「選択式は解ける、でも書けない」——全国学力調査の問題別結果から見える記述式の壁
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令和8年度 全国学力・学習状況調査では、平均正答率などの全体結果とあわせて、一問ごとの正答率を収録した「問題別調査結果」が公表されています。この資料を小学校・中学校、教科横断で読み込むと、平均点からは見えないパターンが浮かび上がります。選択式なら7割解けるのに、自分の言葉で説明する問題になると4割台まで落ち、無解答が激増する。一方で、同じ記述式でも9割の生徒が書けた問題も存在します。この差はどこから来るのか——本コラムでは問題別データを具体的に読み解き、「記述式の壁」の正体と、教材づくりで何ができるかを考えます。
問題別調査結果とは——何がわかる資料か

まず、今回読み解く資料について説明します。
一問ごとの正答率と「出題の趣旨」
問題別調査結果は、調査に出題された全問題について、問題の概要・出題の趣旨・学習指導要領上の位置づけ・問題形式(選択式/短答式/記述式)と、全国の正答率を一覧にした資料です。たとえば中学校国語なら「『ら抜き言葉』であるものを選択する」(正答率85.6%)から「擬態語の効果を書く」(39.3%)まで、15問それぞれに「この問題は何の力を測るのか」が明記されています。平均点だけではわからない「どんな力を測る問題で、どこにつまずいたか」を一問単位で確認できる、指導・教材づくりに直結する資料です。
無解答率という重要なシグナル
正答率と並んで、この資料には 無解答率(答えを書かなかった児童生徒の割合)が載っています。「間違えた」のではなく「そもそも書かなかった」——この数字は問題の難しさとは別の“取り組めなさ”を映すシグナルで、後で見るように記述式の問題で際立って高くなります。なお全面CBT化された中学校英語では、問題ごとに5段階の難易度も付されており、IRT(項目反応理論)を前提とした設計が問題別の資料にも表れています。
どの教科にも共通する「形式の階段」

問題形式ごとの平均正答率を並べると、はっきりした階段が現れます。
選択式→短答式→記述式で下がる正答率
中学校国語では、選択式73.0%・短答式56.1%・記述式45.9%と、一段ずつ下がる見事な階段です。中学校数学では記述式が39.6%まで下がり、小学校算数でも記述式は48.7%と5割を切ります。選択肢があれば正しいものを見分けられるのに、自分で答えを組み立てるとなると途端に難しくなる——どの教科にも共通する構図です。
「思考・判断・表現」の壁
評価の観点別でも同じことが起きています。中学校数学は「知識・技能」の平均正答率63.3%に対し、「思考・判断・表現」は39.6%。個別に見ると、動画のデータ量と時間の関係をグラフから読み取る問題は75.5%できるのに、同じ題材で「データ量が1000MBになるときの時間を求める方法を説明する」となると34.5%に落ち、無解答率は39.0%——3人に1人以上が何も書かずに提出しました。グラフは読める、でも「求め方を言葉で説明する」段になると手が止まる。読み取りと説明のあいだにある深い溝が、数字にそのまま表れています。
「根拠を挙げて」で一段下がる
中学校数学の証明問題も象徴的です。図から証明する事柄の仮定を選ぶ問題は37.5%、三角形の合同を基にした証明の記述は46.6%(無解答21.9%)、度数分布多角形を比較して判断の理由を説明する問題は32.2%(無解答28.5%)。いずれも共通するのは「結論だけでなく、根拠を筋道立てて示す」ことを求めている点です。答えの見当はついても、それを支える論理を言語化する訓練が足りていないことがうかがえます。
ただし「記述式=全滅」ではない——書ける記述と書けない記述

