令和8年度 全国学力・学習状況調査の結果公表を読む——中学英語の全面CBT化とIRTスコアの見方
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令和8年7月16日、文部科学省と国立教育政策研究所から 令和8年度 全国学力・学習状況調査 の「結果公表①」が発表されました。今年度の調査は、中学校英語の4技能すべてが CBT(コンピュータで受ける試験) で実施された初めての年であり、結果の示し方にも IRTスコア という新しいものさしが使われています。紙の一斉テストから、コンピュータとデータを前提とした調査へ——大きな転換点となった今年の結果を、教材制作の現場の視点で読み解きます。
令和8年度調査の概要——何がどう実施されたか

まず、今年度の調査の枠組みを確認します。
実施時期・対象・教科
調査は令和8年4月20日から5月29日にかけて、小学校6年生と中学校3年生を対象に実施されました。教科は小学校が国語・算数、中学校が国語・数学・英語です。あわせて児童生徒への質問調査と、令和5年度以来となる学校への質問調査も行われています。
今年度の2つの新しい要素
最大の特徴は、中学校英語の「聞くこと・読むこと・書くこと・話すこと」の4技能すべてが全面的にCBT化されたことです(「話すこと」は令和5年度からCBTで実施)。もう1つは、小学校の児童質問調査に、質問項目を分けて配る「ランダム方式」が導入されたことです。限られた回答時間でより多くの項目を調べるための、調査設計上の工夫です。
結果公表は段階的に行われる
結果は一度にすべて出るのではなく、7月16日の「公表①」(正答率・IRTバンド分布などの全国平均)を皮切りに、8月3日に全国データに基づく分析結果(公表②)、秋頃をめどに都道府県・指定都市別の分析結果(公表③)と、段階的に公表されるスケジュールです。学校向けの帳票や個人票は7月16日から、教育委員会向けの帳票は7月27日から提供されています。
全国の結果をどう読むか——正答率とIRTスコア

次に、公表された全国の結果を見てみます。
各教科の平均正答数・正答率
全国(国公私立)の平均は、小学校国語が13問中7.9問(正答率61.1%)、小学校算数が16問中9.1問(56.6%)、中学校国語が15問中9.6問(64.2%)、中学校数学が16問中9.2問(57.4%)でした。おおむね6割前後という水準です。
「過年度との単純比較は適当ではない」の意味
公表資料には、過年度の結果と単純に比較することは適当ではない、という注意書きが明記されています。年度ごとに問題の内容も難易度も異なるため、「昨年より平均が2ポイント下がった=学力が下がった」とは読めない、ということです。数字を扱う仕事をしていると見落としがちですが、テストの点数は「何を出題したか」とセットでしか意味を持ちません。この注意書きは、調査結果を報じる記事や自治体の資料を読むときにも思い出したいポイントです。
英語はIRTスコア499——「500基準」の読み方
中学校英語だけは、正答率ではなく IRT(項目反応理論) に基づくスコアで結果が示されました。500を基準とするスコアで、今年度の全国平均は4技能で499、参考値の3技能(聞く・読む・書く)で502です。IRTは、受けた問題の難しさを考慮して能力値を推定する統計手法で、資格試験や国際的な学力調査では広く使われてきました。問題が違っても同じものさしで測れるため、将来的には年度をまたいだ比較への道を開く仕組みでもあります。
IRTバンドという新しいものさし

今年の公表で初めて登場した「IRTバンド」にも触れておきます。
バンド1〜5の設計
中学校英語の結果は、スコアの水準ごとに1から5の「IRTバンド」に区切って分布が示されています。4技能スコアでは、341以下がバンド1、342〜448がバンド2、449〜556がバンド3、557〜663がバンド4、664以上がバンド5です。理想的な正規分布であれば、真ん中のバンド3に約40%、バンド2と4に約23%ずつ、バンド1と5に約7%ずつが入る設計になっています。
平均点だけでは見えない分布を見る
平均スコアが同じでも、真ん中に固まっているのか、上下に大きく割れているのかで、必要な手立てはまったく違います。バンド表示は、その「散らばり」を誰でも読み取れるようにする工夫です。公表資料でも、都道府県・教育委員会・学校・生徒と集計単位を変えた箱ひげ図でばらつきが示されており、集計単位が小さくなるほど差が大きくなる——つまり、同じ県の中でも学校や生徒による違いのほうがずっと大きい——ことが確認できます。
学校に返ってくるのは3技能スコア
なお、全国値の4技能スコアは「話すこと」を調査当日に実施した学校(約4.7万人分)のデータに基づいて算出されており、各学校に返却されるのは「聞くこと・読むこと・書くこと」の3技能を統合したIRTスコアです。学校で自校の帳票を読むときは、全国値と自校の値がどのデータに基づくものかを区別しておくと混乱がありません。
全面CBT化は成功したか——実施状況のデータ

