職業を見学・体験した小学生は70.3%から42.9%に──国研「キャリア教育に関する総合的研究」第二次報告書が映す、体験活動とキャリア・パスポートの現在地
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国立教育政策研究所の生徒指導・進路指導研究センターは、おおむね7年に1度、全国の小・中・高等学校を対象に「キャリア教育に関する総合的研究」を実施しています。2026年10月19日、令和7年度に実施した調査の第二次報告書が公表されました。2026年1月の第一次報告書が設問ごとの結果の整理だったのに対し、第二次報告書は校種間・調査間のクロス集計と、キャリア教育の「推進校」の分析に踏み込んでいます。職業を見学・体験した小学生の割合が27.4ポイント下がったこと、キャリア・パスポートを対話に使っている教員が2割に届かないことなど、体験活動と記録の「現在地」を示す数字が並びます。本コラムでは、報告書の報道発表資料と概要版に沿って主な結果を読み、キャリア教育の教材と運用を考える視点を整理します。
この記事の要点
- 国立教育政策研究所がおおむね7年に1度行う全国調査の第二次報告書が2026年10月19日に公表され、小・中・高のクロス集計と推進校の分析が示された
- 職業を見学・体験した小学生は前回70.3%から今回42.9%へ27.4ポイント減。一方、体験した児童は基礎的・汎用的能力に関する学習経験の自覚が高い
- キャリア・パスポートを基に児童と対話する小学校教員は17.9%、児童同士の対話を促す教員は6.6%。中学校では紙媒体の運用負担や紛失が課題
- 高校ではインターンシップの経験を教科・科目の学習に関連付けた生徒は26.4%。事前・事後指導の教材と記録の様式の設計が、体験を学びに変える鍵になる
調査の概要

おおむね7年に1度の全国調査
この研究は、学校におけるキャリア教育の改善・充実に向けた基礎資料を得ることを目的に、国立教育政策研究所が継続的に行っているものです。前回は令和元年度(2019年度)で、今回の調査は令和7年6月9日から7月25日にかけて実施されました。報告書によると、前回から6年が経過し、前回と同じ学習指導要領の下にある令和7年度のタイミングで調査・分析を行うことにしたとされています。
調査は3種類あります。管理職1名が答える学校調査、各校種の最高学年(小6・中3・高3または高4)の学級・ホームルーム担任全員が答える学級・ホームルーム担任調査(以下、担任調査)、最高学年のうち児童生徒が最も多い学級の全員が答える児童生徒調査です。
継続調査校と推進校
調査対象は2つの群に分かれます。1つは、前回調査時に都道府県・政令指定都市ごとに児童生徒数規模で比例配分して無作為抽出し、回答があった継続調査校で、学校調査・担任調査の対象校数は小学校750校・中学校387校・高等学校687校、児童生徒調査は小学校109校・中学校119校・高等学校110校です。
もう1つが今回加わった推進校です。令和3年度から6年度の間に「キャリア教育優良教育委員会、学校及びPTA団体等文部科学大臣表彰」を受賞した学校で、学校調査・担任調査は小学校70校・中学校116校・高等学校117校が対象です。回答率は学校種・調査対象により65.9%から91.7%とされています。
第二次報告書は、まず継続調査校を対象に「キャリア教育によるカリキュラム・マネジメント」「職業に関する体験活動」「キャリア・パスポート」の3つのテーマで分析し、続いて校種別に推進校を分析しています。
職業に関する体験活動
小学校:体験した児童は70.3%から42.9%へ
報道発表が主な結果の筆頭に挙げる数字です。「お店や工場、農家や漁師の仕事などの職業を見学したり体験したりする活動」を経験した児童は、前回調査の70.3%から今回42.9%へ、27.4ポイント減少しました。
一方で、体験の効果は明確に出ています。図表Ⅱ-1-16は、この活動を経験した児童と経験していない児童で、基礎的・汎用的能力(分野や職種にかかわらず社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力)に関する学習経験の自覚を比べたものです。差が最も大きいのは「知りたいことについて、資料や情報を集める方法がいろいろあること」で、経験あり73.1%に対し経験なし52.3%、20.8ポイントの差です。ほかの項目も同じ向きです。
- 「友だちや先生の考えや気持ちを聞くことの大切さ」:91.1%対81.1%