ここで注目したいのは、記述式が一律に低いわけではないことです。
同じ記述式で92.4%と45.4%
中学校国語の記述式3問を並べると、違いは劇的です。「気持ちがより伝わるように、表現を工夫して書く」は92.4%の生徒が書けました。ところが「書いた文章について、交流を基に、よい点や改善点と今後に生かしたいことを書く」は45.4%(無解答10.5%)、「話合いを受けて自分の考えを書く」は53.1%(無解答14.5%)。同じ「書く」でも、自分の言葉で自由に表現する問題は書けるのに、他者の助言や話合いの内容という“条件”を踏まえて書く問題になると半分近くまで落ちるのです。
小学校でも同じ構図
小学校国語でも、「文章を読んで考えたことを、自分の経験と結び付けて書く」は76.5%と高い一方、「集めた情報から抜き出して、考えが伝わるように書く」——つまり引用の問題は33.6%まで下がります。書くこと自体が苦手なのではなく、「与えられた情報や条件を処理しながら書く」ことに壁がある。記述式の中の解像度を上げると、鍛えるべき力がより具体的に見えてきます。
気になる無解答15.4%
もう1つ見逃せないのが、正答率76.5%だった先ほどの問題の無解答率が15.4%もあることです。自分の経験と結び付けて書けば広く正答になる、いわば「書けば通る」問題でも、7人に1人は白紙のまま。内容の難しさではなく、「書き始める」こと自体のハードルが存在する証拠です。
小学校算数——今年も「割合」が壁に

小学校算数の領域別データからは、以前から指摘されてきた壁が今年もはっきり確認できます。
「変化と関係」の正答率は41.4%
領域別の平均正答率は「数と計算」61.3%・「図形」55.5%・「測定」78.2%に対し、割合や単位量あたりの大きさを扱う「変化と関係」は41.4%。「データの活用」も48.8%と5割を切りました。カードを並べて最大の数をつくる問題は94.5%できるのに、割合が絡んだ途端に3〜4割台へ——学力差が最も開く単元がどこかを、データが雄弁に語っています。
式は立てられても「式の意味」が問えない
個別に見ると、二つの広場の混み具合を求める除法の式の意味を選ぶ問題が36.2%、テープの長さの「1.5倍」の関係を正しく表した図を選ぶ問題が34.5%、百分率から基準量を求める問題が53.3%。計算はできても、「その式が何を表しているか」「倍の関係を図に置き換えるとどうなるか」という意味理解を問われると崩れます。手続きの習熟と意味の理解のあいだのギャップは、教材で足場を組むべき典型ポイントです。
二次元表の「条件に合う読み取り」は18.2%
今回の小学校算数で最も正答率が低かったのは、二次元の表から「前半はかるたに参加し、後半はあやとりに参加する人数」のように複数の条件を重ねて読み取る問題で、わずか18.2%でした。同じ「昔遊びの計画」を題材にした隣の設問(前半に使える時間を求める)は78.2%ですから、その差は60ポイント。表やグラフを「見る」ことと、目的に応じて条件を組み合わせて「使う」こととのあいだに大きな溝があります。データ活用が重視されるカリキュラムで、この溝を埋める演習の設計は教材制作の大きなテーマです。
漢字にも表れる「使える知識」の差
なお小学校国語でも似た構図があります。同じ「文の中で漢字を使って書き直す」問題で、「みじか(い)」は80.2%、「ふしぎ」は45.4%。漢字を知っているかどうかだけでなく、日常の書く場面でどれだけ使っているかの差が出たと見ることができます。ドリルでの反復と、文章の中で使う経験——語彙・漢字教材の設計にも示唆のあるデータです。
中学校英語——「読める・聞ける」と「話せる・書ける」の差

全面CBT化で注目された中学校英語も、問題別に見ると発信技能の課題が浮かびます。
受容技能6〜7割、発信技能2〜3割
アナウンスを聞いて必要な情報を選ぶ問題は78.7%、メールを読んで時刻を読み取る問題は72.8%と、「聞く・読む」はおおむね6〜7割。一方で「書く・話す」は、読んだ内容について考えと理由を書く問題が28.4%、学校で普段行うことを説明する英文を書く問題が28.5%、聞いた内容について考えと理由を話す問題が25.8%と、2〜3割台に集中します。理解はできても、自分から英語を産出する力には大きな開きがあります。
同じ「理由とともに話す」でも53.5%と21.5%
発信技能の中にも濃淡があります。「留学生と一緒にしたいことを1つ取り上げ、理由を話す」は53.5%でしたが、「自分のまちを訪れるのにおすすめの季節を1つ取り上げ、理由を話す」は21.5%。同じ「1つ選んで理由を話す」形式でも、話題が自分の日常から離れ、使う語彙や表現の難度が上がると、正答率は半分以下になります。産出練習を「言いやすい話題」だけで終わらせず、話題と表現のレベルを段階的に広げる設計が必要だとわかります。
電話でのやり取り——即応の難しさ
「話すこと」調査では、電話でのやり取りの場面で天気を伝える・予定を伝える・依頼するといった課題が出され、正答率は32〜42%、無解答率は9〜13%でした。読み上げ原稿のない、相手に応じたリアルタイムの発話は、練習の機会そのものが少ない領域です。無解答率が話す問題全体で1〜2割ある——マイクを前に何も話せなかった生徒が確実にいることは、重く受け止めるべきデータです。
無解答率をどう読むか

