高校改革基金、47都道府県158校で採択が出そろう——採択結果一覧から見える「次の高校」の姿
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2026年10月23日、関芳弘文部科学大臣は閣議後会見で、高校教育改革促進基金の追加公募第2回の結果を公表しました。12都道府県から31校の申請があり、23校を採択。これで申請に対する採択はすべて終わり、47都道府県・158校が「高校教育改革の先導校」として出そろいました。9月15日時点では135校で、青森・東京・神奈川・新潟の4都県は採択がゼロでしたが、今回すべての都道府県に先導校ができたことになります。報道では「全国158校に」と校数が伝えられましたが、文部科学省が公表した採択結果一覧(確定版・15ページ)と取組事例集、そして同じ週に財務省が示した資料を突き合わせると、3千億円がどの学科にいくら配られ、何を目標に、どう検証されようとしているのかが具体的に見えてきます。一次資料を集計して整理しました。
この記事の要点
- 2026年10月23日、追加公募第2回で23校が採択され、高校教育改革の先導校は47都道府県・158校で出そろった。採択ゼロだった青森・東京・神奈川・新潟もすべて加わった
- 上限額の合計は約2,640億円で、事業費2,950億円の約9割。32道府県が60億円台に集まり、1県あたり62億円前後という事実上の枠が見える
- 先導校はそれぞれ就職・進学などの指標を令和10年度・13年度の目標値で掲げ、財務省は新たな交付金の検討にあたって指標の達成状況や費用対効果の検証を求めている
- 先導校158校の先に協力校が約1,240校。検定教科書のない学校設定科目の新設が一斉に進み、他校でも使える教材を学校がゼロから用意することになる
そもそも何の基金か——N-E.X.T.ハイスクール構想

2,955億円、支援期間は3年程度
正式には「高等学校教育改革促進基金」といい、令和7年度補正予算で2,955億円が計上されました。内訳は、都道府県に基金を造成して改革先導校を支援する「産業イノベーション人材育成等に資する高等学校教育改革促進事業」に2,950億円、都道府県の進捗確認やノウハウ共有を行う「高等学校教育改革加速に係る伴走支援事業」に5億円です。
補助率は10分の10で、対象経費は人件費・旅費・謝金・設備施設整備費など。支援期間は3年程度とされています。根拠は「強い経済」を実現する総合経済対策(令和7年11月21日 閣議決定)で、いわゆる高校無償化とあわせた公立高校・専門高校への支援拡充という位置づけです。
起点は2026年2月の「グランドデザイン」
この基金が実現しようとしているのは、2026年2月13日に公表された「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けたN-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想~」です。N-E.X.T.は New Education, New Excellence, New Transformation of High Schools の略で、グランドデザインが掲げる3つの視点にそのまま対応しています。
- New Transformation:学びの在り方の転換(リアルとデジタルの良さを組み合わせ、「好き」を育み「得意」を伸ばす)
- New Excellence:最先端を学ぶ高校の特色化・魅力化(探究・文理横断・STEAM、学科構成の見直し)
- New Education:学ぶ機会・アクセスの確保(遠隔授業等の推進、通信制の質確保、不登校生徒への学習支援)
2040年に向けた数値目標
グランドデザインは2040年までの目標も置いています。地域の産業界等と連携・協働した取組を行う専門高校を100%、少子化傾向でも専門高校の生徒数を現在と同水準に。文理横断的な学びに取り組む普通科高校を100%、普通科の文系・理系の生徒割合を同程度に。そして高校卒業段階の進路未決定者の割合を半減させる、というものです。
背景にあるのは2つの数字です。2040年には高校1年生が約36%減少すること。そして現時点ですでに約64%の市区町村で公立高校の立地が0または1校であること。「減る」と「無い」が同時に進むなかで、何を残し何を変えるかを決める——それがこの基金の役割です。職業教育の高度化という方向は、高専(高等専門学校)改革とも同じ線の上にあります。
採択158校、3つの類型と学科の内訳

