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コラム

教材が「AIに読まれるデータ」になる──概算要求92億円のデータ整備と、学習ログの共通ルール「xAPI Japan Profile」

カテゴリ

ICT教育・GIGA
教育DX・データ活用

2026年10月1日、中央教育審議会の特別委員会で、9月に公表された令和9年度(2027年度)概算要求のうち「教育分野に必要な基盤的なデータ整備」(92億円)が報告されました。学習指導要領やその解説などのデータを構造化・機械可読化し、教科書などのデータも整備してAIでの利活用を進める事業です。同じ頃、文部科学省は「xAPI Japan Profile」の意見募集を始めています(10月30日まで)。デジタル教材やCBT(コンピュータを使ったテスト)、ドリルが出力する学習ログの書き方を、事業者の間でそろえるための共通ルールの案です。前者は教材の「中身」を、後者は教材を使った「記録」の形式を、それぞれ機械が扱いやすい形に整える取り組みといえます。本コラムでは、一次資料をたどりながら、教材をつくる側に何が求められていくのかを整理します。

この記事の要点

  • 令和9年度概算要求に「教育分野に必要な基盤的なデータ整備」92億円が盛り込まれ、2026年10月1日の中教審特別委員会で報告された(要求段階)
  • 学習指導要領や教科書などのデータを構造化・機械可読化し、AIでの利活用を進める事業
  • 学習ログの共通ルール「xAPI Japan Profile」は文部科学省が意見募集中で、まだ案の段階
  • 教材は人が読むだけでなくシステムやAIに読まれるものになり、1問ごとの設計・単元との対応・素材の権利をデータとして示せるかが問われる

92億円の「基盤的なデータ整備」とは

884億円のAI関連要求の一部

令和9年度の文部科学省の概算要求は、9月1日の中央教育審議会初等中等教育分科会に主要事項が示され、10月1日のデジタル学習基盤特別委員会(第11回)でも、GIGAスクール構想関係予算の概要として報告されました(資料4)。その柱の1つが「学校現場における安全かつ主体的なAI活用環境整備」で、要求・要望額は884億円(前年度予算額は4億円)です。内訳は次の4事業です。

- 事業①:全国的な教職員向け研修およびAI利活用のリスクに関する調査(5億円)
- 事業②:教育分野に特化したアプリケーションの実証研究事業(9億円)
- 事業③:教育分野に必要な基盤的なデータ整備(92億円)
- 事業④:AI利活用に向けたクラウド環境整備(778億円)

金額の大半はクラウド環境の整備(事業④)ですが、教材づくりに直接かかわるのは事業③です。なお、これは概算要求の段階で、884億円の全額が「強く豊かな日本」投資枠での要望です。実際の予算額は、今後の政府予算案の編成と国会審議で決まります。

紙での管理・PDFでの保存という課題

資料4は、事業③の背景として、教育分野のデータはAIを適切に利活用するうえで不可欠である一方、現状は紙での管理やPDF形式での保存も多く、「AI活用の前提として必要な構造化や機械可読化がされていない」と説明しています。機械可読化とは、コンピュータが内容を読み取って処理できる形にすることです。

そこで事業③では、国などが作成している学習指導要領やその解説、参考資料などのデータを機械可読化・構造化します。あわせて、著作権者などの権利に十分配慮しつつ、自治体などが持つ指導案のデータや、教科書発行者が持つ教科書などのデータを整備し、その利活用の実証・実装を進めるとしています。資料4の事業スキーム図には、取りまとめ事業者の下で事業を担う主体として「民間事業者等(教科書発行者等)」が示されています。

学習指導要領そのものをデジタル化し、学習指導要領コード(学習指導要領の内容ごとに付けられた識別コード)で教材とつなぐ構想は、学習指導要領が「デジタル」になるで解説しました。事業③は、この構想と方向を同じくする動きです(まだ概算要求の段階です)。

教科書・指導書のデータを使う実証も動き出している

同じ会議の資料3-3(AIガイドラインの改定に向けた検討状況)には、令和8年度(2026年度)の「教育分野特化の生成AIの実証事業」6件の一覧が載っています。そのうち1件は、複数社の教科書・指導書等のデータを活用し、児童生徒の学習場面での個別最適な応答に資するデータ基盤を構築する実証です。実証期間は2026年8月〜2027年1月末で、実証開始に向けて調整中のため一部変更の可能性がある、と注記されています。

資料3-3は、教育分野でAIの事業活動を担う主体も整理しています。そのなかで、AIの学習や利用に使うデータを提供する「データ提供者」の例として、教科書会社、教師、教育委員会などが挙げられています。教材の側が、AIサービスの「上流」に位置づけられ始めているということです。教育特化型AIそのものの構想については文科省が「教育特化型AIアプリ」を自ら開発へで取り上げています。

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学習ログの共通ルール「xAPI Japan Profile」

