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コラム

正答率39.3%の隣にいる35.1%——全国学力調査の「誤答分析」が映す“あと一文”の壁

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小学生向け教材コラム
中学生向け教材コラム

令和8年8月3日、文部科学省と国立教育政策研究所から 令和8年度 全国学力・学習状況調査の「結果(概要)」(結果公表②)が公表されました。7月の公表が「何%できたか」を示す資料だったのに対し、今回の資料には 正答の条件・正答例・誤答例と、その誤答が何%いたか までが載っています。読み込んでいくと、平均正答率からは決して見えなかった層が浮かび上がります。中学校国語の記述式問題は正答率39.3%ですが、そのすぐ隣に「条件①は満たしているが、条件②を満たしていない」答案が35.1%いるのです。白紙でもなく、的外れでもない。あと一文で正答になったはずの答案が、正答とほぼ同じ数だけ存在する——本コラムでは、この“惜しい答案”の正体を誤答分析から読み解きます。

8月3日の公表は「どう間違えたか」の資料

まず、今回の資料が何を新しく示したのかを整理します。

「何%できたか」から「どう間違えたか」へ

今年度の結果公表は3段階に分かれています。7月16日の公表①が正答率・IRTバンド分布などの全国平均、8月3日の公表②が全国データに基づく分析結果、そして秋頃に都道府県・指定都市別の分析結果(公表③)が予定されています。7月に出た「問題別調査結果」は一問ごとの正答率と無解答率を並べた資料でしたが、8月の「結果(概要)」はその一歩先——設問ごとに、正答の条件は何で、実際にどんな誤答がどれだけあったかを、正答例・誤答例の文面つきで示しています。指導や教材づくりの立場から見れば、こちらのほうがはるかに実務的な資料です。

「正答の条件」という考え方

記述式の問題には、あらかじめ複数の「正答の条件」が設定されています。たとえば中学校国語の大問4四は、擬態語「きっぱり」について、条件①が〈例文2〉の「きっぱり」がどのような様子を表しているかを具体的に書いていること、条件②が「きっぱり」について考えたことを踏まえて擬態語の効果を 本文中の言葉を使って 書いていること。この2つを 両方 満たして初めて正答になります。採点は「なんとなく良さそうか」ではなく、条件の充足で判定されている——記述式を教える側・つくる側にとって、これは前提として押さえておきたい設計です。

無解答率18.3%の隣にいる35.1%

この大問4四の正答率は39.3%、無解答率は18.3%でした。7月の資料まではここで終わりでしたが、公表②はその先を示します。条件①は満たしているが条件②を満たしていない答案が35.1%。つまり「様子は具体的に書けたが、効果を本文の言葉で説明できなかった」生徒が、正答者とほぼ同数いたことになります。「書けない子」と「書けた子」の二分法では、この最大の層がまるごと視野から抜け落ちてしまいます。

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最も厚い層は「①は書けて、②が書けない」

この構図は、一つの設問に限った話ではありませんでした。

中学校英語——誤答のほうが正答より多い

社会的な話題について読んだことに対し、自分の考えとその理由を英語で書く問題(問題10(2))の正答率は28.4%。一方、条件①(自分の考えを書く)は満たしているが、条件②(その理由を書く)を満たしていない答案が43.6% ——誤答の一類型だけで、正答者を大きく上回りました。正答例が「I agree with you.(考え)+ I often use the internet to study English.(理由)」であるのに対し、誤答例として挙げられているのは「I think your opinion is good.」と考えは述べたものの、続く一文が理由として成立していない答案です。賛否は表明できるのに、なぜそう思うのかが届かない。「話すこと」の問題16でも同じ構図が現れ、正答率53.5%に対して条件①のみの答案が16.8%ありました。

小学校国語——考えは書けた、引用ができない

小学校国語の大問2四は、集めた情報から抜き出して自分の考えが伝わるように書く問題です。正答率33.6%に対し、条件③(抜き出した内容をもとに考えたことを書く)は満たしているが、条件①②(本の題名と本文の一部を選んで抜き出し、かぎかっこでくくる)を満たしていない答案が29.1%。自分の考えは書けているのに、その根拠となる引用が抜けている、あるいは引用と自分の考えが混ざって区別されていない。文部科学省の解説も「引用した部分と自分の考えとの関係を明確にし、区別して書くことができなかった児童がいた」と述べています。

