
2026年9月25日、中央教育審議会の教育課程企画特別部会に、次期学習指導要領に向けた「審議まとめ(案)」が示されました。学習指導要領の審議ですが、案は第1部の終盤に「高等学校入学者選抜の在り方」という節を設け、高校入試、とくに都道府県教育委員会などが行う公立高校入試の見直しの方向性を示しています。知識を単純に問う出題を減らすこと、採点にAIを含むデジタル技術を活用すること、作問の負担を都道府県間の連携で軽くすること、学力検査や調査書を用いない選抜を明確にするための省令(学校教育法施行規則第90条)の在り方の検討、そして受入保留(DA)アルゴリズムの扱い。いずれも、入試問題をつくり、採点する側の実務に直結する論点です。本コラムでは、関係する条文や経緯も確認しながら、入試問題制作の視点で整理します。
なぜ学習指導要領の審議で「高校入試」なのか
入試が変わらなければ、授業も教科書も変わらない
案は、児童生徒の学びは入試のためのものではないとしつつ、「入試の在り方は、教師の指導の在り方や児童生徒の学びに対する向き合い方に大きな影響を与えることは否定できない」と書いています。次期学習指導要領は、内容を精選し、教科書を網羅的に教えるのではなく「深い学び」のための余白をつくることを重要な方策に掲げています。ところが、入試を背景にした保護者の懸念や要望が、教科書を網羅的に指導するという認識につながっているとの指摘がある。だから、教科書の改善の実効性を担保する観点からも入試の改善が必要だ、という論理です。
この問題意識は教科ごとの章にも繰り返し出てきます。社会科の章は、断片的な知識の習得中心の授業が残る背景として「高校入試改革等が道半ばであること」を指摘する声があると書き、理科の章は、学習指導や教科書の改善を実効性あるものにするには「高等学校入試の改善を一層進めていく必要がある」としています。
平成5年の通知から続く課題
文部科学省は、平成5年2月22日付の文部事務次官通知「高等学校の入学者選抜について」で、中学校の教育課程の趣旨に即した入試の改善を求め、その後も選抜方法の多様化を進めてきました。案はそのうえで、なお残る課題を2つに整理しています。
1つは学力検査です。質的な改善は一定程度進んだものの、「個別の知識を単純に問う出題も依然残って」おり、出題方法や出題全体のバランスの改善が必要だとしています。もう1つは多様な選抜方法で、不登校、特異な才能や障害、外国籍など多様な背景をもつ生徒の大幅な増加、高校の特色化・魅力化、少子化・過疎化を踏まえ、取組をさらに広げる必要があるとしています。脚注には、少子化で入試倍率が下がり、質的改善を行いやすい環境になったとの見方もある、と記されています。
見直しの方向①:出題の質を上げる

概念の本質的な理解と、思考力・判断力・表現力を問う
学力検査の改善として案が挙げるのは、「個別の知識の記憶を単純に問うのではなく、主要な概念の本質的な理解を問う出題の充実や、思考力・判断力・表現力等を問う出題の一層の充実」です。その課題の整理を国として支援すべきだとしています。
次期学習指導要領は、各教科の内容を「統合的な理解・総合的な発揮」という考え方で構造化し、個別の知識を概念として深く理解することを重視しています。入試の出題も、その考え方にそろえていくということです。
出題方針の公表、作問解説、分析結果の共有
もう1つの柱が、入試を出題して終わりにしないことです。案は、都道府県教育委員会などの中学校担当と高校担当の部署が連携し、出題方針の公表、作問解説、県全体・各学校の分析結果の共有などを進めることで、中学校の授業改善や進路選択、高校入学後の学習の充実につなげることを検討すべきだとしています。どんな力を測りたくてその問題を出したのかを、公表し説明していく方向です。
見直しの方向②:採点と作問の負担を減らす
採点にAIを含むデジタル技術を
案は、「採点等でのAIを含むデジタル技術の活用や、負担軽減に係る取組を促進すべき」としています。脚注では、作問や採点の負担が指導主事や学校現場の協力者の本務を圧迫しているとの指摘があること、高校の特色化・魅力化を踏まえた選抜を求める声もある中で、実施者の負担軽減もあわせて検討する必要があることに触れています。
