた単元に戻って復習させたりできます。得意な子は先へ、つまずいた子は戻って学べる。一斉授業では実現しにくかった「一人ひとりのペース」を、教材の側が受け止められるようになります。
学習データで「つまずき」を可視化する
紙のプリントでは、答え合わせをした瞬間に学びの過程は消えてしまいます。デジタル教材なら、どこで、どのくらい時間をかけ、どこを間違えたかが学習データとして残ります。先生は、限られた個別指導の時間を「本当に支援が必要な子・単元」に集中できます(関連:学習データを活かすデジタル教材)。
自分のペースで学べる教材
一斉授業から解放された時間には、動画やインタラクティブな教材で、各自が自分のペースで学びを深められます。分からなければ止めて戻れる、分かっていれば先へ進める――この「自分のハンドルで進む」感覚が、主体的な学びを後押しします。
デジタルは「置き換え」ではなく「回す道具」
大切なのは、デジタルを「一斉授業の置き換え」ではなく、個別最適な学びを回すための道具として設計することです。生成AIを使った学習支援や教材づくりも広がりつつありますが(関連:教材制作に生成AIをどう活かす?)、道具が増えるほど「何を、どの子に、どう届けるか」という教材設計の重要性はむしろ増していきます。こうした流れは、端末更新期を迎えた学校ICTの次の段階とも重なります(関連:NEXT GIGAで教材はどう変わる?)。
教材制作・学びの現場で大切にしたいこと

制度が変わっても、浮いた時間が自動的に良い学びになるわけではありません。教材づくりと現場運用の両面で、意識したい点を整理します。
一斉と個別を行き来できる設計
これからの学びは、一斉授業か個別学習かの二者択一ではありません。全員で考える場面と、一人ひとりが自分のペースで進む場面を、なめらかに行き来できることが理想です。教材も、みんなで使える解説と、個別に取り組める演習・データ機能を、ひとつながりで設計しておくことが求められます。
先生の負担を増やさない
どれだけ良い仕組みも、先生の手間が増えすぎれば続きません。準備や採点、つまずきの把握を教材やシステムが肩代わりし、先生が「子どもと向き合う時間」に集中できるようにすること。個別最適化のためのICTは、先生を置き換える道具ではなく、先生の時間を生み出す道具であるべきです。
家庭でできること
保護者の立場では、「授業が減る=手抜き」ではなく「時間の使い方を組み替える改革」だと捉えることが出発点になります。そのうえで、家庭では点数だけでなく「どこでつまずき、どう乗り越えたか」という過程に目を向けること、子どもが自分のペースで学べる環境を整えることが、学校の個別最適な学びとよい補完関係になります。
まとめ──「時間が空く」を「学びが深まる」に

今回の見直しは、授業を「減らす」話ではなく、時間の裁量を現場に返し、一人ひとりに合った学びへ配り直す改革だと捉えるのが自然です。総授業時数は据え置いたまま、浮いた時間を個別指導・教員研修・重点教科へと振り向ける。その理念を現場で機能させる鍵は、個別最適な学びを回せる教材・仕組みと、それを使いこなす設計力にあります。
エデュコンでは、理解度に応じて出し分ける問題や、学習データを次に生かせるデジタル教材の制作を支援しています。実際の教材の型は、デジタル教材サンプルで体験できます。「時間が空く」を「学びが深まる」に変える教材づくりを、ぜひご相談ください。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。





















