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教科書は「精選」の時代へ──約50年で約3倍になったページ数と、検定基準の見直しで変わる教科書づくり

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2026年10月13日、朝日新聞が「教科書ページ数、約70年ぶりに上限設定へ」と報じました。ただ、同じ日の教科用図書検定調査審議会の配付資料を読むと、ページ数の上限は「目安を示すなどの必要性について、どのように考えるか」という問いかけの段階で、決まった方針ではありません。一方で、その問いの背景にある「教科書の精選」は、10月5日に取りまとめられた次期学習指導要領の「審議まとめ」に、はっきりと書き込まれています。本コラムでは、教科書づくりの現場の視点から、次の教科書改訂で何が問われようとしているのかを、一次資料に沿って整理します。

この記事の要点

  • 教科書のページ数は約50年で約3倍に増え、中央教育審議会の審議まとめに「精選」の方向が明記された
  • ページ数の上限(目安)は、2026年10月13日時点では検定調査審議会の「問いかけ」の段階で、決まった方針ではない
  • 授業時数の柔軟化、学習指導要領の構造化、二次元コード先コンテンツの膨張は、いずれも「何を載せ、何を載せないか」という同じ問いに行き着く
  • 次の教科書改訂は、足していく改訂ではなく選び抜く改訂になり、載せると決めたものを正確に届けることも一層求められる

教科書は約50年で約3倍に

審議まとめが示したデータ

「審議まとめ」の資料編(1-5-1「教育課程の実施に伴い教師が感じる負担・負担感(イメージ)」)に、小学校4教科(国語・社会・算数・理科と考えられます)の教科書ページ数と標準授業時数の推移が載っています。ページ数はA5判に換算した値です。

- 昭和46年度(1971年度)〜:教科書457ページ、標準授業時数3,665単位時間
- 平成14年度(2002年度)〜:教科書487ページ、標準授業時数2,941単位時間
- 令和6年度(2024年度)〜:教科書1,318ページ、標準授業時数3,242単位時間

資料はこれを「約50年前と比較し、教科書ページ数は大幅に増加」「約3倍」とまとめています。

時数の伸びとページ数の伸びは違う

数字を並べると、もう1つのことが見えてきます。平成14年度からの20年あまりで、標準授業時数は2,941から3,242へ約1割増えました。同じ期間に、教科書のページ数は487から1,318へ約2.7倍になっています。昭和46年度と比べると、授業時数は今のほうが少ないのに、ページ数は約3倍です。

つまり、教科書が厚くなった理由は、授業時数が増えたことだけでは説明できません。単純に割り算すると、授業1単位時間あたりのページ数(A5換算)は、平成14年度からの約0.17ページから、令和6年度からの約0.41ページへと増えた計算です。

学習指導要領の文字数も約2倍

同じ資料には、学習指導要領(小学校)の文字数が平成元年改訂の66,065字から平成29年改訂の136,277字へ、約30年で約2倍になったことも示されています。主な要因は、資質・能力ベースの記述に改めたことだとされています。教科書も、その拠り所である学習指導要領も、ともに厚くなってきたわけです。

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「厚い教科書を全て教える」からの脱却

審議まとめが挙げた課題

審議まとめは、教師と子供の双方に教育課程上の「余白」を生み出すことを大きなテーマの1つにしています。そのための課題として挙げたものの1つが、「厚い教科書を全て教える」からの脱却です。

充実した教科書を網羅的に指導すべきとの考え方が根強く、内容や分量の多さが授業進度の速さや過度な授業時数の設定につながっているとの指摘がある。また、指導書のとおり授業を行うべきとの認識も教師によって強く、創意工夫や力量向上を阻む側面があるとの指摘もある。こうした実態を踏まえ、教科書の精選や指導書の改善等の在り方を整理する必要がある──審議まとめは、そう書いています。

資料1-5-1には、保護者の「入試に出るかもしれないなら教科書は全部指導してもらいたい」、教師の「高校入試との関係でも教科書を網羅的に指導しなければ」という声のイメージも描かれています。教科書の厚さは、教科書会社の編集方針だけでなく、学校・入試・家庭の期待が重なった結果でもあることがうかがえます。

