小学校に「専科免許」を新設へ──算数・理科のスペシャリストと全科担任の“チーム”構想
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小学校の教員免許に「専科免許」を新設する方針が、中央教育審議会の資料で示されました。いまの小学校教員は全10教科を教える前提ですが、算数・理科など特定の教科を担う免許をつくり、全科の担任(ジェネラリスト)と教科の専門家(スペシャリスト)がチームを組むという構想です。本コラムでは、教材・問題制作の現場の視点から、実際の資料の記述をたどりながら中身を整理します。
資料に何が書かれたのか

2026年8月25日の「審議のまとめ(案)」
一次資料は、中央教育審議会 初等中等教育分科会 教員養成部会の第162回(2026年8月25日)に提出された「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について(審議のまとめ(案))」です。その(7)に、次の記述があります。
「小学校については、全科の指導を引き続き原則としつつ、高校・大学改革等を踏まえ、例えば算数・理科等については、専科の普通免許状を新設し、ジェネラリスト(全科)とスペシャリスト(専科)がチームとして学校教育の質を向上する方向で、詳細な設計を検討」
概要版でも「算数・理科等について小学校専科の普通免許状を新設」と、独立した項目として掲げられています。
1か月で「可否」から「新設」へ動いた
この記述は、直前の会議から明確に前進しています。第161回(2026年7月23日)に出された「たたき台」では、同じ箇所が「算数・理科等について、小学校の専科免許(普通免許)を新設することの可否について更に検討」でした。
「可否を検討」から「新設し、詳細な設計を検討」へ。 1か月で方向が固まったことになります。報道が「新設へ」と伝えているのは、この変化を指しています。
併せて検討される、柔軟な制度設計
案には、括弧書きで具体的な検討事項も添えられています。中高の数学や理科の免許を取る際に、併せて小学校の該当教科の免許も取れる選択肢。理科と算数など複数教科を教えられる選択肢。そして、専科免から全科免への転換の道を用意すること。
免許を取ってから進路を狭めない設計を意識している、と読めます。
「全科が原則」は維持される
見落としてはいけないのが、冒頭の「全科の指導を引き続き原則としつつ」という一句です。全教科を教える小学校教諭免許を専科免許で置き換える話ではありません。あくまで原則は全科で、そこに専科という選択肢を足す。ジェネラリストとスペシャリストがチームを組む、という構図です。
なお、大学が小学校の教職課程を設置できる条件を広げる話も同じ(7)に書かれていますが、こちらは案でも「更に検討」の段階にとどまっています。
実は「専科指導」自体は20年以上前からできる
ここを押さえておかないと、今回の話は理解しづらくなります。
中学校または高等学校の教諭免許状を持つ人は、すでに小学校で相当する教科を教えられます。 中学校数学の免許なら小学校の算数、といった具合です。これは2002年(平成14年)の教育職員免許法改正で認められたもので、小学校における専科指導の充実が目的でした。
つまり「専門教科の先生が小学校で教える」こと自体は、新しい話ではありません。では、なぜいま専科「免許」なのでしょうか。
ボトルネックは大学側にあった

小学校の教職課程は、置ける学部が限られている
文部科学省の資料は、この制度の窮屈さをはっきり書いています。小学校教諭の教職課程は、教員養成学部・学科等にしか設置することができない――具体的には、教員養成を主たる目的とした学科のみです。教育学部教育学科や子ども教育学科などが該当します。
その結果どうなるか。中学校数学の教職課程を持つ理学部や情報学部の学生は、どれだけ算数の指導に向いていても、その大学では小学校の免許を取れません。教科の専門性を持つ人材が小学校に入る入口が、大学の段階でふさがれているわけです。
数字で見ると、つながっている学科はごく一部
令和4年度のデータでは、小学校免許状(一種)の教職課程を有する学科は全体で265学科。そのうち中学校の教職課程も併せ持つのは、英語84・理科60・数学66・保健体育60にとどまります。
逆から見ると差はもっと際立ちます。中学校免許状(一種)の教職課程を持つ学科は、理科580・英語420・数学384・保健体育227。たとえば中学校理科の課程を持つ580学科のうち、小学校免許の課程も併せ持つのは60学科です。受け皿になりうる学科は数百あるのに、実際につながっているのはその一部という構図になっています。
2023年に一度、部分的に緩和されている
この問題には、すでに手が打たれています。2022年度(令和4年度)から小学校高学年で教科担任制が本格導入されたことを受け、文部科学省は2023年(令和5年)9月に教職課程認定基準を改正しました。
専科指導優先実施教科――外国語・理科・算数・体育――に相当する中学校の英語・理科・数学・保健体育の教職課程を置く大学の学科であれば、小学校の教職課程を設置できるようにする、という特例です。令和6年3月に申請を受け付け、令和7年度の入学者から始まっています。
案にある「小学校専科指導優先教科に限らず」という一節は、この特例をさらに広げようという意味です。改革は積み上げの途中にあります。
背景にある数字

