全教科の学習指導要領に「AI」が入る──審議まとめ素案が示した、教材づくりの新しい前提
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2026年8月31日、中央教育審議会の教育課程企画特別部会に、次期学習指導要領に向けた「審議まとめ(素案)」が示されました。報道では「全ての教科でAIがもたらす影響を加味した記述が盛り込まれた」と伝えられています。ただ、素案そのものを読むと、AIの扱いはもう少し込み入っています。全教科に書かれたことは事実ですが、肝心の「どう使うか」は、あえて学習指導要領の外側に置かれました。本コラムでは、教材・問題制作の現場の視点から、素案の記述をたどりながらその設計を整理します。
「審議まとめ(素案)」とは、どの段階の文書か
素案が示されたのは、中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会の 教育課程企画特別部会(第17回)、令和8年8月31日の会議です。配付された資料1「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」は、第1部(基本的な方向性)、第2部(各教科等の方向性)、第3部(資料編)からなる大部の文書です。
令和6年12月の文部科学大臣諮問に始まり、令和7年9月の論点整理、令和8年7月の総則・評価特別部会の取りまとめ(案)、8月4日に示された各教科等ワーキンググループの取りまとめ(案)19本を、1つに統合したものにあたります。あくまで「素案」であり、審議まとめと告示案はパブリック・コメントを実施予定とされています。細部は今後変わりえます。
実施はいつからか
改訂の告示は令和8年度末(高等学校のみ令和9年度末)の予定です。全面実施は小学校が令和12年度(2030年度)、中学校が令和13年度(2031年度)。高等学校は令和14年度(2032年度)の入学生から順次実施され、令和16年度(2034年度)に全面実施となります。
15の教科等すべてに、AIが登場する

数えてみると、温度差がはっきり出る
第2部第2章は教科等ごとに15のセクションで構成されています。そのすべてに「AI」の語が登場します。目次のページ範囲で数えると、情報・技術67回、外国語35回、道徳31回、算数・数学26回、総合的な探究22回、社会と産業教育が各15回、特別活動12回、国語8回、生活6回、理科5回、理数と芸術が各3回、そして家庭と体育・保健体育が各1回でした。
「全教科に記述」という一言でくくられがちですが、中身の濃さは教科によってまったく違います。そして少ない教科の書きぶりが、今回の改訂の性格をよく表しています。
体育や生活科では「AI時代だからこその人間の学び」
体育・保健体育で唯一のAI言及は、体育を学ぶ本質的意義を述べたくだりです。「社会の様々な場面でAIの活用が進むなど、人間の活動に変容がある昨今」、自身の身体を通して学ぶことは「身体を使いこなして能動的に人生を舵取りしながら生き抜く、人間ならではの力を育む上でも大きな意味を持つ」とされています。小学校の生活科に至っては、現状の課題の第1項目そのものが「AI時代に求められる生活科の在り方に関する課題」と題され、仮想空間での活動が増えるなかで直接体験の機会が減っていることを課題としています。
つまりこれらの教科では、AIは使う対象ではなく、教科の存在意義を問い直す背景として書かれています。第1部にも「AI時代にこそ重要となる、人間ならではの力を育むことを教育課程全体で強く意識する必要がある」という一節があります。
道徳科には、AI専用の項目が2つ立った
一方で、回数は少なくても使い方に踏み込んだ教科もあります。芸術は、デジタル学習基盤の活用に生成AIを含むとしたうえで「安易に表現する過程などを生成AIに委ねるのではなく」と釘を刺し、家庭科は、児童生徒が成果物を「自らの言葉で説明し、最終的には自ら責任を持つ」という考えの下で指導すべきだとしています。
もっとも踏み込んでいるのが道徳です。「道徳科におけるAIとの向き合い方」と「道徳科におけるAIの活用」という項目が独立して置かれました。後者では、AIに異なる立場の意見を示させて考えの多面化・多角化を促す実践を挙げたうえで、2つの留意点が示されています。AIの回答を正解として扱うのではなく道徳的諸価値との関わりで批判的に吟味できているか、そして自分で考えた後で補助的にAIを活用するなど、迷いや葛藤を含め子供自身が考える機会が確保できているか、です。
外国語では「書かれていないこと」自体が課題とされた