案の入試の節は記述式に触れていませんが、一般に、思考力・判断力・表現力を問う記述式の出題を増やせば、採点の負担と採点ミスのリスクは大きくなります。出題の質を上げることと、採点の負担を減らすことを同時に求めているのが、この節の特徴です。
都道府県をまたいだ作問の連携
さらに案は、都道府県間で作問負担の軽減についてどのような連携・協力が可能か、国としてどのような支援が必要かも検討するとしています。公立高校(公立大学法人が設置する高校を除く)の学力検査は、学校教育法施行規則第90条第5項により、その高校を設置する都道府県または市町村の教育委員会が行うことになっています。各自治体がそれぞれ作問体制を抱えている現状に対して、都道府県の枠を越えた連携の可能性に触れた記述です。
見直しの方向③:多様な選抜と、施行規則第90条

スクール・ポリシーに沿った多様な選抜方法
多様な選抜方法の拡充として、案は、高校の特色化・魅力化の観点から、スクール・ミッションやスクール・ポリシーを踏まえた多様な選抜方法を導入する場合の方法や留意事項を整理すべきだとしています。各教科や総合的な学習(探究)の時間で培った力を生かした自己PRやプレゼンテーションを取り入れている自治体もある、と脚注で紹介しています。
多様な生徒の個性・特性を踏まえた選抜のための留意事項も整理するとしています。案の別の章では、不登校の生徒のために新設が提案されている「特別の教育課程」について、そこでの評定を調査書に積極的に記載し、高校入試で一定程度勘案したり、学力検査を重視するパターンと調査書を重視するパターンを生徒が選べるようにしたりする選抜方法の検討を促すことなどが考えられるとしています。障害のある生徒については、文部科学省の「高等学校入学者選抜における受検上の配慮に関する参考資料」に、デジタル学習基盤の活用を含む配慮例を加えるなどの見直しも検討するとしています。
第90条は何を定めているか
案は最後に、学力検査を行わない選抜や調査書を用いない選抜を、生徒や地域の実情に応じて実施できることが明確になるよう、学校教育法施行規則第90条の規定の在り方も検討すべきだとしています。
現行の第90条第1項は、高校の入学は「調査書その他必要な書類、選抜のための学力検査(中略)の成績等を資料として行う入学者の選抜に基づいて、校長が許可する」と定めています。第2項は「学力検査は、特別の事情のあるときは、行わないことができる」、第3項は「調査書は、特別の事情のあるときは、入学者の選抜のための資料としないことができる」です。つまり、いまでも学力検査や調査書を用いない選抜は「特別の事情」があれば可能です。案が問題にしているのは、その位置付けが例外扱いであることで、学校や地域の実情に応じて選べる選択肢であることを明確にする方向と読めます。
なお案は、ここまでの改善策の全体について、入学者選抜の実施方法は実施者である教育委員会などの責任で決めることを前提とし、まずは都道府県教育委員会などと丁寧に意見交換しながら検討する必要がある、という留保を付けています。
DA方式(デジタル併願制)は「別途丁寧に検討」
2025年4月の首相指示から
公立高校入試をめぐっては、受入保留(DA)アルゴリズムを使った併願制、いわゆる「デジタル併願制」も議論になってきました。受験生が複数の公立高校を志望順に出願し、共通試験や内申点などをもとにした各校の評価と志望順位から、合格ラインを越えた中で最も志望度の高い高校に進学先を割り当てる仕組みです。
2025年4月22日のデジタル行財政改革会議で有識者構成員が単願制の問題を指摘してDA方式の導入を提案し、石破茂首相(当時)が、メリットや現場の課題を考慮し、希望する自治体での事例創出の具体化を図るよう関係大臣に指示しました。あべ俊子文部科学大臣(当時)は4月25日の会見で、生徒の多様な個性と能力が十分に評価されるか、学校の特色・魅力が損なわれないか、専門高校に影響がないかといった課題を挙げ、自治体・高校関係者の意見を聞きながら丁寧に検討するとしていました。
案は結論を出していない
今回の案は、DA方式について脚注で、「メリットや課題を整理し、自治体・高校関係者の意見も踏まえ、別途丁寧に検討する必要」があると書くにとどめています。方向性は示さず、別途検討するとしています。
入試問題をつくる側から見た論点

「作問解説」を書ける問題か
