人工知能学会の提言を読む──「国語・算数を削って情報を増やす」は誤解なのか。授業時数の再編と教科間連携
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2026年10月13日、人工知能学会が「次期学習指導要領策定に向けた提言〜情報教育の質的転換とAI時代におけるリテラシー育成の推進〜」を公表しました。中央教育審議会の審議まとめが示した、小学校の「情報の領域」と中学校の「情報・技術科」の新設、そのための時数を各教科から「一律3〜4%程度」減らして確保するという方向について、学会として評価と注文を述べたものです。9月下旬に時数の削減案が報じられると、SNSなどでは「国語や数学を削ってAIを教えるのか」という反発が広がりました。提言はこれに対して、「単に情報のために国語や算数・数学の授業時間を削るべきではない、といった議論は、今回示されている方向性を誤認した指摘」とはっきり書いています。本コラムでは、1ページの提言本文を5つの柱に沿って読み、時数が実際にどれくらい動くのかを試算したうえで、教材づくりに何が求められるかを整理します。
この記事の要点
- 人工知能学会は2026年10月13日、次期学習指導要領に向けた提言を公表し、小3〜中3の各教科等から一律3〜4%程度の時数を「情報」関係教科へ振り分ける方策を、分散した情報教育の集約・体系化として評価した
- 各教科で重複しているタイピング・プログラミング・グラフ作成・発表資料づくりを情報関係教科にまとめれば、国語や算数は本質的な学習に時間を使えるという論理で、「国語や算数・数学を削るな」という議論は方向性の誤認だとしている
- プログラミングは職能スキルではなくAIを使いこなすための「プログラミング的思考」を育てる手段とし、生成AIは禁止せず情報関係教科や道徳で付き合い方を教えるべきだと提言。教員・保護者向けのAIリテラシー教育の拡充も求めた
- 3〜4%は小3〜中3の国語の合計で約37〜49コマ、算数・数学で約33〜43コマにあたる(筆者試算)。教科の教材は情報で学んだことを「参照」する設計が、情報の教材は他教科で使われる前提の設計が必要になる
提言の全体像──5つの柱

審議まとめを受けて出された提言
提言は「はじめに」で、中教審の教育課程部会の審議まとめ(2026年10月5日)が、情報活用能力の抜本的な向上に向けて小学校から高等学校まで情報教育を体系的・系統的に充実させるとしたことを確認しています。小学校では総合的な探究の時間に「情報の領域」を加え、中学校では「情報・技術科」として大幅に充実させ、高等学校の情報科の内容もさらに充実させる。その方向を前提に、授業時数の再編、情報教育の質の向上、生成AI時代のリテラシー教育について提言する、という構成です(審議まとめの中身は小学校「情報の領域」・中学校「情報・技術科」で何を学ぶのかで解説しています)。
5つの提言
本文は5項目からなります。
1. 情報教育の充実を通じた各教科の学びの充実:一律3〜4%程度の時数を「情報」関係教科へ割り振る方策を、情報教育の集約・体系化として評価する
2. 情報教育の本質追求と「プログラミング的思考」の育成:プログラミングは職能スキルのためではなく、AIを主体的に使いこなすための思考を培う手段と位置付ける
3. 「情報」関係教科を核とした教科間連携と学習効果の相乗化:国語や算数・数学の授業で情報関係教科の学習内容を参照・応用する
4. 生成AIの普及に対応したリテラシー・道徳教育の明確化:利用を一律に禁止せず、情報関係教科や道徳でAIとの望ましい付き合い方を教える
5. 教員および保護者を対象としたAIリテラシー教育プログラムの早期拡充
最後の「おわりに」では、情報教育を「単なるスキルの付け足しではなく、AI時代を生き抜く論理的思考と道徳的判断力を育む中核」として位置付けるよう求めています。
「一律3〜4%」とは何か

審議まとめが示した時数の確保の仕方
新しい教科・領域の時数をどこから捻出するかについて、審議まとめは、必要な時数を各教科等の標準授業時数に応じて同じ考え方で減らして確保し、小学校3年以上で現在35コマ以下の教科等からは減らさない、としています。そのうえで「一律で3-4%程度の時数を言わば『広く薄く』減ずることとなると考えられる」という見通しを示しました。標準総授業時数そのものは現行を維持し、教科ごとの具体的な時数はこれから示される段階です。
提言の注記によれば、小学校で減らす対象になるのは、国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭、体育、総合的な学習の時間です。新しい側は、小学校の「情報の領域」が3・4年で各学年最大30コマ程度、5・6年で最大35コマ程度、中学校の「情報・技術科」が1・2年で最大70コマ程度、3年で最大35コマ程度(現行の技術分野を含む)とされています。
国語・算数では何コマにあたるか

