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コラム

3千億円の高校改革基金、135校が採択——採択結果一覧から見える「次の高校」の姿

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高校生向け教材コラム

2026年9月15日、文部科学省が「令和7年度 産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業」の採択結果を公表しました。報道では「高校改革の拠点に新たに60校」「計135校」と学校名が並びましたが、公表された採択結果一覧(13ページ)と基金そのものの事業概要を突き合わせると、2040年に向けて高校をどう作り替えようとしているのかが、かなり具体的に見えてきます。3千億円がどの学科に、いくらずつ配られたのか。135校の先に何校が控えているのか。一次資料を集計して整理しました。

そもそも何の基金か——N-E.X.T.ハイスクール構想

2,955億円、支援期間は3年程度

正式には「高等学校教育改革促進基金」といい、令和7年度補正予算で2,955億円が計上されました。内訳は、都道府県に基金を造成して改革先導校を支援する「産業イノベーション人材育成等に資する高等学校教育改革促進事業」に2,950億円、都道府県の進捗確認やノウハウ共有を行う「高等学校教育改革加速に係る伴走支援事業」に5億円です。

補助率は10分の10で、対象経費は人件費・旅費・謝金・設備施設整備費など。支援期間は3年程度とされています。根拠は「強い経済」を実現する総合経済対策(令和7年11月21日 閣議決定)で、いわゆる高校無償化とあわせた公立高校・専門高校への支援拡充という位置づけです。

起点は2026年2月の「グランドデザイン」

この基金が実現しようとしているのは、2026年2月13日に公表された「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けたN-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想~」です。N-E.X.T.は New Education, New Excellence, New Transformation of High Schools の略で、グランドデザインが掲げる3つの視点にそのまま対応しています。

- New Transformation:学びの在り方の転換(リアルとデジタルの良さを組み合わせ、「好き」を育み「得意」を伸ばす)
- New Excellence:最先端を学ぶ高校の特色化・魅力化(探究・文理横断・STEAM、学科構成の見直し)
- New Education:学ぶ機会・アクセスの確保(遠隔授業等の推進、通信制の質確保、不登校生徒への学習支援)

2040年に向けた数値目標

グランドデザインは2040年までの目標も置いています。地域の産業界等と連携・協働した取組を行う専門高校を100%、少子化傾向でも専門高校の生徒数を現在と同水準に。文理横断的な学びに取り組む普通科高校を100%、普通科の文系・理系の生徒割合を同程度に。そして高校卒業段階の進路未決定者の割合を半減させる、というものです。

背景にあるのは2つの数字です。2040年には高校1年生が約36%減少すること。そして現時点ですでに約64%の市区町村で公立高校の立地が0または1校であること。「減る」と「無い」が同時に進むなかで、何を残し何を変えるかを決める——それがこの基金の役割です。職業教育の高度化という方向は、高専(高等専門学校)改革とも同じ線の上にあります。

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採択135校、3つの類型と学科の内訳

類型別の採択数

今回の公表は追加公募第1回の申請期限までの分で、43都道府県・135校が採択されました。改革先導校は次の3類型に分かれ、内訳は採択結果一覧を数えると以下のとおりです(1校で2類型にまたがる3校を含むため、のべ138)。

- ① アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援:69校
- ② 理数系人材育成支援:37校
- ③ 多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保:32校

これとは別に、放課後等を活用した学力向上・学習支援の取組が135校中75校(56%)に付いています。大学生や専門家による学習支援、地域連携・協働による取組など、類型と重ねて実施される形です。

学科別では工業科39、単独最多は普通科61

採択結果一覧に添えられた集計ページには、事業計画に含まれる学科数が載っています(1校で学科を併置する場合は学科ごとにカウント)。

- 普通科等(計92):普通科61 / 理数科11 / その他11 / 総合学科9
- 専門学科(計95):工業科39 / 農業科24 / 商業科13 / 水産科9 / 家庭科4 / 福祉科3 / 看護科2 / 情報科1

専門学科の合計が95と、普通科等の92をわずかに上回ります。単独では普通科61が最多、専門学科では工業科39が突出という形です。さらに、高校のほかに教育委員会が設置する機関(遠隔授業のための拠点等)として5つが採択されています。学校だけでなく「拠点」に金を出す設計になっている点は、③の類型を読むうえで効いてきます。

金額を並べると見えるもの——「1県62億円」の壁

上限額の合計は約2,266億円

採択結果一覧には1校ごとの支援上限額が載っています。135校分を合計すると約2,266億円。事業費2,950億円の約77%が、この時点で行き先を決めたことになります。

1校あたりの平均は16.8億円、中央値は16.0億円。最大は和歌山県立和歌山工業高等学校の39.0億円、次いで福井県立坂井高等学校33.7億円、岐阜県立岐阜工業高等学校31.7億円と続きます。最小は京都府立京都八幡高等学校の1.8億円で、20倍以上の開きがあります。分布としては10億円以上20億円未満に74校が集中し、30億円以上は5校だけでした。