類型別の採択数
確定した採択結果一覧には、47都道府県・158校(教育委員会が設置する機関を含む)が並んでいます。改革先導校は次の3類型に分かれ、内訳は一覧を数えると以下のとおりです(1校で2類型にまたがる3校を含むため、のべ161)。
- ① アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援:76校(9月時点69校)
- ② 理数系人材育成支援:46校(同37校)
- ③ 多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保:39校(同32校)
これとは別に、放課後等を活用した学力向上・学習支援の取組が158校中91校(58%)に付いています。大学生や専門家による学習支援、地域連携・協働による取組など、類型と重ねて実施される形です。
学科別では普通科73、工業科44
採択結果一覧に添えられた集計ページには、事業計画に含まれる学科数が載っています(1校で学科を併置する場合は学科ごとにカウント)。
- 普通科等(計109):普通科73 / 理数科13 / その他13 / 総合学科10
- 専門学科(計105):工業科44 / 農業科28 / 商業科13 / 水産科9 / 家庭科5 / 福祉科3 / 看護科2 / 情報科1
9月時点では専門学科(95)が普通科等(92)をわずかに上回っていましたが、第2回の追加で普通科等が109、専門学科が105と逆転しました。単独では普通科73が最多、専門学科では工業科44が突出という形は変わりません。高校のほかに、教育委員会が設置する機関(遠隔授業のための拠点等)が7つ採択されています(9月時点は5つ)。学校だけでなく「拠点」に金を出す設計になっている点は、③の類型を読むうえで効いてきます。
追加公募第2回で何が加わったか

採択ゼロだった4都県に12校
第2回の申請は12都道府県から31校で、外部有識者の審査を経て23校が採択されました。9月時点で採択がゼロだった4都県は、すべてこの回で先導校を得ています。
- 青森県:4校(弘前工業・八戸北・青森南・三本木農業恵拓)
- 東京都:1校(蔵前工科)
- 神奈川県:3校(中央農業・座間・川崎)
- 新潟県:4校(新潟県央工業・国際情報・新潟県遠隔教育配信センター・高田農業)
このほか、9月時点で1校だった宮城・埼玉・兵庫・三重の4県も、宮城と埼玉が2校、兵庫と三重が3校になっています。
最後に加わった学校が、上限額の上位に
目を引くのは、第2回で加わった学校が金額の上位に入ったことです。1校あたりの上限額は、和歌山県立和歌山工業高等学校の39.0億円が最大のままですが、2位は神奈川県立中央農業高等学校の37.1億円、3位は新潟県立新潟県央工業高等学校の35.2億円で、いずれも第2回の採択です。神奈川県は9月に追加公募へ再申請し、申請した3校すべてが採択されたと報じられています。最後に加わった自治体が、大型の計画を通した形です。
金額を並べると見えるもの——「1県62億円」の壁

上限額の合計は約2,640億円
採択結果一覧には1校ごとの支援上限額が載っています。158校分を合計すると約2,640億円。事業費2,950億円の約9割が、行き先を決めたことになります(9月時点の135校では約2,266億円・約77%でした)。
1校あたりの平均は16.7億円、中央値は約16.0億円。最小は京都府立京都八幡高等学校の1.8億円で、最大の和歌山工業との間には20倍以上の開きがあります。分布としては10億円以上20億円未満に85校が集中し、30億円以上は8校でした。なお、一覧の注記にあるとおり、上限額は交付手続きの中で技術的な確認・精査を経て減額されることがあります。
32道府県が60億円台に集まっている
都道府県ごとに合計すると、はっきりした特徴が出ます。60億円台に32道府県が密集しているのです。62.0億円ちょうどが山形・茨城・群馬・千葉・福井・愛知・京都・和歌山・徳島・熊本・鹿児島・秋田・富山・静岡の14府県、62.1億円が長野・福島・山梨・滋賀・大分の5県、61.9億円が青森・石川・大阪・広島・愛媛・佐賀の6府県。
申請は都道府県ごとに計4校までとされています。公表資料に1県あたりの上限額は明記されていませんが、この張り付き方を見るかぎり、金額の側にも1県あたり62億円前後という事実上の枠が置かれていると考えるのが自然でしょう。62.2億円を超えるのは福岡県64.8億円と新潟県62.4億円の2県だけです。
東京は1校、25.4億円
一方で、大都市圏の厚みは最後まで出ませんでした。最も少ないのは東京都の25.4億円(蔵前工科の1校のみ)で、山口県28.2億円、埼玉県30.9億円が続きます。人口規模の大きい自治体ほど、どの学校を「先導校」に選ぶかの判断が難しかった可能性があります。先導校の数や金額の多寡は、その都道府県の高校改革の本気度をそのまま表すものではない、という点には注意が必要です。
何が始まるのか——取組例を読む