「3〜4%」がどのくらいの量なのか、現行の標準授業時数で試算してみます(1単位時間=1コマとして計算)。
- 国語:小3・小4が各245、小5・小6が各175、中1・中2が各140、中3が105。小3〜中3の合計は1,225で、3〜4%は約37〜49コマ
- 算数・数学:小3〜小6が各175、中1が140、中2が105、中3が140。合計は1,085で、3〜4%は約33〜43コマ
1学年あたりにならすと、国語でも算数でも年に5〜10コマ前後です。単元をまるごと1つ削るほどではないものの、「どこかで何かを減らす」ことは避けられない量です。各教科の具体的な時数はまだ決まっていないので、これは現行の時数に一律の割合をかけた目安にすぎません。
なぜ反発が起きたのか
9月25日の審議まとめ案で「各教科3〜4%削減」が報じられると、「国語や数学を減らすのは本末転倒だ」という趣旨の反発がSNSやネットメディアで相次ぎました。数字だけを見れば、国語と算数から時間を取り上げてAIやプログラミングに回す、と読めてしまうからです。人工知能学会の提言は、この受け止め方そのものに異を唱えるものでした。
学会の答え1:散らばった情報教育を集める

各教科で「似たことを、ばらばらに」やっている
提言の第1項は、現状の課題をこう書いています。タイピングやプログラミング、グラフ作成、発表資料の作成・整理といった教育内容が、各教科で十分に関連付けられることなく類似・重複して行われている。たとえば、表計算ソフトでグラフを作る方法を社会と理科と算数でそれぞれ教えていたり、発表スライドの作り方を学年ごとに別の教科で教え直していたりする、という状態です。
これらを「情報」関係教科でまとめて、ICTの賢い使い方を体系的に教えれば、国語や算数など他の教科は本質的な学習に十分な時間を割けるようになる。提言はこの理屈で、一律3〜4%の方策を「各教科に分散している情報教育の集約・体系化として評価できる」としています。時間を削るのではなく、重複を整理して置き場所を変える、という見方です。
審議まとめでも「引っ越す」内容がある
この考え方は、審議まとめの設計とも一致しています。審議まとめでは、国語のローマ字入力、算数の正多角形のプログラミング、理科のセンサーを使ったプログラミング、社会の「産業と情報」といった内容が、新しい情報の領域へ移る方向が示されています。教科の側から見れば、時数が減るのと同時に、扱う内容も一部が外へ出ていくということです。
学会の答え2:プログラミングは「職能」ではなく「思考」の手段

情報教育の目的は「問題解決の筋道」
提言の第2項は、情報教育の目的を、機器やツールの操作の習得やプログラミングスキルの向上ではないとしています。本来の目的は、解くべき問題が何で、何が目的なのかを自分でつかみ、そのために必要なデータを集め、データから有用な情報を取り出して分析するといった、問題解決に必要な論理的思考力を養うことだ、という整理です。
生成AIがコードを書く時代だからこそ
そのうえで、生成AIがプログラムを自律的に作れる時代には、プログラミング学習を「将来の職能スキル獲得」のためではなく、AIを主体的かつ高度に使いこなすために必須となる「プログラミング的思考」を培う手段として位置付け直すべきだ、としています。コードを書く作業そのものはAIに任せられても、何をさせたいのかを分解して指示し、出てきた結果が正しいかを確かめるには、手順を組み立てる考え方が要る、という問題意識です。
学会の答え3:教科間連携で「学ぶ意義」をつくる

国語との接点:引用・出典・信頼性
提言の第3項は、情報関係教科で培う情報活用能力や論理的思考力は、国語や算数をはじめとする従来の教科にも欠かせない基盤だとしています。例に挙げられているのは、長文の論理的な展開をつかむこと、複数の媒体を比べることや発信者の意図を確かめることなどのメディアリテラシーです。これらは、国語で学ぶ引用や出典の示し方、情報の信頼性を確かめる学習と深く関わります。
算数・数学との接点:統計的な問題解決
調査データの分析に関わる学びは、算数・数学で学ぶ統計的な問題解決と深く関わる、とも書かれています。表やグラフからデータを読み、目的に沿って判断する力は、どちらの教科でも使うものです。
「削られた」のではなく「つなぎ直す」
提言はここで、「単に情報のために国語や算数・数学の授業時間を削るべきではない」という議論を、方向性を誤認した指摘だと言い切っています。情報関係教科で力をつけたうえで、国語や算数・数学の授業の中で情報関係教科の学習内容を適宜参照・応用しながら指導を進めることで、子どもが「学ぶ意義」を実感しやすくなり、教科間で知識を切り分けるだけでは得られない相乗効果が期待できる、という主張です。
もっとも、提言は1ページの意見表明で、時数を動かしたときの学力への影響を示すデータを伴うものではありません。教科の時間が実際に減る以上、どの単元をどう組み替えれば本質的な学習を守れるのかは、各教科の具体的な時数が示されたあとで、教科ごとに検証される必要があります。
生成AIは「禁止」より「教える」

