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コラム

デジタル教科書に字幕・速度調整が「標準装備」へ──2026年8月に示されたアクセシビリティ方針

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ICT教育・GIGA

2026年8月18日、文部科学省の検討会議で、これからのデジタル教科書に「字幕表示」と「再生速度調整」を標準の機能として組み込む方針が示されました。聞こえにくい子、通常の速度では内容を追いきれない子が、動画や音声の中身に届くようにするためです。一部の教科書会社が任意で用意する機能ではなく、どの教科書を選んでも入っている「標準装備」にしようという話であることが、この方針の重要な点です。本コラムでは、教材・問題制作の現場の視点から、その内容と背景を一次資料にもとづいて整理します。(導入検討の全体像はデジタル教科書の導入検討はいまをご覧ください。)

2026年8月、何が示されたのか

検討会議の第5回で議題になった

文部科学省の「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議」の第5回が、2026年8月18日に開かれました。議題の一つが「障害等による学習上の困難の軽減について」で、事務局資料(資料3)と、東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫教授へのヒアリングが行われています。この検討会議は2026年4月に始まり、秋ごろの指針とりまとめをめざして議論を重ねているものです。

新たに標準実装される2つの機能

事務局資料に示されたのは、次の2つです。ひとつは再生速度調整機能で、再生速度を段階的に調整できることを求めるもの。具体的な調整幅は検討中とされています。もうひとつは字幕表示機能で、再生される音声に合わせて字幕を表示することを求めるものです。資料では、これらが「通常の再生速度では内容の理解が困難な児童生徒や、聴覚障害のある児童生徒の理解に資する」と説明されています。

いつ決まり、いつ使われるのか

具体的な中身は、令和7年度補正予算による「デジタル形態を含む教科書の標準仕様等に関する調査事業」のなかで、教科書発行者・配信事業者・学校現場の関係者・有識者が検討・協議し、テスト開発によるコスト試算も踏まえたうえで、2026年度内に策定される新しい標準仕様書で決まります。実際に「デジタルな形態を含む教科書」が使われ始めるのは、次期学習指導要領が小学校で全面実施となる2030年度からの見込みです。

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「標準仕様書」があると何が変わるのか

機能を「あったらいいね」から「必ず入っているもの」に変える

標準仕様書とは、デジタル教科書と、それを開くビューア(Webアプリケーション)が満たすべき要件を国がまとめた文書です。現行の標準仕様書でも、アクセシビリティに関する要件として、拡大/ルビ振り/色反転/リフロー表示/音声読み上げなどの標準実装が求められています。このほか機能要件としてアカウント管理やライセンス管理・SSO認証、ナビメニューのUI標準化、他システム連携、ログ管理が、非機能要件として24時間365日の稼働やBCP対策、同一ビューアの場合の転出入時のデータ移行などが定められています。

つまり、字幕と速度調整は「ゼロから新しい配慮を始める」話ではなく、すでに機能している仕組みに、動画・音声という新しい中身の分を足す話だということです。

「どの教科書を選んでも使える」という安心

もしアクセシビリティ機能が各社の任意だったら、採択のたびに「この教科書を選ぶと、あの子が使えなくなるかもしれない」という心配がつきまといます。標準仕様書で最低ラインを揃えておけば、教育委員会や学校は内容の良し悪しで教科書を選べます。配慮が必要な子にとっては、担任や自治体が変わっても機能が消えない、ということでもあります。

資料でも、現行の標準仕様書に定めるアクセシビリティ機能について引き続き標準実装を求める方向で検討中、と明記されています。なお、各社のビューアが独自に上乗せしている機能(背景色・文字色を複数パターンから選べる、リフロー表示中に文字・背景色を変えられる等)もあり、標準はあくまで「下限」です。

なぜ今、字幕と速度調整なのか

動画・音声が「教科書の中身」になるから

2026年6月10日、学校教育法等の一部を改正する法律が成立しました。施行期日は2027年(令和9年)4月1日です。これにより、これまで紙だけだった教科書に、デジタルを取り入れて作成することが可能になります。ネイティブ音声や実験動画が、二次元コードの先にある「教材」ではなく、教科書そのものの内容として扱われ、検定の対象にもなります。

この変化が、アクセシビリティの意味を変えます。動画や音声が教科書の本文と同じ位置づけになるなら、それが聞き取れない・追いつけないことは、「教科書が読めない」のと同じことになるからです。字幕と速度調整の標準化は、その帰結として出てきた話です。