外国語の項では、現状の課題として「AI活用が学習指導要領等に位置付けられていないことが、学校現場での活用格差を生み、外国語学習の『量』や『質』の差につながることが懸念される」と指摘されています。書かれていないから学校ごとにばらつく、という認識です。これを受けて改善の方向性では、「発達の段階に応じたAIの適切な活用についても明示的に位置付けるべき」とされました。産経新聞が「英語ではAI活用初明記」と報じたのは、この箇所を指しています。
同時に、AI時代に外国語を学ぶ本質的意義を「AIに代替されるべきではない、人間が大切にすべき資質・能力の育成の観点から」再定義するとも書かれています。活用を位置付けることと、人間の側の意義を問い直すことが、同じ教科の中で並んでいるのが今回の書きぶりの特徴です。
ただし「AIの中身」は、学習指導要領の外に置かれた

具体は、改訂を待たずガイドラインで
ここが素案を読んでいちばん重要だと感じた点です。情報・技術の項には、AIの活用が深い学びに繋がらないと考えられる例や各教科等における効果的なAIの活用例を含む具体的な利活用のポイントについては、学習指導要領改訂を待たずしてガイドライン等で対応することが必要である、と書かれています。
道徳科の項も、この方針を引用したうえで、AI活用の留意点は「柔軟に更新できる形で国が示すべきである」と述べています。特別活動の項にも同じ引用があります。AIの具体は各教科の指導要領本文に書き込まず、外側の層に預けるという設計が、教科をまたいで共有されているわけです。
更新の速さが違う4つの層
第1部第7章には、その理由と全体像が書かれています。情報技術は「極めて変化が速く、加速度的に進化し続ける特性」を持つため、教育内容が陳腐化することを防ぎ、かつ教師の負担を軽減する仕組みが不可欠だ、という認識です。そこで示されたのが次の組み立てです。
- 学習指導要領は「大枠や俯瞰的な規定に留める」(改訂はおよそ10年周期)
- 学習指導要領解説を「タイムリーかつ機動的に一部改訂」し、教科書へ反映する
- AIの利活用ガイドラインを機動的に改定する
- 教科書発行のサイクルでも対応しきれない最新のトピックについては、国が主導して少なくとも1年に1度程度、指導の手引きやデジタル教材、授業動画等をアップデートする
10年に一度しか変えられない文書に、1年で変わるものを書き込まない。 そのかわり、書き込まなかった部分を更新し続ける仕組みを別に用意する。それが今回の設計です。現行の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」についても、学習指導要領の改訂を待たず令和8年度中に改定することが明記されています。指導要領本体より先に、ガイドラインのほうが動くわけです。
「小中学校で情報が教科に」は、正確ではない

小学校は「教科」ではなく、総合の中の「領域」
複数の報道が「小中学校で『情報』を教科に」と伝えましたが、一次資料の記述は異なります。小学校について素案が示したのは、総合的な学習の時間を「総合的な探究の時間」と改めたうえで、そこに「情報の領域」を付加し、同時間を「探究の領域」と「情報の領域」の2つの領域から構成するという案です。教科の新設ではありません。表の注記には「総合における『探究の領域』と『情報の領域』はそれぞれ標準授業時数を設定する」とあります。
対象は小学校第3学年以上です。低学年については、文字入力や写真・動画の撮影、ID・パスワードの適切な管理、正しい姿勢での端末使用などを各教科等の中で扱い、「情報の領域」への接続を図るとされています。
中学校は、技術・家庭科を2つに分ける
中学校では、家庭科を独立の教科としたうえで、現在の技術分野を「情報・技術科」とする案が示されました。理由の書き方が具体的で、現在の技術・家庭科は「教員免許、担当教員は別であるが、評定は1つの教科として記載していること等に伴うデメリットも大きい」とされています。
新しい情報・技術科は、情報の表現とデジタル化・プログラミングと自動化・情報基盤とシステム化からなる「情報技術」領域と、材料加工・生物育成・エネルギー変換をデジタルの観点で見直した「情報を基盤とした生産技術」領域の2本立てです。両領域を横断する「技術の統合」という内容項目が新設され、自動運転や介護ロボットのように複数の技術が一体となって機能するシステムを扱うとされています。
新しい授業時数
素案に示された時数は次のとおりで、いずれも「各学年最大」の目安です。
- 小学校 総合的な探究の時間「情報の領域」……第3学年 30コマ程度、第4〜6学年 各35コマ程度