中学校数学——「グラフを使う」とは書いた、使い方が書けない

数学でも同じことが起きています。データ量が1000MBになるときの動画の時間を求める方法を説明する問題(大問7(2))は、正答率34.5%・無解答率39.0%と厳しい結果でした。ここでも公表②は先を示します。グラフ・式・表のどれを用いるかは記述しているが、その用い方を明示して説明できなかった生徒が14.3%。「グラフを使って求める」「比例の式で表す」と方針までは書けても、y座標が1000のときのx座標を読む、といった手順が書けない。方針と手順のあいだで筆が止まっているわけです。

抜け落ちるのは、いつも「考えを支える部分」

4つの設問に共通するのは、抜け落ちる条件がどれも同じ性格を持っていることです。国語は「本文中の言葉」という根拠、英語は「理由」、小学校国語は「引用」、数学は「手順」。いずれも 自分の考えを支える部分 です。文部科学省が今回示した授業改善のメッセージも、国語では「自分の考えを伝える際に、考えと根拠を区別して表現することを意識させることが重要」、英語では「読み手や聞き手に伝わるよう、理由を示すことを意識させることが重要」と、まさにここを名指ししています。考えが持てないのではなく、考えと、それを支えるものをセットで差し出す作法 が身についていない、と読むべきデータです。

選択式でも、誤答は一箇所に集中する

誤答分析の価値は記述式に限りません。選択式・短答式でも、誤答は選択肢に均等に散らばるのではなく、特定の一箇所に固まります。

立方体の体積を「8×8」と書いた10.2%

小学校算数の大問1(1)は、1辺が8cmの立方体の体積を求める式を書く問題です。正答率72.9%に対し、誤答は 「8×8」が10.2%、「8×6」「8×3」が5.5%。前者は、立方体のすべての辺が等しいことは理解しているのに、正方形の 面積 の公式を当てはめてしまったと考えられるものです。「体積が分からない」のではなく「面積の式に引っ張られた」——同じ不正解でも、手当ての方法はまったく違います。

割合の図では、誤答が正答を上回った

さらに象徴的なのが大問2(4)、赤いテープの長さが白いテープの1.5倍になっている図を選ぶ問題です。正答(ア・オ)が34.5%だったのに対し、特定の誤答(イ・エ)が35.7% と正答を上回りました。文部科学省の分析によれば、基準量の1.5倍に当たる量を「基準量より1.5目盛り分多い量」と捉えた児童がいたと考えられる、とのこと。クラスの3人に1人が同じ勘違いを共有している状態で、これは個人の不注意ではなく、教える側が先回りすべき典型的な誤概念です。

中学校でも同じ現象

中学校数学の大問3(2直線が平行になるための根拠となる二つの角を書く)は正答率49.6%。誤答は24.2%と20.3%の二つのかたまりに分かれ、いずれも平行の根拠にならない角の組み合わせでした。合わせて4割超が、平行条件そのものは知っていながら、着目すべき二つの角を見いだせていないことになります。中学校国語の大問1二(「投げられる」の説明を選ぶ)でも、正答70.3%に対し特定の誤答が20.4%。助動詞「られる」を助詞と取り違えたと見られるもので、これも狙い撃ちできるつまずきです。中学校英語の問題10(1)(書き手が最も伝えたいことを選ぶ)に至っては、正答48.1%に対し、本文中の 具体例 を選んだ誤答が23.9%と19.1%。主張と具体例を区別して読む力が問われた設問でした。

誤答が割れないことの意味

誤答がランダムに散らばっているなら、対策は「もっと丁寧に教える」しかありません。しかし実際には、誤答は特定の誤概念に沿って一箇所に集中しています。これは裏を返せば、つまずきの型は数えられるほど少なく、教材の側で先回りできるということです。誤答分析は、指導の的を絞るための地図として使えます。

「その活動をやったか」が効いている——クロス集計

公表②のもう一つの新機軸が、設問の正誤と質問調査の回答を突き合わせたクロス集計です。

引用の指導を受けた児童ほど、引用が書ける

先ほどの小学校国語の大問2四(正答率33.6%)を、児童質問調査「国語の授業で、文章などを引用して、自分の考えが伝わるように書き表し方を工夫して文章を書いていましたか」の回答別に見ると、「している」と答えた児童の正答率は40.8%で、無解答率も低くなっています(相関係数0.164)。同様に、中学校国語の語句の問題(大問4二・正答率35.5%)を「読書は好きですか」で分けると、「当てはまる」層は46.0%(相関係数0.201)。小学校算数の時間を求める問題(同78.2%)を「図が役に立つと思ったか」で分けると、「当てはまる」層は83.4%(同0.166)。