教科書「を」教える授業

審議まとめは、現在の教科書について、学習に必要な情報の大半を網羅し、多数の用語・キーワード等の知識に関わる情報やその確認問題が掲載されている、と分析しています。そうした教科書を使うなかでは、教科書の指導だけで授業が成り立ってしまいます。その結果、教科書「を」網羅的に教える授業や、1時間ごとの授業で完結させる「本時主義」から抜け出せていない実態がある、という見立てです。

そのうえで示されたのが、教科書の内容は精選し、理解を広げたり深めたりするための多様な情報はその他の教材で得るという役割分担です。その他の教材としては、紙に加えて、デジタル学習基盤や学校図書館・公立図書館がインフラとして機能することになる、とされています。

授業時数の調整と教科書の分量

調整授業時数制度

精選のもう1つの理由が、新しい授業時数の仕組みです。審議まとめは、義務教育段階で「調整授業時数制度」の創設を提言しました。対象となる各教科等について、学習指導要領に示す内容をいずれも取り扱うことを前提に、標準授業時数を最大限大きくとった場合で15%程度まで下回って教育課程を編成できるようにし、生み出した時間を地域や学校、児童生徒の実態に応じた取組に充てられる、というものです(年間35単位時間以下の教科等は対象外。具体的な幅は引き続き検討)。制度の考え方は授業時数「最大15%削減」へで解説しています。

ここで教科書に求められるのは、調整後の時数でも十分に指導できる分量であることです。審議まとめは、教科書の分量、デジタル教材との役割分担、教師用指導書での指導計画の示し方を、整合性を持って対応させる必要があるとしています。時数を減らせる仕組みをつくっても、教科書が今の厚さのままでは、「時数を確保しないと教科書が終わらない」という現場の懸念は消えないからです。

高等学校は単位の計算方法が変わる

高等学校については、現在35コマで1単位と計算しているものを17コマで1単位と計算する方式に改めること、必履修科目で減単(標準単位数より単位数を減らすこと)できる科目を増やすことなどが提言されています。審議まとめは、これまで35単位時間で指導していた内容を34単位時間を標準として指導することになる点も踏まえ、高等学校でも義務教育段階と同様に教科書の精選等を図っていく必要があるとしています。

検定基準は何が見直されうるか

10月13日の追加審議要請

こうした審議まとめの方向性を受けて、10月13日の教科用図書検定調査審議会(総会(第2回)・総括部会(第3回)合同会議)では、文部科学省から「次期学習指導要領の実施に向けた教科書の改善について」の追加審議要請が行われました。検討事項は、学習指導要領の構造化を踏まえた教科書の在り方、構造化や調整授業時数制度の創設を踏まえた教科書の精選、各教科固有の条件等の見直しの3つです。

同日の資料5「次期学習指導要領の実施に向けた教科書の改善に関する検討課題」が、具体的な論点を挙げています。

見直し候補になった3つの基準

1つ目は、「不必要なものは取り上げていないこと」という基準です。現行の検定基準は、本文、問題、説明文、注、資料、作品、挿絵、写真、図などについて、学習指導要領に照らして不必要なものは取り上げていないことを求めています。教科書の精選と、教科書以外の教材との役割分担の必要性を踏まえ、この規定の見直しを検討してはどうか、とされました。

2つ目は、授業時数に照らした内容の配分です。小・中学校の教科書は、学習指導要領の内容が授業時数に照らして適切に配分されていることが求められています。これを、調整授業時数制度を活用した場合にも指導可能な教科書となるよう見直してはどうか、という問いです。

3つ目は、高等学校の標準単位数に対応する授業時数に照らした配分です。1単位の計算方法の変更や、必履修科目の柔軟な減単を踏まえた見直しの必要性が問われています。

ページ数の上限は「目安」の必要性を問う段階

報道で大きく扱われたページ数の上限は、この3つに続く論点として出てきます。資料5は、仮に内容面での精選の方向性や調整授業時数制度への対応を検定基準に明記したとしても、これまで教科書のページ数の増加と大判化の傾向が長く続いてきたことを踏まえ、教師と子供の双方に「余白」を創出するため、という前置きのうえで、次のように問うています。「教科書の種目ごとにページ数の上限の目安を示すなどの必要性について、どのように考えるか」。