速度調整は「聞こえ」だけの話ではない

再生速度の調整というと、聴覚に関する配慮だと思われがちですが、実証研究の現場ではもっと広く使われています。文部科学省の実証研究事業で担当教員に行われたヒアリングでは、発達障害等で文字での理解に困難がある児童生徒が、速度を調整しながら音声読み上げを併用することで、自分のペースで学習できたという実践例が報告されています。弱視の児童生徒が、視覚補助具を使わずに紙面を拡大して学習できた例も同様です。

一つの機能が一人のためにあるのではなく、複数の困難に効く――アクセシビリティ機能の設計を考えるうえで、押さえておきたい感覚です。

障害の種類ごとに、効く機能は違う

事務局資料には、これまでの実証研究にもとづく整理も示されています。視覚障害では、色変更(自分が読みやすいように文字や背景色を変更する)、拡大、朗読・音声読上げ(音声により内容を把握する)が挙げられています。聴覚障害では、朗読・音声読み上げとルビ。読み上げ箇所のハイライト機能で「いま読んでいる場所」が分かること――つまり聴覚活用と視覚からの情報処理を組み合わせることが、期待効果として挙げられている点が特徴です。聞こえにくさから語彙が学年相応より少なくなりやすいため、漢字にルビを振って語彙の不足を補うという考え方です。発達障害・知的障害では、拡大(注目すべき対象以外を排除して課題に集中させる)、指定のページを開かせやすくするジャンプ機能、大型提示装置等での表示が挙げられます。肢体不自由では、朗読・音声読み上げのほか、大型提示装置に教師が書き込んで共有することで、書く量を減らし、考える時間を長めに確保できるとされています。

これらは、令和3~7年度「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」の成果報告書と、「学習者用デジタル教科書実践事例集」(2022年3月)にもとづくものです。

それでも足りない子へ──デジタル版の「教科用特定図書等」

教科書バリアフリー法も一緒に改正された

これまでも、拡大教科書や点字教科書といった「教科用特定図書等」が、教科書に代えて無償で使える仕組みがありました(教科書バリアフリー法)。今回、学校教育法等と併せてこの法律も改正されました。「デジタルな形態を含む教科書」では学習上の困難が十分には解消されない児童生徒を対象に、デジタル版の教科用特定図書等を無償給与する方向で検討が進んでいます。

一般の教科書より高いアクセシビリティを

デジタル版の教科用特定図書等は、デジタルな形態を含む一般の教科書と比べて、より高いアクセシビリティを備えるものとして構想されています。資料では例として、単なる音声読み上げだけでなく、多段階の速度調整機能やハイライト表示機能などが挙げられ、法にもとづく「標準規格」を国が策定して、適合したものの発行を発行者に促すことができるとされています。

手続きの重さが取り除かれる

見落とされがちですが、実務上はここが大きい点です。現行のデジタル教科書のような購入手続き上の煩雑さがなく、一般の教科書と同じように国が購入し、同じタイミングで使い始められる。必要な子が、みんなと同じ4月に教科書を手にできるかどうかは、支援が実際に届くかを左右します。

数字で見る──「必要な子」と「届いている子」の開き

なぜ「標準装備」が要るのか。検討会議での近藤教授の発表資料は、それを数字で示しています。文部科学省の「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(令和4年)では、通常の学級に所属する小・中学生のうち「読む又は書く」に著しい困難のある児童生徒の割合は3.5%、母集団による換算で約30.6万人相当とされています。ただし同資料は、この値には「書くことの困難のみ」の児童生徒も含まれるため、3.5%をそのまま「読みの困難」の割合として扱うことはできない、と明確に注意を促しています。政策検討上の仮置きとして2.5%(約21.9万人相当)という参考値も併記されています。

一方で、音声教材需要数調査(令和8年度使用教科書)で通常の学級から挙がっている需要数は、小学校10,147人・中学校1,878人の計12,025人です。母集団も定義も異なるので単純比較はできませんが、桁が違うことは確かです。

近藤教授はその原因を、①通常の学級で読みの困難を組織的に把握し制度につなぐ仕組みが十分でなく、教員の気づきや本人・保護者の相談に左右されること、②困難を把握しても、それが教材・人員・予算といった支援資源の確保に直結する制度になっていないこと、の2点に整理しています。そのうえで、「読み障害が発見され、申請できた人だけ」にアクセシビリティが届く制度から、ニーズを感じたらまず共通の機能を試せる制度へという方向を示しています。