学校で禁止しても、学校の外で触れる
提言の第4項は、生成AIへの依存を心配して、海外の一部都市(ニューヨーク市の小中学校など)のように利用を禁止する措置も考えられる、としたうえで、子どもが学校の外で過ごす時間を考えれば、学校を離れた場所で無計画にAIに触れるリスクは避けられないと指摘します。そのため、学校でAI活用のリテラシーや倫理を教えないことは、かえって無責任だとしています。安易に排除するのではなく、「AIを使いこなす力」が身に付くよう、情報関係教科や道徳に、AIとの望ましい付き合い方や規範意識を組み込むべきだ、という提言です。
学校での生成AIの扱いについては、文部科学省のガイドラインがすでに、一律に禁止するのではなく発達の段階や場面に応じて使うという考え方を示しています(学校の生成AI活用)。提言はそれを、教科の中身として位置付けるよう求めた形です。
教員・保護者向けのプログラムを急ぐ
第5項は、子どもへのリテラシー教育を実効性のあるものにするには、指導する教員と、家庭で子どもを見守る保護者の理解と対応力が欠かせないとしています。子どもへの教育と並行して、教員・保護者向けのAIリテラシー教育プログラムを早急に拡充するよう求めました。教える側の大人が追いついていなければ、教科の中に位置付けても授業にならない、という指摘です。
教材づくりへの示唆

教科の教材は「参照する」設計が要る
提言の言う教科間連携が実現すると、国語や算数・数学の教材は、情報関係教科で学んだ操作や考え方を前提として参照する作りになります。グラフの作り方を一から教える代わりに、「情報の時間に作ったグラフを使って考えよう」と始める。そのためには、情報の側で何年生のいつ何を学ぶのかを、教科の教材を作る側が把握していなければなりません。学年・時期の対応表を持ち、どこで既習事項を呼び出すかを設計に入れておく必要があります。
情報の教材は「他教科で使われる」前提で
逆に、情報関係教科の教材は、そこで完結するのではなく、国語や算数・社会・理科の題材で使える形であるほど価値が上がります。データ分析の練習に教科の題材を使う、発表資料づくりを他教科の学習のまとめと結びつける、といった設計です。時数が限られた新しい教科・領域では、操作の練習だけで時間を使い切らないよう、「何のために使うのか」が見える教材が求められます。
AIリテラシー教材は大人向けにも
提言が教員と保護者を名指ししたことは、教材の対象が子どもだけではないことを示しています。教員研修の資料、保護者会で配る説明資料、家庭で子どもと一緒に読めるガイドなど、大人向けのAIリテラシー教材の需要は、今後さらに増えていくと考えられます。
よくある質問(FAQ)
人工知能学会の提言はいつ、どんな内容で出されたのですか?
2026年10月13日に公表されました。次期学習指導要領に向けて、①情報教育の充実を通じた各教科の学びの充実、②プログラミング的思考の育成、③教科間連携による学習効果の相乗化、④生成AIのリテラシー・道徳教育、⑤教員・保護者向けAIリテラシー教育の拡充、の5項目を提言しています。
国語や算数の授業時間は本当に減るのですか?
審議まとめでは、新しい教科・領域の時数を、小学校3年以上の各教科等(現在35コマ以下のものを除く)から一律3〜4%程度減らして確保する見通しが示されています。各教科の具体的な時数はまだ示されていません。現行の時数で試算すると、小3〜中3の合計で国語は約37〜49コマ、算数・数学は約33〜43コマにあたります。
学会は「国語や算数を削ってよい」と言っているのですか?
いいえ。提言は、各教科で重複しているタイピングやプログラミング、グラフ作成などを情報関係教科にまとめることで、国語や算数はむしろ本質的な学習に時間を割けるようになる、という立場です。「情報のために国語や算数・数学を削るべきではない」という議論は、この方向性を誤認したものだとしています。
生成AIは学校で使わせない方がよいのですか?
提言は、利用を禁止しても学校の外で触れるリスクは避けられないため、学校でAI活用のリテラシーや倫理を教えないことはかえって無責任だとしています。情報関係教科や道徳で、AIとの望ましい付き合い方を教えるべきだという立場です。
まとめ
人工知能学会の提言は、情報教育の時数を各教科から一律3〜4%程度ずつ確保する方策を、「削る」話ではなく、各教科に散らばった情報教育を集めて整理し直す話として評価しました。プログラミングはAIを使いこなすための思考を育てる手段、生成AIは禁止より教える対象、そして教える側の大人にもリテラシー教育が要る、というのが提言の骨格です。
ただし、教科の時間が実際に減ることに変わりはなく、その分をどう取り戻すかは、教科間の連携が設計どおりに働くかにかかっています。教材の側では、教科の教材が情報で学んだことを参照する設計、情報の教材が他教科で使われる設計が、これまで以上に求められます。エデュコンでは、高校「情報」(情報I・情報II)の教材・問題制作やデジタル教材制作で、教科と情報をつなぐ教材づくりにも対応しています。
本コラムは、人工知能学会「次期学習指導要領策定に向けた提言〜情報教育の質的転換とAI時代におけるリテラシー育成の推進〜」(2026年10月13日)と、中央教育審議会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(2026年10月5日)をもとにしています。時数の試算は、学校教育法施行規則に定める現行の標準授業時数に3%と4%をかけて筆者が算出したものです。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。
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