つまり、現時点で示されているのは「上限の目安を示すことの必要性」についての問いかけで、具体的なページ数は示されていません。朝日新聞は、文部科学省の説明として、ページ数の規制は1950年代後半まであったが撤廃されたと伝えています。ただし、配付資料にその記述はありません。また、報道は「1冊あたり」と書いていますが、資料5の問いは「種目ごと」です。今後の審議で、目安を設けるかどうか、設けるならどの単位で示すのかが議論されることになります。

構造化を踏まえた教科書の在り方

精選と並んで問われているのが、教科書の中身の組み立て方です。次期学習指導要領は、各教科の目標・内容を「統合的な理解・総合的な発揮」を軸に構造化する方向です。「統合的な理解・総合的な発揮」とは、個別の知識や技能が結びついて一般化された理解と、複雑な課題に向けて思考力・判断力・表現力を組み合わせて働かせる状態を指す言葉です。審議まとめは、教科書会社が「統合的な理解・総合的な発揮」に至ることができるような問いや評価課題、学習過程が明確となった教科書を編集し、指導書等でその構造を一層具体的に示していくことが重要だとしています。資料5は、この趣旨を踏まえた教科共通の基準の要件の見直しも検討課題に挙げました。

デジタル部分にも「分量」の考え方

動画の総量の上限

同じ10月13日の会議では、デジタルを含む教科書の検定についての「第一次論点整理(案)」も示されました。動画は1本あたり3分程度までとし、教科書1点あたりの総量にも上限を設ける内容で、1学年1冊の場合、国語・算数/数学・道徳は20分、外国語は80分といった時間数が表で示されています。詳しくはデジタル教科書の動画は「1本3分程度」までで解説しています。

二次元コードが増えてきた背景

論点整理(案)は、紙の教科書の二次元コード先のコンテンツが近年大幅に増えた背景にも触れています。教科書採択の調査研究で二次元コード先のコンテンツが対象とされたり、採択の考慮事項とされたりする実態があり、それを受けて発行者が編集段階で二次元コードを増やしている。そして学校現場は、増えたコンテンツをすべて扱わなければならないのではないかと負担に感じている──という指摘です。

紙のページ数と同じ構図が、二次元コード先でも起きていたことになります。紙もデジタルも「載せられるだけ載せる」から「授業で使う分を選ぶ」へ。審議まとめと論点整理(案)は、同じ方向を向いています。

教科書づくりの現場から見た論点

「何を載せないか」を説明できる編集

精選が求められる教科書づくりでは、何を載せるかと同じくらい、何を載せないかの判断が重くなります。資料、コラム、確認問題、発展的な内容──これまで「あったほうが親切」として足されてきた要素について、学習指導要領のどの内容のどの資質・能力に対応するのか、授業時数の中で扱えるのかを、1つずつ説明できる編集が必要になります。

教科書から外れた内容の受け皿

精選された教科書の外側には、理解を広げたり深めたりするための教材が必要になります。審議まとめは、現状ではその他の教材が「補足的に活用」されていると指摘したうえで、今後は教科書で得た理解を広げたり深めたりするための多様な情報を得る手段と位置づけています。副教材やワーク、デジタル教材、資料集などの設計は、教科書との役割分担を前提に、教科書に載らなくなった内容をどう受け止めるかが起点になります。

指導書の役割も変わる

審議まとめは、教科書の精選と並べて指導書の改善にも触れています。指導書のとおりに授業を行うべきという認識が創意工夫を阻む面がある一方、構造化された教科書の意図を伝えるのも指導書の役割です。単元をどう構想し、どこに評価課題を置くのかを示す指導書は、精選された教科書を授業につなぐ役割を担うことになります。