スタディ・ログとxAPI

教材の中身がデータになる一方で、教材を使った学習の記録もデータとして扱われます。意見募集に添付された「xAPI説明資料」(別紙1)は、デジタル教材の閲覧、問題への回答、ページへの書き込みといった「学習のプロセス」を示すデータをスタディ・ログ(学習ログ)と呼んでいます。1人1台端末の環境で、従来は取得が難しかった細かなデータを集められるようになりました。

このスタディ・ログを「いつ・誰が・何を・どうした」の形で記述する国際標準規格がxAPI(Experience API)です。別紙1によると、2013年に米国ADL(Advanced Distributed Learning)が策定し、2023年にIEEE 9274.1.1-2023として国際標準化されました。日本でも、京都大学の研究や内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)事業、デジタル庁の実証で採用されています。

なぜ「書き方」をそろえる必要があるのか

xAPIは記述の枠組みを決めているだけで、「何を・どうした」をどんな語彙で書くか、どのデータを含めるかは、事業者やツールによって異なります。別紙1と、文部科学省の令和7年度(2025年度)委託事業の報告書「効率的な統合分析・利活用に資するスタディ・ログの記述形式の調査研究」(以下、報告書)は、現状の課題を次のように整理しています。

- 事業者ごとにデータの形式がばらばらで、統合して分析するには語彙の読み替えやデータの補完が必要になり、自治体や学校の負担が増える
- ツールを変えると過去のデータを引き継げない(ベンダーロックイン)

そこで、ツールの種類ごとに使う語彙や記述の形を決めたものがxAPIプロファイルです。標準化されれば、たとえば「A社教科書とB社ドリルの状況を1つの画面で一元管理」できるようになる、と別紙1は例示しています。

4つのプロファイルが記録するもの

今回の案では、次の4種類のツールについてプロファイルが定められています。この日本向けのプロファイル群が「xAPI Japan Profile」です。

- LMS Profile(学習eポータル・学習管理システム):教員による課題の作成・配布、児童生徒による課題の開始・完了、閲覧、教員のフィードバックなど
- Assessment Profile(CBT・デジタルドリル):テストやドリルの開始、各問題への回答、ヒントや解説の参照、終了など。回答の記録では、得点(素点・最大点・得点率)を必須、回答内容・所要時間を推奨の項目としている
- ebook Profile(電子書籍型デジタル教材):プラットフォーム(ビューア)の起動・終了、紙面の表示・非表示、ページ移動、しおり・ブックマーク、書き込みなど
- Group Learning Support Tool Profile(協働学習支援ツール):他者の共有成果物へのコメントやリアクション

学習eポータルは、MEXCBT(文部科学省のCBTシステム)などを使うときの入り口となるシステムです。

作成の経緯と「推奨」という位置づけ

このプロファイル群は、ICT CONNECT 21のxAPIサブワーキンググループ(座長:上智大学 田村恭久教授)で、EdTech事業者や研究者が議論して作成したものです。文部科学省は、これを令和8年度に教育データ標準として位置づけることを目指して、意見を募集しています。教育データ標準とは、異なるシステム間のデータ流通・相互利用のために文部科学省が推奨する規格です。

位置づけは「遵守」ではなく「推奨」です。報告書によると、プロファイルは実際の運用で出力を強制するものではなく、各事業者がサービスやコンテンツの特性に応じて活用できる「表現のための共通資産」とされています。別紙1によると、意見を踏まえて今回の案(ver.1.00)を確定し、2027年3月に公表する予定です。その後も、ver.2.00に向けて拡充を検討するとしています。

まだ決まっていないこと

学習指導要領コードなどのメタデータ

教材制作の立場から特に気になるのが、報告書が「今後の課題」に挙げた項目です。学年・教科・学習指導要領コードといった、コンテンツに付随するメタデータ(データの属性を示す情報)をログにどう記録するかは、ver.1.00では最終決定に至っていません。コード体系の選定はサブワーキンググループの検討範囲外としつつ、プロファイルに記録枠を設けた場合の事業者への影響を見通しきれなかった、という説明です。今後、4つのプロファイルに共通する要素をまとめる「Core Profile」で整理するとされています。

意見募集に添付された「構成概要」(別紙2)も、民間事業者への問いの1つとして「学年・教科・学習指導要領コード等のメタデータ記録枠をプロファイルに規定した場合、実装への影響(コスト・データ保有状況)は何があるか」を挙げています。