文部科学省は採択結果とあわせて、40の事例をまとめた「取組事例集」を公表しています(類型①20事例、②10事例、③10事例のほか、学力向上・学習支援の4事例)。抽象論ではなく、どの学科に何を新設するかまで書かれているので、3類型から見てみます。
① 札幌工業高校——「半導体技術者コース」を新設
北海道札幌工業高等学校は、Rapidus等の半導体関連企業と連携して「半導体技術者コース」を新設します。目を引くのは、建築科・土木科も改革の対象になっていることです。半導体工場のクリーンルーム空調設備の建設、製造を支える電力設備や河川からの水供給といったインフラ整備、AI・データサイエンスの活用を学ぶ、という組み立てです。背景として挙げられているのは「2040年には高校(工業科)卒業者が5.7万人不足する見込み」という推計でした。
大阪府立の新工業系高等学校(仮称)はさらに踏み込んでいて、ヒューマノイドロボットの開発を軸に6専攻から3つを融合的に学ばせ、「数学Ⅰ・Ⅱ」「物理基礎」「化学基礎」をロボットの走行やモータ制御と結びつけて学習するモデルを構築するとしています。共通教科を専門科目の文脈で学び直させる設計です。
① 東京・蔵前工科高校——4学科を「都市未来工学科」1つに

第2回で東京都から唯一採択された都立蔵前工科高等学校は、機械科・電気科・建築科・設備工業科の4学科を単一の「都市未来工学科」に再編します。1年次は都市を一体的に捉える共通学習に取り組み、2年次から「都市デザイン」「都市インフラ」「スマートエネルギー・都市システム」「ロボティクス・モビリティ」「都市DX・マネジメント」の5コースに分かれる設計です。
学校設定科目「都市インフラ工学Ⅰ・Ⅱ」を新設し、東京の都市構造やインフラ、防災、GX、維持管理を学ぶほか、AIやロボット、ドローンで都市インフラを点検・管理する技術も扱います。2年次後半からは5コース混成チームで、企業や大学、行政機関が示した実社会の課題に取り組む「KURAMAE CREATE PROJECT」を行い、成果をデジタルツイン上の未来都市構想として統合して発信する、としています。背景には、都内唯一の設備工業科を持ちながら定員割れが常態化している、という事情が率直に書かれています。
② 秋田高校——探究を6単位へ倍増、3年間で210時間
秋田県立秋田高等学校は、「総合的な探究の時間」等の探究活動を6単位へ倍増させ、3年間で210時間のSTEAM探究を実施します。「情報Ⅰ」を1年次に前倒しし、学校設定科目「STEAM基礎」「STEAM探究Ⅰ・Ⅱ」を新設。洋上風力発電など県の成長産業をテーマに据えました。
熊本県立人吉高等学校は文理選択を3年次に変更し、1・2年次は全生徒が理数的素養を身に付ける教育課程へ転換します。データ分析やベクトル・行列などAI技術の基礎を学ぶ学校設定科目「HITOYOSHI STEAMⅠ・Ⅱ」を置く構想です。
② 青森・八戸北高校——文理選択を撤廃し、探究を280時間に

第2回で採択された青森県立八戸北高等学校は、さらに一歩進めて文理選択そのものを廃止します。令和10年度の「データサイエンス科」への学科改編を見据え、学校設定科目「AI・データサイエンス探究」を新設し、探究活動の時数を3年間で280時間(8単位)へと倍以上に拡充する計画です。全教科でデータサイエンスや理数的な考え方を取り入れる「X・ラーニング」も展開します。
背景として挙げられているのは、2040年に県内で大卒理系人材が約1.6万人不足する見込みであることと、普通科高校から理工系大学への進学率が約20%にとどまっていることです。グランドデザインの「文理横断的な学びに取り組む普通科高校100%」が、現場ではこういう形をとります。
③ 鹿児島・開陽高校——3つの課程を半期ごとに行き来する
鹿児島県立開陽高等学校は、全日制・定時制・通信制を半期ごとに行き来できる仕組みをつくります。学習状況や進路希望、生活環境の変化に応じて学び方を選べるようにするもので、オンデマンド教材とLMSを活用して自分のペースで学習を進められるようにする、県立夜間中学「いろは中学校」と連携して義務教育段階から学び直せるようにする、といった設計が並びます。生徒はアプリに学習記録やアンケート回答を記録し、教員やスクールカウンセラーがそれを見て支援する仕組みです。
第2回では、兵庫県の「ひょうご学びのデザインセンター」も③の類型で採択されました。小規模校の生徒が遠隔で履修し単位認定を受けられる仕組みをつくるもので、学校ではなく県全体の小規模校を支える拠点に予算を付けた例です。
先導校は「数値目標」を掲げている