無解答率の高い問題を並べると、共通点が見えてきます。
無解答率ワーストに並ぶ顔ぶれ
中学校数学「求め方の説明」39.0%、「度数分布多角形による説明」28.5%、「A−Bの値の性質の説明」26.1%、「証明」21.9%。中学校国語「文脈上の意味の抜き出し」19.5%、「擬態語の効果」18.3%。英語「考えと理由を話す」17.0%——上位はすべて記述式・口述式です。しかも正答率が最低だった問題と無解答率が最高だった問題は必ずしも一致せず、「難しいから書けない」だけでは説明できません。
「書く前に手が止まる」問題の共通点
無解答が多い問題に共通するのは、何をどの順で書けばよいかの型が見えにくいこと、部分点が見えない自由記述であること、そして解答欄が大きいことです。誤答なら「どこで間違えたか」を分析できますが、無解答は手がかりすら残りません。子どもの側から見れば「最初の一歩が踏み出せない」状態であり、指導・教材の側から見れば最初の一歩を設計できていない状態だとも言えます。
無解答は「学力」だけの問題ではない
同時に公表された質問調査では、課題解決に自分から取り組む児童生徒ほど正答率が高い傾向が示されていました。先ほど見たとおり、「書けば広く認められる」問題ですら無解答が15%ある——無解答の多さは知識の不足だけでなく、「途中でも書いてみる」姿勢と経験が育っているかの反映でもあります。とりあえず書き始められる子を育てることは、採点技術ではなく日常の演習設計の課題です。
教材づくりへの示唆
最後に、この問題別データを教材制作の視点でどう受け止めるかをまとめます。
「書ける記述」から「条件付きの記述」へ段階を組む
データが示すとおり、子どもは「自由に書く」ことは意外にできます(92.4%・76.5%)。落ちるのは、他者の意見・引用・根拠といった条件を処理しながら書く問題です。だとすれば教材の記述練習は、①自由に書く→②型に沿って書く→③資料を引用して書く→④根拠を挙げて説明する、と条件の負荷を一段ずつ上げる構成が理にかなっています。「いきなり自由記述」でも「いきなり条件付き」でもなく、負荷の階段を教材側が設計することです。
「よい解答の条件」と惜しい誤答例を見せる
記述式に強くなるには、書いた後のフィードバックが欠かせません。模範解答だけでなく、「この要素が入っていれば正答」という条件、そして惜しい誤答例とその直し方を見せることで、子どもは自分の解答を自分で点検できるようになります。無解答対策としても、「完璧でなくても、ここまで書けば部分的に認められる」と見えることが、書き始めるハードルを確実に下げます。先生の採点負担を軽くする意味でも、解答解説の作り込みが最も効く部分です。
意味理解の足場は「図と言葉の往復」で
小学校算数の割合・単位量のデータが示すのは、手続き(計算)と意味(何を表す式か)の乖離でした。式・図・言葉を往復させる問題——「この式が表している場面を選ぶ」「この関係を図に表す」「図を見て式の意味を説明する」——を教材に織り込むことで、「解けるが説明できない」状態から「説明できるから応用が利く」状態への橋を架けられます。
発信技能は「機会の設計」から
英語の話す・書くが2〜3割台という結果は、テスト対策だけでは動きません。授業・家庭学習のなかで英語を出力する回数そのものを増やす——音読からリテリング、条件付きライティング、録音して聞き直すスピーキング練習まで、機会を仕組みとして教材に組み込むことが、遠回りに見えて最短の道です。話題と表現の難度を段階的に上げる設計(53.5%と21.5%の差を埋める設計)も含めて、デジタル教材が最も力を発揮しやすい領域です。
なお、調査全体の概要や中学英語の全面CBT化・IRTスコアの読み方は、前回のコラム「令和8年度 全国学力・学習状況調査の結果公表を読む」で解説しています。本コラムの数値はいずれも文部科学省・国立教育政策研究所「令和8年度全国学力・学習状況調査 問題別調査結果」(小学校・中学校、令和8年7月)に基づいています。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。





