- 中学校「情報・技術科」……第1・2学年 各70コマ程度、第3学年 35コマ程度
中学校の数字には「現行の技術・家庭科の技術領域に含まれる内容を含む標準授業時数」という注記が付いています。毎日新聞はこれを「従来の技術分野から倍増」と報じました。高等学校については情報科(情報Ⅰ・情報Ⅱ)の内容をさらに充実させる方向で、高校卒業生全員が数理・データサイエンス・AIを「日常の生活や仕事等の場で使いこなす」リテラシーレベルに達することを目標に掲げています。
その授業時数は、どこから捻出されるのか
総授業時数は増やさず、全体から一律の割合で
文部科学大臣諮問が「年間の標準総授業時数を現在以上に増加させない」ことを前提としているため、各教科等の標準授業時数は原則として現行以上にできません。小学校第4学年以上の年間標準総授業時数1015単位時間は維持されます。素案は、新教科・領域の創設を「今次改訂において特定の教科等に標準授業時数を増加させる例外」と位置づけています。
捻出方法まで書かれている点は、報道ではあまり触れられていません。素案は、必要な授業時数を「特定の教科・領域の標準授業時数を減じて確保することは適当ではなく、各教科等の標準授業時数に応じて同一の考え方で減じて確保することが適当」としています。対象は小学校第3学年以上で、学習の継続性の観点から「少なくとも週1コマ程度の時数は確保することが重要」として、現在35コマ以下の教科等からは減じないとされました。具体的な実数は今後、教育課程企画特別部会で検討し、適切なタイミングで示すとされています。
この話は、学校の裁量で教科ごとの時数を調整できる「調整授業時数制度」とセットで読む必要があります。制度の中身は授業時数「最大15%削減」へで、すでに全国で始まっている先行実践はサキドリ研究校とはで扱っています。
全面実施を待たない「先行実施」
社会の変化に対して育成が遅れることを避けるため、経過措置も示されました。小学校は令和10年度(2028年度)から、中学校は令和11年度(2029年度)から段階的に新教科・領域を先行実施する、という案です。調整授業時数制度のほうは小・中学校ともに令和10年度から先行実施される予定で、両者はほぼ同時に動き出すことになります。
国が教材をつくり、毎年更新する
「そのまま使える授業動画」を国が開発し、年1回更新する
条件整備の項で目を引くのは、国の役割の書き方です。「国は、学校現場に対応を委ねるのではなく、必要な教材開発、研修等の条件整備を責任を持って進めるべきである」と明記されています。そのうえで文部科学省が整理したのが「情報活用能力の抜本的向上を支える指導体制改善プラン」(令和8年7月30日時点)で、研修・指導体制・免許の3本柱で構成されています。
その柱の1つが、教師が授業でそのまま活用可能な授業動画を含めた学習者用教材等を国が開発し、実践・検証しつつ少なくとも1年に1度程度アップデートを図るという項目です。公表時期を十分な余裕をもって現場に伝え、事前視聴の時間を確保できるようにすることまで書き込まれています。しかも構想段階の話ではなく、素案には令和7年度補正予算を活用して学習動画・教材等の整備に着手しているところである、と書かれています。
教材に求められる要件も明記されています。関係機関と連携しつつ「学校現場と往復しながら学校現場が使いやすいものにすること」、そして「技術の進展等に伴う内容の陳腐化を防ぐ観点から随時のアップデートを図ること」です。
「危機的」と書かれた数字
条件整備がここまで強調されるのには理由があります。素案の脚注には、令和7年度時点で中学校技術・家庭科(技術分野)の担当教員のうち臨時免許状所有者が543名、免許外教科担任が1,863名、高等学校情報科では臨時免許状所有者47名、免許外教科担任97名という数字が挙げられ、「十分に指導体制が整備されていない危機的な課題」と表現されています。新しい教科をつくる以前に、いまの教科を教える人が足りていないという現実があります。
研修についても、小学校は令和9年度末、中学校は令和10年度末までに新課程の授業実践のための研修コンテンツを国が作成・提供し、すべての担当教員へ研修を行うという期限付きの記述があります。
教材制作の現場から見た論点

「陳腐化」を前提に設計する
国の教材ですら年1回の更新を前提にしている、という事実は、民間の教材づくりにもそのまま跳ね返ります。AIやデジタルを扱う教材は、つくって納品して終わりではなく、更新され続けることを前提に設計する必要があります。変わりやすい部分(サービス名、画面の見た目、最新の統計値)と変わりにくい部分(概念、手順の考え方)を分けて構造化し、差し替え単位を小さく保つこと。本文に固有名詞を練り込んでしまうと、1か所の変化で全面改訂が必要になります。