現状、令和10年度、令和13年度
取組事例集の各ページには、「高校生の未来の姿(指標の例)」として、現状・令和10年度・令和13年度の3時点の数値目標が載っています。いくつか拾うと、次のとおりです。
- 北海道札幌工業:就職者のうち半導体関連産業への就職者の割合 6%→12%→30%
- 青森・八戸北:女子生徒の理工系分野への進学率 4%→10%→30%、理工系学部への進学率 23%→30%→50%
- 東京・蔵前工科:強靭化に資する主要企業等への就職者数 108人→115人→130人
- 群馬・前橋清陵:卒業時点における進路未決定者の割合 25%→15%以下→5%以下
- 沖縄・真和志:介護福祉士国家試験合格率 86%→90%→95%
就職先や進学先、資格試験の合格率など、学校の外で確かめられる数字が多いのが特徴です。支援期間は3年程度ですが、目標は令和13年度、つまり基金の支援が終わったあとまで置かれています。
財務省は「指標の達成状況」で検証を求めた
この指標は、予算の議論にも直結しています。財務省は10月22日の財政制度等審議会の分科会に提出した資料で、文部科学省が令和9年度概算要求に盛り込んだ高校教育改革のための新たな交付金について、「安定財源を確保した上で」行うこととされている点を指摘し、都道府県の取組を踏まえて検討すべきだとしました。そのうえで、現在採択が進む基金について「改革先導校ごとに設定された指標の達成状況など、費用対効果も含め、その効果検証が必要」と書いています。
翌23日の会見でこの指摘について問われた関大臣は、交付金は都道府県の実行計画に位置付けられた取組を「面」で支援し、パイロットケースの全国的な実装を加速するものだと説明し、先導校の取組水準を分析したうえで来年度の創設に全力で取り組む考えを示しました。
1校あたりいくら、何に使うのか

中央値は類型①で約17.9億円
同じ財務省資料には、採択先導校の申請額(文部科学省からの情報提供)をもとにした、1校あたりの事業費の中央値が類型別に載っています。
- 類型①(アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援):17億9,405万円
- 類型②(理数系人材育成支援):13億7,901万円
- 類型③(多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保):9億9,571万円
最大は施設整備、人件費は3〜4千万円台
内訳を見ると、どの類型でも最も大きいのは施設整備(実習室等の高度化、STEAM・データサイエンスの学習環境、通級・特別支援空間など)で、類型①では10億8,511万円にのぼります。設備・備品費(実験設備、ICT機器、遠隔配信機器等)は類型①で5億7,066万円。これに対して、コーディネーターや外部専門人材、大学・地域連携人材などの人件費・謝金は3,445万〜4,069万円です。
補助率10分の10の基金で、使い道の中心は建物と設備です。3年後に交付金へ移るとき、整えた実習室や機器を動かし続ける人と教材を誰が用意するのか。金額の配分は、その問いも同時に投げかけています。
先導校158校の先に、協力校約1,240校

「広げる」ところまでが事業に含まれている
この事業の設計でもっとも見落とされやすいのが、採択された学校だけで完結しないという点です。採択結果一覧には「協力校一覧」が12ページ分あり、先導校ごとに、取組を共有する域内の学校が列挙されています。
都道府県と校名の組み合わせで重複を除いて数えると約1,240校(うち高等学校約1,120校)。先導校158校に対して、およそ8倍の学校が普及先として名前を連ねていることになります。中学校・小学校・特別支援学校のほか、大学や農業大学校の名前もあります。鹿児島県立開陽高等学校のように20校以上を挙げている先導校もあります。
3年で終わる支援と、その後
基金の支援期間は3年程度です。文部科学省は、少数の先導校を基金で支援し、その成果を各地の高校に広げる取組は交付金で支援するという二段構えを描いており、令和9年度概算要求には「高等学校教育改革交付金」等の創設を金額を決めない事項要求として盛り込みました。取組事例集の各ページにも「他校への普及方策」の欄があり、公開授業や教員研修、成果発表会、協力校とのプログラムの共有といった計画が書き込まれています。
つまり「3年でモデルを作り、そこから先は別の財源で広げる」という前提が最初から置かれている。先導校がこの3年でつくる学科・科目・教材は、はじめから他校が使える形であることを求められている、ということでもあります。
これから決まること