出題方針の公表や作問解説が標準になれば、問題には「何の力を、どの設問で、どう測るのか」を説明できる設計が求められます。これは公立高校に限った話ではありません。中学校の授業や進路指導が公立入試の出題方針を手がかりに組み立てられるようになれば、私立高校の入試にも同じ説明が期待されるようになるでしょう。出題の意図と評価の観点を、作問の段階から文書として残しておくことが、これまで以上に重要になります。
思考力を問う出題と、採点のしやすさを両立する
概念の理解や思考・判断・表現を問う出題を増やしながら、採点の負担は減らす。この2つを両立させる鍵は、採点基準の設計にあります。記述式でも、何が書けていれば何点かを事前に明確にしておけば、採点者によるぶれは抑えられ、AIを含むデジタル技術での採点支援にも乗せやすくなります。出題ミスや採点ミスは、多くの場合、作問・点検の仕組みの弱さから生まれます。その類型と防止策は入試の出題ミスはなぜ起きる?で、点検の観点は入試問題の校正・校閲チェックリストでまとめています。
作問体制をどう確保するか
案の同じ節には、作問・採点の負担が本務を圧迫しているという指摘と、都道府県間の連携の検討が並んでいます。出題の質を上げるための専門性と、繁忙期に集中する作業量をどう確保するか。自治体間の連携のほかに、作問・点検の一部を外部の専門家と分担することも、選択肢の1つとして考えられます。
よくある質問(FAQ)
高校入試から学力検査がなくなるのですか?
いいえ。案は、学力検査を行わない選抜や調査書を用いない選抜を、生徒や地域の実情に応じて実施できることが明確になるよう、学校教育法施行規則第90条の在り方を検討すべきとしたものです。現行でも、特別の事情があるときは学力検査を行わないことができ、調査書を資料としないこともできます。
DA方式(デジタル併願制)は導入されますか?
決まっていません。案は、メリットや課題を整理し、自治体・高校関係者の意見も踏まえて「別途丁寧に検討する必要」があるとしています。
入試の採点にAIが使われるようになるのですか?
案は、採点等でAIを含むデジタル技術の活用を促進すべきとしています。ただし、入学者選抜の実施方法は実施者である教育委員会などが決めるもので、具体的な導入の時期や方法は示されていません。
いつから変わりますか?
案に、入試の見直しの時期は示されていません。案は、都道府県教育委員会などと丁寧に意見交換を行いながら検討する必要があるとしています。
私立高校の入試も対象ですか?
学校教育法施行規則第90条は、国公私立を問わず、高等学校の入学者選抜と入学許可の基本を定める規定です(第5項のみ公立高校が対象)。一方、出題の改善や作問連携の記述は、都道府県教育委員会などが実施する公立高校の学力検査を主に念頭に置いています。
まとめ
審議まとめ(案)は、高校入試を学習指導要領の改訂と「軌を一にした改善」が不可欠な接続点と位置付けました。そのうえで、個別の知識の記憶ではなく概念の理解と思考・判断・表現を問う出題の充実を国として支援すること、出題方針の公表・作問解説・分析結果の共有を検討すること、採点へのAIを含むデジタル技術の活用と負担軽減を促進し、都道府県間の作問連携の可能性も検討すること、学力検査や調査書を用いない選抜を必要に応じて実施できることが明確になるよう第90条の在り方を検討すること、という方向を示しました。DA方式は別途検討するとしています。いずれも「案」の段階で、実施方法は教育委員会などとの意見交換を経て決まっていきます。
入試問題をつくる側から見れば、求められるのは出題の意図を説明できる設計、採点基準まで含めた作問、そして作問・点検体制の見直しです。
エデュコンは、中学・高校・大学の入試問題の作成と、出題ミスを防ぐ校正・校閲・点検を承っています。出題方針の整理や作問体制の見直しについても、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
入試問題の傾向分析から、最新の学習指導要領(情報Iなど)への対応まで、現場の声を反映した「使いやすく、効果の出る教材」づくりを徹底サポートしています。
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