26県が60億円台に張り付いている

都道府県ごとに合計すると、はっきりした特徴が出ます。岐阜県62.2億円を筆頭に、60億円台に26県が密集しているのです。62.0億円ちょうどが山形・茨城・群馬・福井・愛知・京都・和歌山・徳島・熊本・鹿児島・秋田・富山・静岡と13県、62.1億円が長野・福島・山梨・大分と4県。

申請は都道府県ごとに計4校までとされています。公表資料に1県あたりの上限額は明記されていませんが、この張り付き方を見るかぎり、金額の側にも1県あたり62億円前後という事実上の枠が置かれていると考えるのが自然でしょう。3校で62.2億円の岐阜県のように、校数が少なくても枠を使い切っている県がある一方、4校で60.5億円の鳥取県のような例もあります。

大都市圏は、まだ薄い

一方で、採択が1校にとどまる県もあります。埼玉県20.2億円、兵庫県20.0億円、三重県13.8億円、宮城県11.0億円。採択ゼロは青森県・東京都・神奈川県・新潟県の4都県です。

ただしこれは確定した姿ではありません。報道によれば、残り12自治体の31校が追加公募第2回の審査中で、結果は10月中に出そろう見込みです。現時点の偏りをもって「大都市圏は対象外」と読むのは早すぎます。むしろ、人口規模の大きい自治体ほど「4校を選ぶ」判断が難しかった可能性のほうが高いでしょう。

何が始まるのか——取組例を読む

文部科学省は採択結果とあわせて「先導校等の取組例」も公表しています。抽象論ではなく、どの学科に何を新設するかまで書かれているので、3類型から1つずつ見てみます。

① 札幌工業高校——「半導体技術者コース」を新設

北海道札幌工業高等学校は、Rapidus等の半導体関連企業と連携して「半導体技術者コース」を新設します。目を引くのは、建築科・土木科も改革の対象になっていることです。半導体工場のクリーンルーム空調設備の建設、製造を支える電力設備や河川からの水供給といったインフラ整備、AI・データサイエンスの活用を学ぶ、という組み立てです。背景として挙げられているのは「2040年には高校(工業科)卒業者が5.7万人不足する見込み」という推計でした。

大阪府立の新工業系高等学校(仮称)はさらに踏み込んでいて、ヒューマノイドロボットの開発を軸に6専攻から3つを融合的に学ばせ、「数学Ⅰ・Ⅱ」「物理基礎」「化学基礎」をロボットの走行やモータ制御と結びつけて学習するモデルを構築するとしています。共通教科を専門科目の文脈で学び直させる設計です。

② 秋田高校——探究を6単位へ倍増、3年間で210時間

秋田県立秋田高等学校は、「総合的な探究の時間」等の探究活動を6単位へ倍増させ、3年間で210時間のSTEAM探究を実施します。「情報Ⅰ」を1年次に前倒しし、学校設定科目「STEAM基礎」「STEAM探究Ⅰ・Ⅱ」を新設。洋上風力発電など県の成長産業をテーマに据えました。

熊本県立人吉高等学校は文理選択を3年次に変更し、1・2年次は全生徒が理数的素養を身に付ける教育課程へ転換します。データ分析やベクトル・行列などAI技術の基礎を学ぶ学校設定科目「HITOYOSHI STEAMⅠ・Ⅱ」を置く構想です。グランドデザインの「文理横断的な学びに取り組む普通科高校100%」が、現場ではこういう形をとります。

③ 鹿児島・開陽高校——3つの課程を半期ごとに行き来する

鹿児島県立開陽高等学校は、全日制・定時制・通信制を半期ごとに行き来できる仕組みをつくります。学習状況や進路希望、生活環境の変化に応じて学び方を選べるようにするもので、オンデマンド教材とLMSを活用して自分のペースで学習を進められるようにする、県立夜間中学「いろは中学校」と連携して義務教育段階から学び直せるようにする、といった設計が並びます。生徒はアプリに学習記録やアンケート回答を記録し、教員やスクールカウンセラーがそれを見て支援する仕組みです。

南北600kmの県域と多くの離島を抱え、通信制への進学者や不登校経験のある生徒が増えている——という背景の書き方は、③の類型が「遠隔授業」だけの話ではないことをよく表しています。

先導校135校の先に、協力校901校

「広げる」ところまでが事業に含まれている

この事業の設計でもっとも見落とされやすいのが、採択された学校だけで完結しないという点です。公表資料には採択結果一覧とは別に「協力校一覧」が10ページ分あり、先導校ごとに、取組を共有する域内の学校が列挙されています。

都道府県と校名の組み合わせで数えると901校(うち高等学校880校)。先導校135校に対して、およそ7倍の学校が普及先として名前を連ねていることになります。中学校・小学校・特別支援学校も含まれており、鹿児島県立開陽高等学校のように20校以上を挙げている先導校もあります。