採択は確定、次は年末の予算編成
追加公募第2回で、申請に対する採択はすべて終わりました。これ以上の公募は予定されておらず、先導校は158校で確定です。次の焦点は、年末の予算編成で新たな交付金がどのような形で認められるかです。財務省は安定財源の確保と効果検証を求め、文部科学省は来年度の創設を目指す、という構図になっています。
審査委員会の構成の公表
審査は文部科学省が開催する外部有識者からなる審査委員会が行い、その構成は本事業に係る審査がすべて終了した段階で公表するとされていました。採択が出そろったことで、誰がどんな観点で選んだのかが明らかになる段階に入ります。
学科改編は数年がかりで効いてくる
採択された計画の多くは学科・コースの再編を含みます。蔵前工科の「都市未来工学科」、八戸北の「データサイエンス科」(令和10年度)のように、学科名の変更は入学者選抜の要項に反映され、志願者にとっては進路選択そのものが変わります。指標の目標年度が令和13年度に置かれていることからも分かるように、影響が数字に表れるのは数年先です。
教材制作の現場への示唆
教科書のない科目が、一斉に生まれる
今回の採択で最も実務に効くのは、学校設定科目の新設が158校で同時に走ることです。「半導体技術者コース」「STEAM基礎」「STEAM探究Ⅰ・Ⅱ」「HITOYOSHI STEAMⅠ・Ⅱ」「都市インフラ工学Ⅰ・Ⅱ」「AI・データサイエンス探究」——いずれも検定教科書が存在しない科目です。佐賀県立佐賀商業高等学校の「AI・データサイエンス概論」、秋田県立男鹿海洋高等学校の全学科必修「男鹿の地域資源」など、取組例に挙がっているだけでも相当な数にのぼります。シラバスから教材、評価規準まで、学校がゼロから用意することになります。地域の産業や企業の実データを扱う科目が多く、汎用の市販教材では埋まりません。
「他校でも使えるか」が最初から条件になる
先導校158校に対して協力校約1,240校という構図は、教材づくりの要件をひとつ増やします。その学校の設備や地域事情に密着しすぎた教材は、そのままでは広がりません。どこを固定し、どこを差し替え可能にするか——地域名・企業名・データだけを入れ替えれば他校でも成立する構造にしておけるかどうかが、3年後に効いてきます。紙とデジタルのどちらで持つかの判断も、更新頻度と配布範囲から逆算することになります(関連: 紙教材とデジタル教材、どう使い分ける?)。
指標を動かす教材か、が問われる
先導校が掲げる指標は、就職先、進学先、資格の合格率といった「出口」の数字です。財務省が効果検証を求めている以上、3年後には、施設や設備だけでなく、教材や授業がその数字にどうつながったのかを説明する場面が来ます。生徒の学習記録を残せる設計にしておく、単元ごとに何ができるようになったかを確かめる課題を用意しておく。教材の側にも、効果を示せる作りが求められます(関連: 学習データを活かすデジタル教材)。
「多様な学習ニーズ」は配信設計の話でもある
③の類型に採択された39校と、遠隔授業のための拠点7つ。開陽高校のようにオンデマンド教材とLMSを前提にする学校や、ひょうご学びのデザインセンターのように遠隔履修で小規模校を支える拠点では、教材は「作って渡す」ものではなく、学習記録が戻ってくる前提で設計するものになります。1本の動画教材でも、どこで止まったか・どこを繰り返したかが可視化されるかどうかで、次の一手が変わります。
理数系人材育成は、PISAが示した課題とつながっている
②の理数系人材育成支援46校が目指す姿は、9月に公表されたPISA2025の結果とも重なります。日本は3分野すべてでOECD加盟国中1位を維持した一方、低得点層が3分野で有意に増え、学習への関与が高い生徒の割合はOECD平均を下回りました(参考: PISA2025を読む)。探究を6単位や8単位に増やす、文理選択を遅らせたりなくしたりする——といった今回の計画は、「できる生徒をさらに伸ばす」よりも「学びへの向かい方そのものを変える」方向を向いています。教材の側も、解ける問題を増やすだけでなく、生徒が自分で問いを立てられる素材を用意できるかが問われます。
エデュコンでは、テキスト教材・問題集・参考書の制作や探究学習(総合的な探究の時間)教材の制作で、学校設定科目の教材づくりにも対応しています。オンデマンド配信やLMSを前提とした教材はデジタル教材制作をご覧ください。
なお、本コラムの数値は、文部科学省「令和7年度 産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業の採択結果について」(令和8年10月23日更新)の採択結果一覧・協力校一覧・取組事例集、「関芳弘文部科学大臣記者会見録(令和8年10月23日)」、財務省「財政制度等審議会 財政制度分科会(令和8年10月22日)資料2 文教・科学技術」、「高等学校教育改革促進基金の創設」、および「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)」(令和8年2月13日)に基づいています。上限額の合計・都道府県別の集計・協力校数は、採択結果一覧から本コラムで集計したものです。9月時点の数値は、2026年9月15日公表の採択結果にもとづく本コラムの初版の集計です。(2026年11月2日更新:追加公募第2回の結果を反映)
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。
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