教材制作やICT環境整備に関わる立場として、今年いちばん注目したのは「87万人規模のCBTが実際に運用できたのか」でした。
ネットワーク起因の未実施はゼロ
英語「聞くこと・読むこと・書くこと」は9,535校のうち9,349校(98.0%)が調査実施日に完了し、156校(1.6%)が後日実施で完了。ネットワークや端末の理由で実施できなかった学校は 0校 でした。「話すこと」も99.5%の学校が当日完了しています。全国一斉規模のCBTで通信・端末起因の脱落がゼロという結果は、GIGAスクール環境と MEXCBT(メクビット) の運用が実用段階に達したことを示すデータと言えます。
87万人が画面上で受験した
生徒単位でも、「聞くこと・読むこと・書くこと」は約87.7万人、「話すこと」は約86.4万人が調査を完了しました。後日実施の仕組みが用意されたことで、当日に受けられなかった生徒約1.5万人も救済されています。紙の配送・回収を伴わない大規模調査の運用モデルが、実データで裏づけられた形です。
配慮版プログラム——CBTだからできる対応
見逃せないのが、特別な配慮を要する生徒向けのプログラムの使用状況です。文字を大きく表示する拡大文字問題プログラム(各技能で約300〜700人)、時間延長(約100〜180人)、点字問題冊子(約20人)に加えて、漢字にルビを振るプログラムは各技能で約9,300〜12,400人が使用しました。設定ひとつで一人ひとりに合わせた出題ができるのは、まさにCBTの強みです。デジタル教材の制作でも、ルビ・文字サイズ・音声などのアクセシビリティ対応は「あれば親切」ではなく標準機能になりつつあります。
質問調査から見える学びの姿

教科の結果とあわせて公表された質問調査(速報)からも、いくつか興味深い傾向が読み取れます。
「主体的・対話的で深い学び」と正答率の関係
約8割の児童生徒が「主体的・対話的で深い学び」に取り組んだと考えており、この割合は昨年度までとほぼ同じです。そして「課題の解決に向けて自分から取り組んだ」に肯定的に答えた児童生徒ほど、各教科の正答率・スコアが高い傾向がはっきり表れています。たとえば中学校英語では、「当てはまる」と答えた生徒の平均IRTスコアが539、「当てはまらない」では418と、大きな差があります。
ICT機器の活用——約9割が肯定的
ICT機器の活用については、約9割の児童生徒が「楽しみながら学習を進めることができる」「友達と協力しながら学習を進めることができる」と回答しました。1人1台端末が「特別な道具」から「ふだんの文房具」になったことが、調査からも裏づけられています。
挑戦心・好奇心と学力
「課題が難しくなると、さらに努力する」「新しいことを学ぶのは好きだ」といった挑戦心・好奇心に関する質問には約70〜90%が肯定的に回答し、こうした児童生徒ほど正答率・スコアが高い傾向も示されました。相関関係であって因果関係そのものではありませんが、「学びに向かう力」と教科の学力がセットで育つことを示唆するデータです。
教材制作の現場への示唆
最後に、この結果を教材づくりの立場からどう受け止めるかを整理します。
英語の演習・教材はCBT前提へ
入試や検定に先立って、公的な学力調査が「英語はCBTで測る」と明確に舵を切りました。画面でリスニング音声を聞き、キーボードで英作文を打ち、マイクに向かって話す——この受験体験が全国の中学3年生の共通経験になった以上、英語の演習教材も「画面で解く・話す・打つ」を前提に設計する必要があります。紙の問題集をPDF化するだけでは、この体験には追いつけません。
スコアとバンドを活かした教材設計
IRTスコアやバンド分布が学校に返却されることで、「平均点」ではなく「どの層がどれだけいるか」に基づいた指導・教材選定が可能になります。教材の側も、一律の難易度ではなく、層ごとの到達目標に対応した段階設計や、データに基づく振り返り機能が求められるようになるはずです。
紙とデジタルの使い分けは続く
一方で、国語・算数・数学は今年度も紙で実施されており、すべてが一気にCBTになるわけではありません。記述をじっくり書かせる場面、図に描き込んで考えさせる場面など、紙が適した学習は残ります。大切なのは「どちらか」ではなく、測りたい力・育てたい力に応じた使い分けです。8月の公表②、秋の公表③では教科の詳細な分析や地域別のデータが示される予定であり、教材づくりに関わる立場として引き続き注目していきます。
なお、本コラムの数値・図表はいずれも文部科学省・国立教育政策研究所「令和8年度全国学力・学習状況調査の結果公表①のポイント」(令和8年7月)に基づいています。詳細は国立教育政策研究所のWebサイトで公開されている報告書・調査結果資料をご参照ください。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
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