3年で終わる支援と、その後

基金の支援期間は3年程度です。文部科学省は、少数の先導校を基金で支援し、その成果を各地の高校に広げる取組は交付金で支援するという二段構えを描いており、報道によれば2027年度予算の概算要求では「高校改革交付金」を金額を決めない事項要求として盛り込みました。グランドデザイン自身も、交付金等の新たな財政支援の仕組みは基金の執行状況を踏まえて令和9年度予算の編成過程で検討する、と書いています。

つまり「3年でモデルを作り、そこから先は別の財源で広げる」という前提が最初から置かれている。先導校がこの3年でつくる学科・科目・教材は、はじめから他校が使える形であることを求められている、ということでもあります。

これから決まること

追加公募第2回の結果は10月

今回の採択は追加公募第1回の申請期限までの分です。報道では、今回は6月に一度「不採択」とされた計画を練り直して再申請されたもので、28都道府県72校の申請から60校が採択されたと伝えられています。追加公募第2回は9月11日に申請が締め切られ、10月中に結果が公表される見込みです。これ以上の再申請は予定されておらず、最終的な採択校がここで確定します。

審査委員会の構成は「すべて終了した段階で公表」

審査は文部科学省が開催する外部有識者からなる審査委員会が行いますが、その構成は本事業に係る審査がすべて終了した段階で公表するとされています。誰がどんな観点で選んだのかは、10月以降に明らかになります。

学科改編は数年がかりで効いてくる

採択された計画の多くは学科・コースの再編を含みます。学科名の変更は入学者選抜の要項に反映され、志願者にとっては進路選択そのものが変わります。2026年度から支援が始まり、生徒が実際に新しい学科で学び始めるまでには時間差があるため、影響が見えてくるのは数年先です。

教材制作の現場への示唆

教科書のない科目が、一斉に生まれる

今回の採択で最も実務に効くのは、学校設定科目の新設が135校で同時に走ることです。「半導体技術者コース」「STEAM基礎」「STEAM探究Ⅰ・Ⅱ」「HITOYOSHI STEAMⅠ・Ⅱ」——いずれも検定教科書が存在しない科目です。佐賀県立佐賀商業高等学校の「AI・データサイエンス概論」、秋田県立男鹿海洋高等学校の全学科必修「男鹿の地域資源」など、取組例に挙がっているだけでも相当な数にのぼります。シラバスから教材、評価規準まで、学校がゼロから用意することになります。地域の産業や企業の実データを扱う科目が多く、汎用の市販教材では埋まりません。

「他校でも使えるか」が最初から条件になる

先導校135校に対して協力校901校という構図は、教材づくりの要件をひとつ増やします。その学校の設備や地域事情に密着しすぎた教材は、そのままでは広がりません。どこを固定し、どこを差し替え可能にするか——地域名・企業名・データだけを入れ替えれば他校でも成立する構造にしておけるかどうかが、3年後に効いてきます。紙とデジタルのどちらで持つかの判断も、更新頻度と配布範囲から逆算することになります(関連: 紙教材とデジタル教材、どう使い分ける?)。

「多様な学習ニーズ」は配信設計の話でもある

③の類型に採択された32校と、遠隔授業のための拠点5つ。開陽高校のようにオンデマンド教材とLMSを前提にする学校では、教材は「作って渡す」ものではなく、学習記録が戻ってくる前提で設計するものになります。1本の動画教材でも、どこで止まったか・どこを繰り返したかが可視化されるかどうかで、次の一手が変わります(関連: 学習データを活かすデジタル教材)。

理数系人材育成は、PISAが示した課題とつながっている

②の理数系人材育成支援37校が目指す姿は、9月に公表されたPISA2025の結果とも重なります。日本は3分野すべてでOECD加盟国中1位を維持した一方、低得点層が3分野で有意に増え、学習への関与が高い生徒の割合はOECD平均を下回りました(参考: PISA2025を読む)。探究を6単位に倍増させる、文理選択を3年次に遅らせる——といった今回の計画は、「できる生徒をさらに伸ばす」よりも「学びへの向かい方そのものを変える」方向を向いています。教材の側も、解ける問題を増やすだけでなく、生徒が自分で問いを立てられる素材を用意できるかが問われます。

エデュコンでは、テキスト教材・問題集・参考書の制作探究学習(総合的な探究の時間)教材の制作で、学校設定科目の教材づくりにも対応しています。オンデマンド配信やLMSを前提とした教材はデジタル教材制作をご覧ください。

なお、本コラムの数値はいずれも文部科学省の公表資料——「令和7年度 産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業の採択結果について」(令和8年9月15日)の採択結果一覧・協力校一覧・先導校等の取組例、「高等学校教育改革促進基金の創設」、および「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)」(令和8年2月13日)——に基づいています。上限額の合計・都道府県別の集計・協力校数は、採択結果一覧を筆者が集計したものです。追加公募第2回の申請状況と2027年度概算要求の扱いは、2026年9月15日付の報道によります。

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この記事を書いた人 / 監修

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