- 「自分の考えや気持ちを、相手に分かりやすく伝えることの大切さ」:84.1%対70.0%
- 「自分には、自分らしい興味や長所があること」:75.8%対59.5%
報告書本体では、大人から職業についての話を聞いたり質問したりする活動の有無でも同様の差が見られ(図表Ⅱ-1-17)、職場の見学だけでなく働く大人と関わることが基礎的・汎用的能力の向上に寄与する可能性があると整理されています。報道発表は、各学校に児童が大人と関わる機会の充実を求めています。
中学校:コロナ禍以降の低下と、事後指導の工夫
中学校の職場体験活動については、コロナ禍以降の実施率の低下、計画段階での体験活動の重視度の低下、事前・事後指導に関する学校と生徒の認識のずれ、生徒の希望と体験先の調整の難しさなど、複数の課題が浮き彫りになったとされています。
そのうえで報告書が示すのは、事後指導の中身による差です。職場体験を通して「自分の働き方や生き方を考えることができた」と答えた生徒は、体験活動をそれまでの学びや今後の学びと関連付けたり、社会人講話を聞いたり、発表会やポスターセッションで他者と成果を共有したりする事後指導を受けている割合が高い傾向にあります。多様な人との関わりを通して学びを広げることが、体験の意味付けを深めている、という見立てです。
高校:教科と関連付けた生徒は26.4%
高等学校では、教科・科目の学習や学校生活に関連付けられるような指導の実施が、生徒の基礎的・汎用的能力の向上に効果的だと報告書は述べています。ところが生徒調査では、インターンシップの事後指導の内容として「経験を教科・科目の学習や学校生活に関連付けた」と答えた生徒は26.4%にとどまりました。体験はしていても、日々の授業とはつながっていない生徒が多い、と読める数字です。報道発表は事後指導の一層の充実を求めています。
キャリア・パスポートの現在地

小学校:対話に使っている教員は17.9%
キャリア・パスポートは、児童生徒が自らの学習状況やキャリア形成を見通し振り返るために、学年・校種を越えて記録を引き継ぐポートフォリオです。報告書は、教員がキャリア・パスポートを活用し、記録を基に児童と対話したり、児童同士の対話を促したりすることが、児童や保護者との信頼関係の構築や学習意欲の向上につながっている可能性があると述べています。
しかし現状では、キャリア・パスポートを基に児童と対話している教員は17.9%、児童同士の対話を促している教員は6.6%と少ない状況です。報告書は、授業や面談で児童のよさや可能性を確認したり、プライバシーに配慮しながら児童同士が互いのよさや成長を認め合ったりするなど、活用場面と方法を広げることを求めています。
中学校:効果は実感されている、運用が重い
中学校では、キャリア・パスポートを活用した授業を希望する生徒ほど、自己の成長や今後の課題の把握、教科の学びと将来との関連付けなど、多面的に高い効果を実感していることが明らかになりました。教員や保護者からのコメントが、将来を考えるうえで有効に機能していることも見られたとされています。
一方で課題として挙げられたのは、コメント記入の時間不足、活用方法の不明確さ、紙媒体による運用負担、生徒の紛失です。報告書は、負担軽減と効果の向上を両立する支援体制の整備を求めています。効果はある、だが運用が重い。これはキャリア・パスポートという「教材」の様式と運び方の問題でもあります。
高校:活用の共通理解がない・方法が分からない担任が4割超
高等学校では、キャリア・パスポートを活用した授業を受けた生徒ほど、基礎的・汎用的能力のうち課題対応能力に関する項目が高く、見通しや振り返り、将来とのつながりを意識して生活する傾向が見られました。インターンシップの事後指導でキャリア・パスポートを使って振り返った生徒は、「多様な働き方があることを知ることができた」「自分の働き方や在り方生き方を考えることができた」と有意義に感じた点を多く挙げています。
その一方で、キャリア・パスポートの活用について校内での共通理解がない、活用方法が分からないというホームルーム担任が40%を超えていることも示されました。
カリキュラム・マネジメントと研修
評価を行っている小学校は28.8%
小学校では、キャリア教育の取組に対して評価を行っている学校のほうが、学級担任が、保護者・児童・他の教師との連携や信頼関係の深まりを感じている傾向がありました。ところが、評価を行っている学校は全体の28.8%と前回調査と同様に少なく、評価を行っている学級担任は14.2%にとどまっています。
校内研修に参加していない中学校担任が51.1%