「AIドリル」に書かれた、3つの前提条件
算数・数学の項には、いわゆるAIドリルについての条件が書かれています。①教材として一定の質を有しており、②教師の適切な指導助言の下、③児童生徒が学びを自ら調整しながら活用できることが前提となるが、認知心理学等の知見を踏まえつつ計画的に活用されれば、効果的・効率的に知識を習得・定着することができる、という書き方です。
同じ項では、デジタル教材について「従来の紙の教材開発のノウハウとデジタルの特長を有効に組み合わせた形での進化・発展が期待される」とも述べられています。紙の設計力とデジタルの機能を別物として扱わない、という視点です。この考え方は紙教材とデジタル教材、どう使い分ける?でも扱っています。
「参照される側」になるための構造化
もう1つ、算数・数学の項に見逃せない記述があります。「今後はデジタル学習指導要領から各種デジタル教材へのリンクが張られることになる」「教科書や教師用指導書のQRコードからデジタル学習指導要領、更にはデジタル教材にアクセスできるようになることも期待される」というものです。
リンクを張ってもらえる教材になるには、どの単元のどの資質・能力に対応するのかが機械可読な形で整理されている必要があります。学習指導要領そのもののデジタル化と指導要領コードについては学習指導要領が「デジタル」になるで、AIが参照するデータの側の重要性については文科省が「教育特化型AIアプリ」を自ら開発へで扱いました。今回の素案は、その両方を「前提」として書いているという点で一歩進んでいます。
よくある質問(FAQ)
学習指導要領にAIが書かれるのは初めてですか?
報道はそのように伝えていますが、素案の本文にその記述はありません。文部科学省の説明として報じられたものです。ただし、15の教科等すべてにわたって記述が入り、情報活用能力のために新しい教科・領域まで設けられるという規模は、これまでにないものです。
小学校に「情報」という教科ができるのですか?
いいえ。素案が示したのは、総合的な探究の時間を「探究の領域」と「情報の領域」の2領域構成にする案です。教科として新設されるのは、中学校の「情報・技術科」(技術・家庭科の再編)だけです。
いつから始まりますか?
全面実施は小学校が令和12年度(2030年度)、中学校が令和13年度(2031年度)、高等学校が令和14年度(2032年度)入学生から順次です。ただし新教科・領域については、小学校は令和10年度(2028年度)、中学校は令和11年度(2029年度)から段階的に先行実施する経過措置が示されています。
教科書はどうなりますか?
素案には、構造化や調整授業時数制度を踏まえた教科書の精選という項目があります。AIのように変化の速い内容については、教科書の検定サイクルでは対応しきれないことを前提に、学習指導要領解説の機動的な一部改訂と、国による教材・授業動画の年1回程度のアップデートで補う設計が示されています。
これは決定事項ですか?
いいえ。「素案」の段階です。中央教育審議会は年内に答申をまとめる予定で、審議まとめおよび告示案についてはパブリック・コメントの実施が予定されています。時数の具体的な実数など、今後詰められる部分も残っています。
まとめ
15の教科等すべてにAIの記述が入った──それが今回の審議まとめ素案の見出しです。しかし本文を読むと、書かれ方は教科によって大きく異なり、体育や芸術、生活科では「AI時代だからこそ人間の学びを」という文脈で登場します。そして各教科の具体的なAI活用のポイントは、あえて学習指導要領には書かず、ガイドラインや解説、国の教材という更新の速い層に預ける設計が採られました。
教材づくりの側から見れば、示唆は3つです。更新され続けることを前提に設計すること、参照される側のデータとして構造化しておくこと、そして紙で培った教材設計のノウハウを捨てないこと。素案自身が、この3つをいずれも明文で求めています。
エデュコンは、デジタル教材制作でデジタル教科書・ドリル・演習問題アプリを、テキスト教材・問題集・参考書の制作で紙の教材を、いずれも企画から一貫して承っています。次期学習指導要領を見据えた教材の設計・改訂について、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。





