最も相関が強かったのは証明

今回確認できた中で最も相関が高かったのは、中学校数学の大問8(3)(証明する事柄の仮定となる辺や角の関係を選ぶ/正答率37.5%)と、生徒質問「文字式を用いた説明や図形の証明を読んで、かかれていることを理解することができる」の組み合わせで、相関係数0.302。「当てはまる」と答えた生徒の正答率は55.6%で、全体より18ポイント高い水準でした。証明は、書く前に 読める ことが効いている、と読める結果です。

ただし、相関は因果ではない

念のため補足すると、これらはあくまで相関であって因果関係の証明ではありません。もともと得意な子が「できる」と答えている面も当然あります。それでも、引用・読書・図・証明の読解という 具体的な学習経験 が正答率と結びついているという事実は、教材を設計するうえで十分に示唆的です。「理解させる」より前に「その活動を何回経験したか」を問うべきだ、というメッセージとして受け取れます。

教材づくりで何ができるか

最後に、この誤答分析を教材制作の実務にどう落とすかを整理します。

「正答の条件」を隠さない

記述式で最も厚い層が「条件①は満たすが②を満たさない」である以上、条件を先に見せることは有効な手立てです。解答欄の隣に「①〜を具体的に書く ②その理由を本文の言葉で書く」と明示する。採点基準を伏せておいて後から示すのではなく、書き始める前に何を満たせば正答なのかを共有する。これは無解答率18.3%の層に対しても、「ここまで書けば認められる」という見通しを与える点で同時に効きます。学習者が自分の答案を自分で点検できるようになる、という副次効果も大きい部分です。

惜しい誤答こそ、最良の教材素材

模範解答だけを見せる解説は、「正答との距離」を教えてくれません。今回の公表②のように、①は書けているが②がない実例と、そこに一文足せば正答になるという直し方を並べて見せるほうが、学習者にとってははるかに実用的です。誤答例は、これまで採点者の手元にしか残らなかった情報でした。文部科学省が全国データに基づく誤答例を公開した意味は大きく、出典を明記したうえで教材の素材として活かせます。

条件②だけを取り出して鍛える

「考えも根拠も両方書きなさい」という設問は、負荷が二重にかかります。データが示すのは、多くの学習者が①(考えを書く)は通過できているという事実です。だとすれば、考えの側をこちらで与えて、根拠・理由だけを書かせる設問が有効な足場になります。英語なら結論文を提示して because 以下だけを書かせる、国語なら「この考えを支える一文を本文から選んで、つなげて書く」、数学なら「グラフを使う」と方針を与えたうえで手順だけを書かせる。分解して負荷を下げてから、統合に戻すという設計です。

誤概念に先回りした選択肢と図をつくる

選択式の誤答が一箇所に集中するという発見は、そのまま問題づくりに使えます。「8×8」「1.5目盛り分多い図」「平行の根拠にならない角」——実際に多くの学習者が選んだ誤答を選択肢に据え、なぜそれが誤りなのかを解説で扱う。さらに割合や体積のように、式と図と言葉を往復させる設問(この式が表す場面はどれか、この関係を図に表すとどうなるか)を織り込むことで、手続きの習熟と意味の理解のあいだの溝を埋められます。

経験の回数を、教材の中に確保する

クロス集計が示したのは、引用する・図を使う・証明を読むといった活動の 経験量 が正答率と結びついているということでした。授業時間が限られるなかで、その経験を積む場を教材が用意できるかは大きな論点です。引用して書く場面、図に表して考える場面、他人の証明や説明を読んで検討する場面を、単元のどこに何回置くか——教材の構成そのものが、この調査結果への回答になります。

エデュコンの全国学力調査の類題・学力調査問題の制作では、調査の出題形式に沿った類題・練習問題の制作から、記述式・活用型問題の作成、採点基準の策定、結果分析レポートまで対応しています。誤答の傾向をふまえた問題づくりや、自治体・学校独自の学力調査の作問をお考えのご担当者は、お気軽にご相談ください。

なお、本コラムの数値・正答例・誤答例はいずれも文部科学省・国立教育政策研究所「令和8年度 全国学力・学習状況調査 結果(概要)」(令和8年8月3日公表)に基づいています。調査全体の概要と中学校英語の全面CBT化・IRTスコアの読み方は「令和8年度 全国学力・学習状況調査の結果公表を読む」、一問ごとの正答率・無解答率の分析は「『選択式は解ける、でも書けない』——全国学力調査の問題別結果から見える記述式の壁」で解説しています。報告書の全文および教科別の詳細な分析、授業アイディア例は、国立教育政策研究所のWebサイトで公開されています。

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