中学校では、学級担任がキャリア教育に関する校内研修に参加する機会があることが、学習に関する生徒の意識や基礎的・汎用的能力に関する生徒の自己評価を高めることに寄与する可能性が示されました。しかし、学級担任の51.1%が「令和7年度にキャリア教育に関する校内研修に参加したことはない、参加予定はない」と回答しています。
高校:全体計画と実施時間の確保
高等学校では、全体計画に基づいて実施時間が確保されている状況では、キャリアプランニングに向けた生徒主体の情報収集がなされ、就業体験活動やアカデミック・インターンシップなどの体験活動が実施されている傾向がうかがえるとされています。教員間の協力や、地域・家庭からの協力を肯定的に捉える傾向も見られました。
推進校から見えること
推進校の分析では、小学校では教職員が研修を通してキャリア教育の理解を深め、互いに協力して各教科におけるキャリア教育を充実させることが、児童の積極性や学習意欲の向上につながっていると推察されています。中学校では企業・地域・上級学校など多様な外部資源を活用し、学校内外をつなぐキャリア教育が広く展開されていること、高等学校では家庭・地域・企業等との連携が進んでいること(ただし学科の違いが背景にある可能性に留意)が示されました。
概要版には、各教科等でキャリア教育との関連を意識した取組を行っている担任の学級では、「先生は自分のよいところを認めてくれていると思う」「先生は自分のことをよく理解していると思う」と感じている児童の割合が高い傾向も紹介されています。
教材・運用の視点から見た論点

体験を「学び」に変えるのは事前・事後指導
報告書を通して読むと、体験活動そのものの量より、体験の前後をどう設計するかが結果を左右していることが分かります。小学校では働く大人と関わる機会、中学校では学びとの関連付けと成果の共有、高等学校では教科・科目との関連付け。いずれも、体験先に行く前に何を見るかを決め、帰ってきてから何と結びつけるかを導く指導の中身です。
事前・事後指導のワークシートや手引は、この「結びつけ」を具体化する教材です。たとえば高校のインターンシップであれば、「体験先で見た仕事と、いま履修している科目の内容がどこでつながるか」を書かせる欄を設けることが、26.4%という数字を動かす一歩になります。
キャリア・パスポートは「様式」の設計が運用を決める
中学校で挙がった課題は、コメント記入の時間不足、活用方法の不明確さ、紙媒体の運用負担、紛失でした。これらは精神論では解けません。記入欄の量と頻度、教員コメントの書き方の例、保護者コメントの位置、綴じ方と保管の方法、学年・校種をまたぐ引き継ぎの手順。様式と運用マニュアルの設計で軽くできる部分が大きい課題です。
デジタル化も選択肢の1つです。紙の紛失や保管の負担は減り、学年を越えた引き継ぎもしやすくなります。ただし、報告書が小学校で効果の根拠として挙げているのは「記録を基にした対話」、中学校・高等学校では記録を活用した授業と教員・保護者からのコメントです。デジタルにしても、画面を一緒に見ながら話す場面やコメントを返す場面をどう設計するかが抜けると、効果の源泉が失われます。学習の記録を次の学びにつなぐ設計の考え方は、学習データを活かすデジタル教材で整理しています。
教員向けの「使い方」が教材の一部になる
キャリア・パスポートについて校内の共通理解がない、活用方法が分からないという担任が高等学校で4割を超え、中学校では担任の半数が研修に参加していない。この現実を前提にすると、児童生徒向けの教材と同じくらい、教員向けの使い方の手引が重要になります。10分で読める活用例、対話の切り出し方の例文、コメントの書き方の見本。推進校の分析が示すのは、研修を通して教職員の理解が深まった学校で児童の意欲が上がっているということです。研修に出られない教員にも届く形で「使い方」を教材に組み込むことが、現実的な打ち手になります。
次の調査に向けて
この調査はおおむね7年に1度で、前回から今回は6年の間隔でした。次回の時期は示されていませんが、次期学習指導要領の下での調査になる見込みです。10月5日の審議まとめでは、小学校の「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」と改め、探究と情報の2領域で構成する方向が示されています(小学校「情報の領域」と中学校「情報・技術科」)。キャリア教育の体験活動や記録が、探究の学びとどうつながるかも、次の調査までの論点になります。
よくある質問(FAQ)
第一次報告書と第二次報告書は何が違うのですか?