IRTやアダプティブな出題は対象外

Assessment Profileは、CBTやドリルの基本的な実施の流れを記録するものです。報告書は、アダプティブ・ラーニング(回答に応じて出題を変える学習)における動的な出題制御や、IRT(項目反応理論。問題ごとの難しさなどを踏まえて力を推定する手法)の運用を考慮した回答記録の扱いまでは、カバーしていないと明記しています。全国学力・学習状況調査では中学校英語でIRTスコアによる結果の返却が始まっていますが(詳しくは令和8年度 全国学力・学習状況調査の結果公表を読む)、そうした仕組みのログの書き方は、今後の拡張に委ねられています。

ebook Profileでも、completed(読了)やread(読んだ)のように、学習体験の解釈に追加の合意が必要な記録は今後の検討課題とされています。

教材制作の現場から見た論点

記録される項目から逆算して問題をつくる

Assessment Profileは、回答ごとに得点(素点・最大点・得点率)を必須、回答内容・所要時間を推奨の項目として記録する形を示しています。裏を返せば、教材の側にはそれらを正しく出力できる問題データが必要になります。プロファイルでは、1問に回答欄が2つあり、配点が3点と2点なら最大点は5とする、といった記録の例も示されています。1問ごとの配点、正解の定義、部分点の扱い、ヒントや解説の位置づけ──紙の問題集では編集者の頭の中にあった設計がデータとして明示されていなければ、ログを正しく読み解けません。

メタデータは制作工程で付ける

学習指導要領コードの記録枠はまだ決まっていません。ただ、教科書・指導書のデータ整備や、学習指導要領のデジタル化と合わせて見ると、どの問題がどの単元や、どの資質・能力に対応するのかをデータで持っておくことの価値は高まっています。完成した教材にあとから付けるのは手間がかかります。原稿や台割(ページ構成の設計表)の段階から、単元や学習指導要領との対応を構造化して管理しておくことが、効率のよい備えになると考えられます。

「データ提供者」としての権利処理

事業③は、教科書などのデータの整備を「著作権者等の権利に十分配慮しつつ」進めるとしています。教材には、引用した文章、図版、写真など、第三者の権利が含まれる素材が少なくありません。AIに読ませるデータとして提供する場面が増えるほど、どの素材を、どの範囲で使えるのかを制作時に記録しておくことが重要になります。

意見募集は10月30日まで

意見募集は、学校関係者・教育委員会・民間事業者・その他の属性を選んで、文部科学省のWebフォームから提出する形式です。別紙2は、民間事業者向けの観点として、既存システムからの出力の実装は現実的か、語彙に過不足はないか、各項目に付けられた必須・推奨・任意の区分の粒度は適切か、といった問いを示しています。デジタル教材やドリルを提供している事業者にとっては、自社の教材がどう記録されるかを決めるルールに意見を出せる機会です。

よくある質問(FAQ)

xAPI Japan Profileに対応しないといけないのですか?

報告書では「推奨」の位置づけで、出力を強制するものではないとされています。文部科学省は、意見募集を経て教育データ標準として位置づけることを目指しています。

どんな教材が対象になりますか?

今回の案が対象とするのは、LMS(学習eポータル・学習管理システム)、CBT・デジタルドリル、電子書籍型デジタル教材、協働学習支援ツールの4種類のツールです。デジタル教科書のような電子書籍型の教材や、オンラインのドリル・テストが含まれます。

92億円の事業はもう決まったのですか?

いいえ。令和9年度(2027年度)の概算要求の段階です。実際の予算額は、今後の政府予算案の編成と国会での審議を経て決まります。

意見は誰でも出せますか?

属性に「その他」もあり、学校関係者や事業者以外も提出できる形式です。属性は学校関係者、教育委員会、民間事業者、その他から選びます。締切は2026年10月30日です。

教材会社はまず何をすればよいですか?

まずは、自社の教材の問題・ページ・素材について、配点や正解の定義、単元や学習指導要領との対応、素材の権利の範囲を、データとして整理できているかを点検することです。ログの書き方の標準化と、教材データの機械可読化は、どちらも「教材の中身が構造化されていること」を前提にしています。

まとめ

概算要求の92億円と、xAPI Japan Profileの意見募集。教材そのものと、教材を使った学びの記録の両方で、機械が扱える形への整備が始まろうとしています。どちらもまだ要求や案の段階ですが、向かう先は同じです。教材は、人が読むだけでなく、システムやAIに読まれるものになっていきます。

そのとき問われるのは、見た目の完成度だけではありません。1問ごとの設計、単元との対応、素材の権利──これまで制作の現場で暗黙のうちに管理してきた情報を、データとして示せるかどうかです。

エデュコンは、デジタル教材制作でドリル・演習問題アプリの企画からLMS連携までを、デジタル教材オーサリングでデジタル教科書・教材の制作を、AI学習データセット制作で学習指導要領に基づくタグ付け(アノテーション)や著作権処理を承っています。教材のデータ化や学習ログを見据えた設計について、お気軽にご相談ください。

なお、本コラムの内容は、中央教育審議会 初等中等教育分科会 デジタル学習基盤特別委員会(第11回・2026年10月1日)の資料3-3・資料4、および文部科学省「xAPI Japan Profile に関する意見募集について」の公表資料(報告書、別紙1・別紙2)に基づいています。意見の提出方法など最新の情報は、文部科学省のWebサイトをご確認ください。

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