正確性への要求は上がり続ける

最後に、品質の話です。第一次論点整理(案)によると、検定済み教科書の1年間の訂正申請は、令和7年度でおよそ4万箇所にのぼります。毎年度の検定で欠陥として指摘される検定意見の多くも「正確性及び表記・表現」の観点によるもので、なかには十分な校正体制をとれば防げた単純な誤記・誤植も見られる、とされています。そのため論点整理(案)では、検定後、採択・供給が続く期間の編修(教科書の編集)・校正関係者の名簿の提出を求めることが適当とされ、AIなどのデジタルツールで誤記・誤植を減らす方法を取り入れることも期待されています。

ページ数が減っても、1ページあたりに求められる正確さは下がりません。むしろ、少ない紙幅で確実に伝えるための編集と校正の比重が増します。

今後のスケジュール

次期学習指導要領については、2026年度の冬に中央教育審議会の答申が取りまとめられる予定です。告示は小学校・中学校が令和8年度(2026年度)内、高等学校が令和9年度(2027年度)の見込みです。全面実施は、小学校が令和12年度(2030年度)、中学校が令和13年度(2031年度)から、高等学校は令和14年度(2032年度)入学生から年次進行で実施される想定です。学習指導要領改訂全体の日程は次期学習指導要領・教科書改訂スケジュールにまとめています。

教科用図書検定調査審議会は、10〜11月に教科ごとの部会で検討し、12月〜翌1月の総括部会を経て、2027年春頃に総会で最終報告を取りまとめる予定です。その後、文部科学省が検定規則・検定基準等を改正する予定です。今回の追加審議要請(教科書の精選など)が最終報告でどこまで具体化されるかは、今後の審議次第です。

よくある質問(FAQ)

教科書のページ数の上限は決まったのですか?

決まっていません。10月13日の資料5は、教科書の種目ごとにページ数の上限の目安を示すなどの「必要性について、どのように考えるか」という問いかけです。具体的なページ数も示されていません。

教科書が薄くなると、学ぶ内容も減るのですか?

調整授業時数制度は、学習指導要領に示す内容をいずれも取り扱うことを前提にした仕組みです。一方で、審議まとめは学習指導要領の内容そのものについても整理・精選を進めるとしています。ただしそれは、内容の削減自体を目的とする「精選のための精選」ではなく、「学力向上に資する精選」でなければならない、とされています。教科書についても、「統合的な理解・総合的な発揮」を実現しやすくなるよう内容を精選し、理解を広げたり深めたりする情報はその他の教材で得るという役割分担が示されています。

「1,318ページ」とは何の数字ですか?

審議まとめの資料(1-5-1)に示された、令和6年度からの小学校4教科の教科書ページ数で、A5判に換算した値です。資料に並記された標準授業時数(平成14年度〜2,941、令和6年度〜3,242)は国語・社会・算数・理科の合計と一致するため、この4教科を指すと考えられます。昭和46年度からの457ページと比べて約3倍とされています。

いつの教科書から変わりますか?

次期学習指導要領に対応する教科書は、小学校が令和12年度(2030年度)から使用されます。デジタルを含む教科書の制度整備の工程では、令和9年度(2027年度)に著作・編集、令和10年度(2028年度)に小学校用教科書の検定が予定されています。検定基準の改正は、審議会の最終報告(2027年春頃)の後になる予定です。

教材会社にはどんな影響がありますか?

教科書の側では、何を載せないかを説明できる編集と、限られた紙幅での正確さが一層求められます。教科書の外側では、精選された教科書と役割分担する副教材・ワーク・デジタル教材の設計が問われます。

まとめ

教科書の精選は、ページ数の数字だけの話ではありません。授業時数を柔軟にする制度、学習指導要領の構造化、二次元コード先のコンテンツの膨張──10月に出そろった資料は、いずれも「教科書に何を載せ、何を載せないか」という同じ問いに行き着きます。そして、載せると決めたものを正確に届けることも、これまで以上に求められています。

ページ数の上限の目安はまだ問いかけの段階ですが、精選の方向そのものは審議まとめに明記されました。次の教科書改訂は、足していく改訂ではなく、選び抜く改訂になりそうです。

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