教師不足は4年で倍増している
文部科学省の令和7年度「教師不足」に関する実態調査(2026年3月5日公表)によれば、2025年5月1日時点の教師不足は全体で3,827人(不足率0.45%)。うち小学校が1,699人(0.44%)、中学校1,031人(0.47%)、高等学校508人(0.33%)、特別支援学校589人(0.71%)です。前回の令和3年度調査は2,065人(0.25%)でしたから、4年でおよそ倍増しました。小学校の1,699人は、学校数でみれば1,292校にあたります。
免許の出口も細っている
小学校の教職課程を有する大学等は250(令和6年4月1日現在。国立52・公立5・私立193)。教職課程を有する大学等における小学校教諭免許の取得件数は、令和6年度で22,598件でした。
普通免許状の授与件数全体で見ると、平成17年度の227,742件から令和6年度の179,389件へと減っています。母数が細るなかで質と量の両方を確保しなければならない――これが改革の前提条件です。
専科免許は、大きな改革の一部にすぎない
案を読むと、専科免許はもっと大きな構想の一部だと分かります。冒頭にはこう書かれています。
明治期・戦後に連なる第三の抜本的な改革を行い、生成AI時代の子供たちの成長を支える「教育の高度専門職」を実現する――。
量の確保として、多様な学部学科の学生が教職課程を履修できる環境の整備、社会人が免許を取得しうる環境の整備、社会人が在職したまま学校で働ける環境の整備。質の確保として、大学における教員養成の趣旨の実質化、教職課程の質保証、専修免許状を目標に設定すること。
案には、大学院のプログラムを通じた免許授与、教員資格認定試験の対象拡大、高等専門学校卒業者への基礎資格の付与、全国で通用する新たな免許状の検討なども並んでいます。専科免許は、入口を増やすための多数の選択肢のひとつという位置づけです。
教材制作の現場から見ると
「教科の専門家」が小学校の教壇に立つ意味
算数・理科の専門性を持つ教員が小学校で教えるようになると、教材に求められるものも変わります。指導書の解説がどこまで踏み込むか、発展的な内容をどう扱うか、誤概念にどう対応するか。「担任の先生が全教科を教える」前提で書かれてきた指導資料は、読み手が変われば設計も変わります。
チームで教える前提の設計が要る
案が描くのはジェネラリストとスペシャリストのチームです。ということは、教材も「一人が全部を把握している」前提では足りなくなります。 専科の担当者と学級担任が同じ子どもを見るとき、学習の履歴や見取りをどう共有するか。指導計画のどの部分を誰が持つのか。教材の側で受け渡しを支える情報設計が要る、ということです。
小中の接続が、教材の論点として浮上する
中高の数学・理科の免許と小学校の該当教科の免許を併せて取れるようにする、という検討が入っています。指導者の頭の中で小中がつながるということです。小学校の算数で扱う内容が中学校の数学のどこにつながるのか――そのつながりを教材の側でも明示できているか。学習指導要領コードのような仕組みで教材同士をひもづける動きとも重なる論点です。
よくある質問(FAQ)
専科免許はいつからできるのですか?
まだ決まっていません。審議のまとめ案の段階で、方向性が示され「詳細な設計を検討」とされたところです。ここから制度設計、教育職員免許法の改正、大学の課程認定という段階を踏むため、実際に専科免許を持つ人が教壇に立つまでには相応の時間がかかります。
学級担任の先生はいなくなるのですか?
いいえ。案は「全科の指導を引き続き原則としつつ」と明記しており、全教科を教える小学校教諭免許がなくなるわけではありません。全科と専科がチームを組む形が想定されています。
いま中学校の免許を持っていれば、小学校で教えられますか?
相当する教科であれば教えられます。2002年の免許法改正で、中学校・高等学校の免許保持者が小学校の相当教科の授業や実習を担当できるようになっています。今回検討されているのは、その先の「小学校の免許そのものを教科限定で出す」という話です。
専科免許を取ると、全科は教えられなくなりますか?
案では「専科免から全科免への転換の道を用意することも検討」と書かれています。また、理科と算数など複数教科を教えられる選択肢も検討事項に挙がっています。進路を固定しない設計が意識されています。
教師不足の解決になりますか?
専科免許だけで解決する規模の問題ではありません。教師不足は4年で倍増しており、案自身が、働き方改革を含めて教師の魅力を高める総合的な方策が必要だという前提を置いたうえで、免許保有者の拡大も必須だと述べています。入口を広げる施策のひとつ、という位置づけです。
教材会社にはどんな影響がありますか?
すぐに大きく変わるものではありませんが、中期的には指導資料の設計に影響します。読み手が「全教科を担当する担任」から「その教科の専門性を持つ担当者」へ広がり、さらに両者がチームで動く前提になるためです。小中の内容のつながりを教材側で示すことの価値も高まります。
まとめ
2026年8月25日の審議のまとめ案で、算数・理科等についての小学校専科の普通免許状を新設する方向が示されました。1か月前のたたき台では「可否を検討」だった記述が、「新設し、詳細な設計を検討」へと進んだかたちです。ただし全科の指導は引き続き原則で、目指されているのはジェネラリストとスペシャリストのチームです。
背景には、専科指導は20年以上前から可能なのに、小学校の教職課程を教員養成学部にしか置けないために教科の専門性を持つ人材が入りにくい、という具体的な詰まりがあります。2023年に専科指導優先実施教科について緩和された特例を、さらに広げようという流れの延長にあるものです。
教材をつくる側から見れば、これは「誰が教えるのか」が変わる話です。教科担任制の広がりとあわせて、指導資料の書き方や小中のつながりの示し方を見直す必要が出てきます。エデュコンは、テキスト教材・問題集・参考書の制作からデジタル教材制作まで、企画から一貫して承っています。教科ごとの専門性を踏まえた教材づくりについて、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。





