字幕や速度調整を標準仕様にすることの意味は、ここにあります。申請しなくても、診断がなくても、最初から全員の手元にある。読みにくさに本人がまだ気づいていない段階でも、試す機会が失われない――そういう設計です。

教材制作の現場から見た論点

字幕は「後から付ける」ものではない

字幕は音声の書き起こしを載せれば済むものではありません。教科書の本文・図版と用語の表記を揃える、読み切れる速さで区切る、話者や効果音の情報をどう扱うか決める――こうした判断は、台本の段階で織り込んでおかないと後戻りが大きくなります。動画教材の設計については「学べる」動画教材のつくり方でも触れています。

速めても遅くしても聞き取れる音声に

資料のイメージ図では0.5倍・標準・1.5倍が例示されています(調整幅そのものは検討中)。再生速度を変える前提になると、収録の要求が変わります。速めても崩れない滑舌、遅くしても不自然にならない間の取り方、字幕や読み上げを邪魔しないBGM・効果音の音量設計。「標準速度で自然に聞こえればよい」という基準では足りなくなります。

ルビ・読み上げ順序は、見た目ではなくデータの問題

近藤教授の資料では、①コンテンツ(何を作るか)②閲覧環境(どう読めるようにするか)③配信・認証(どう届け、誰が使えるか)を分けて考えることが提案され、コンテンツ側の要件としてEPUB Accessibility 1.1、Web型の閲覧環境ではWCAG 2.2 AAが軸として挙げられています。本文テキスト・見出し構造・読み順・ルビ・代替説明(ALTテキスト)を上流工程で構造化データとして保持することが求められる、という指摘です。

読み上げの順序がおかしい、ルビが振れない、図に説明がない――こうした問題の多くは、見た目の調整では直りません。制作の最初の設計で決まります。この考え方は、だれもが使えるデジタル教材のつくり方で基本から整理しています。

よくある質問(FAQ)

字幕や速度調整は、いつから使えるようになりますか?

標準仕様書は2026年度内に策定される予定で、「デジタルな形態を含む教科書」が使われ始めるのは2030年度からの見込みです。改正法の施行期日は2027年4月1日で、それまでに仕様や指針の整備が進みます。

特別な支援が必要な子だけのための機能ですか?

いいえ。字幕は、音を出しにくい場面や、聞き取りにくい環境でも役に立ちます。速度調整も同様で、実証研究の教員ヒアリングでは、発達障害等で文字での理解に困難がある児童生徒が、速度を調整しながら音声読み上げを活用して自分のペースで学習できた例が報告されています。特定の障害に一対一で対応する機能、という捉え方はしないほうが実態に合います。

教科書会社によって、機能に差が出ませんか?

標準仕様書で標準実装が求められるため、下限は揃います。そのうえで各社が独自機能を上乗せしている状況で、それ自体は制限されていません。

「デジタル版の教科用特定図書等」は、デジタル教科書と何が違うのですか?

一般の教科書に代えて使えるもので、より高いアクセシビリティを備える点が異なります。多段階の速度調整やハイライト表示などが例に挙げられており、国が「標準規格」を定める方向で検討されています。無償で給与され、購入手続きの煩雑さがない点も違いです。

紙の教科書はどうなりますか?

なくなりません。同じ第5回の検討会議では教科書の形態も議論されており、学校現場への意向調査では、ハイブリッドな形態を望む回答が小学校88.3%・中学校86.3%・高等学校78.4%と最多でした。とくに小学校低中学年では、全てがデジタルの教科書を望む回答は少数です。紙とデジタルの考え方は紙教材とデジタル教材、どう使い分ける?をご覧ください。

まとめ

2026年8月18日に示されたのは、動画・音声への字幕表示と再生速度調整を、デジタル教科書の標準仕様に組み込むという方針でした。すでに標準化されている拡大・ルビ・色反転・リフロー表示・音声読み上げに、新しく教科書の内容となる動画・音声の分を足す――そう捉えると、地に足のついた一歩です。あわせて、デジタル版の教科用特定図書等を無償給与する方向も検討されており、「申請できた人にだけ届く」状態を変えようという意図が読み取れます。

制作する側にとっては、字幕・音声・構造化データを最初の設計に織り込むことが、これまで以上に前提になります。エデュコンは、デジタル教材制作でデジタル教科書やドリル・演習問題アプリを、テキスト教材・問題集・参考書の制作で紙の教材を、いずれも企画から一貫して承っています。だれもが使える教材づくりについて、お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人 / 監修

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