第一次報告書(2026年1月公表)は、主に継続調査校の設問ごとの結果を整理したものです。第二次報告書(2026年10月19日公表)は、同じ調査データについて校種間・調査間のクロス集計を行い、カリキュラム・マネジメント、体験活動、キャリア・パスポートの3テーマで分析したうえで、推進校のデータも分析しています。
「推進校」とは何ですか?
令和3年度から6年度の間に「キャリア教育優良教育委員会、学校及びPTA団体等文部科学大臣表彰」を受賞した学校です。今回の調査で継続調査校に加えて対象に追加され、小学校70校・中学校116校・高等学校117校が学校調査・担任調査の対象になりました。
職業体験の経験率が下がった理由は書かれていますか?
報道発表資料と概要版には、小学校の減少理由を主題にした分析はありません。報告書本体(小学校・テーマ2)には、コロナ禍を経た学校行事の見直しや働き方改革等の影響もあり、体験活動の日数は縮小傾向にある、という記述があります。中学校については、コロナ禍以降の実施率の低下、計画段階での体験活動の重視度の低下、体験先の調整の難しさなどが課題として挙げられています。
「基礎的・汎用的能力」とは何ですか?
分野や職種にかかわらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力のことです。図表Ⅱ-1-16では、児童が学校の生活や学習の中で「自分で気づいたり人に教えられたりしたと思う」と答えた項目(相手の考えを聞くことの大切さ、情報を集める方法、計画を立てることの大切さなど)の割合で、学習経験の自覚を測っています。
キャリア・パスポートの様式は国が決めているのですか?
文部科学省が例示様式を示していますが、各学校・地域の実情に応じて作成・活用することになっています。報告書が挙げた課題(記入の時間不足、活用方法の不明確さ、紙媒体の負担、紛失)は、様式と運用の設計で改善の余地がある部分です。
まとめ
第二次報告書が示したのは、キャリア教育の効果は確かにある、しかし効果を生む条件が整っている学校は少ない、という現在地です。職業を見学・体験した児童は42.9%に減り、キャリア・パスポートを対話に使う教員は17.9%、研修に参加していない中学校担任は51.1%、インターンシップを教科と結びつけた高校生は26.4%。
一方で、条件が整った学校では、体験した児童の学習経験の自覚はおおむね10〜20ポイント高く、記録を基にした対話は信頼関係と意欲につながっています。体験の前後を設計する教材、負担を軽くする記録の様式、研修に出られない教員にも届く使い方の手引。報告書の数字は、教材と運用の設計で動かせる余地がどこにあるかを教えてくれます。
エデュコンは、教材・テキスト制作でキャリア教育のワークシートや手引の企画・執筆を、デジタル教材制作で記録と振り返りをデジタルで支える教材の開発を承っています。体験活動の事前・事後指導教材や、キャリア・パスポートの様式づくりについて、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
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