デジタル教科書に載せてよいもの、いけないもの──検定の骨子案が示した線引き
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2026年9月2日、教科用図書検定調査審議会の総括部会に「教科書検定の改善に関する方向性(骨子案)」が示されました。報道では「娯楽性の高いゲームや漫画は不可」「動画の総量に上限」といった見出しで伝えられています。ただ、12ページの骨子案そのものを読むと、線引きの根拠になっている考え方や、教材をつくる側に効いてくる要件は、報じられた範囲よりずっと広くあります。本コラムでは、教材・問題制作の現場の視点から、骨子案の記述をたどって整理します。
9月2日に示された「骨子案」とは
検定のルールを決める場
2026年6月10日に「学校教育法等の一部を改正する法律」が成立し、デジタルな形態を含むものを正式な「教科書」として位置づけることが決まりました。ただし施行に必要な政省令等の改正は令和8年度中に行う予定で、骨子案自身も「制度改正が実現した場合」という書き方をしています。制度の入り口が開いた以上、次に決めなければならないのは中身のルールです。何を載せてよく、何を載せてはいけないのか。それを審査するのが教科書検定であり、その基準を検討しているのが教科用図書検定調査審議会です。法改正そのものの流れはデジタル教科書の発行・採択はどう変わる?で扱いました。
9月2日の総括部会(第2回)に示された資料1-2「教科書検定の改善に関する方向性(骨子案)」は、その検討の中間地点にあたる文書です。全体を通じて「〜としてはどうか」という提案の形で書かれており、確定した基準ではなくたたき台です。文部科学省は秋頃までに審議会としてのとりまとめを行う予定としています。
制作は2027年度から始まる
同じ会議の参考資料1に、制度整備の工程表が載っています。
- 令和8年度(2026):大臣指針の策定、検定審査の在り方のとりまとめ、標準仕様のとりまとめ
- 令和9年度(2027):大臣指針も踏まえた著作・編集
- 令和10年度(2028):令和12年度使用教科書(小学校)の検定
- 令和11年度(2029):発行・採択
- 令和12年度(2030):学校現場での使用開始
使用開始は2030年度ですが、つくり始めるのは2027年度です。いま議論されている線引きが、来年度から始まる制作をそのまま縛ります。骨子案の段階で内容を把握しておく実益は、ここにあります。
載せてよいもの、いけないもの

認められる方向で例示されたもの
骨子案は、「教科の本質的理解の獲得に向けて、授業において活用することが考えられるコンテンツ」として次を挙げています。
- 古文や漢文に書かれている服装、調度品、楽器、風景など、児童生徒が普段触れる機会のない事柄の理解に資する動画
- 地域での調査にあたってフィールドワークの方法を事前に学べる動画
- 図形やグラフを変化させる操作によって、試行錯誤しながら視覚的に学べるシミュレーション
- 実験や観察を安全かつ効果的に実施することに資する、器具の使用方法や手順を解説する動画
- 楽器の奏法、材料や用具の扱い方、調理の方法、ミシン縫いや手縫いの手順、材料に応じた作業方法など、技能の習得に資する動画
- 応急手当や心肺蘇生法、運動やスポーツの動作・技術・戦術など、文字や図画では表しにくい内容を学べる動画
- 発音を繰り返し聞くことができ、聞くこと・話すことの資質・能力の育成に資する外国語の音声
認められないと想定されたもの
対して、「教科書としての掲載は認められないと想定されるコンテンツ」として挙げられたのが次の7つです。
- 国語や道徳で、題材の種類やねらいを踏まえず、文章を単に音読した音声データを全編にわたって掲載するもの
- 授業で活用する情報量を考慮せず、膨大な情報量を含むデータを掲載するもの
- 理解を深めるための類題の域を超えた、反復練習のための大量の練習問題、入学試験や資格試験を掲載するもの
- 生物や物質等の情報を網羅的に掲載した図鑑データ
- 教科の本質的理解と関わりの薄い娯楽の要素が多く含まれたゲームや漫画
- 学習内容と関連がないわけではないが、授業の中で扱うことは想定されない参考情報を羅列するもの
- 文字や静止図画で記述している内容を教師に代わって単に説明する講義動画・解説動画など、授業自体を代替するようなもの
報道が見出しに採った「ゲームや漫画」は7つのうちの1つにすぎません。教材会社の感覚からすると、むしろ効くのは「ドリル」と「図鑑」と「講義動画」のほうです。いずれも、デジタル教材としては王道の形式だからです。
線引きの正体は、3つの要件

満たすべきものが先にある
NG例が7つ並ぶと「これは避けよう」というチェックリストに見えますが、骨子案の構造は逆です。先に要件があり、それを満たさないものの例としてNG例が並んでいます。
デジタルコンテンツは、現行の検定基準の要件に加えて、次を満たすものとしてはどうか、とされています。
1. 学習指導要領を踏まえ、その教科の本質的理解の獲得に資するものであること
2. 学習における活用目的および活用方法が明確であること
3. 原則として授業時数の中で、当該コンテンツを活用した学習活動を行うことが想定されていること
だから図鑑もドリルも外れる
この3要件に当てると、NG例の並びが腑に落ちます。網羅的な図鑑データは「授業時数の中で使う学習活動」が想定できません。反復練習のための大量の問題も同様です。講義動画は、教科の本質的理解に資さないのではなく、授業自体を代替してしまうため外れます。
骨子案は理由も書いています。学習指導要領で指導することとされている内容が動画等のみで掲載されると、「動画等を視聴させるのみで指導を行ったこととするような使用方法も招きかねず」、児童生徒の履修を担保する観点や、教師による授業づくりを促す観点から望ましくない、と。教科書は授業を置き換える道具ではない、という一線です。
「説明できること」が条件になる
もう1つ、コンテンツ全般にかかる条件があります。教科書に掲載できるデジタルコンテンツや機能は、「児童生徒の入力や操作に対して出力される結果の適切さ、正確さを、教科書発行者が確実に説明することができ、また検定審査においてこれを確認することができるものに限定する」というものです。
インタラクティブな仕掛けをつくるほど、出力のパターンは増えます。その全部について正しさを説明できるかが、そのまま搭載可否の線になります。
動画は「総量」に上限がかかる
5時間を超えている現状
骨子案は、現行の紙の教科書の二次元コード先の実態に触れています。「主たる教材としての教科書に掲載することにはそぐわないと考えられるものも含む多種多様な動画が掲載されており、中には1点の教科書の二次元コード先に合計5時間を超えるような分量の動画を掲載している」状況がある、と。
この現状と、次期学習指導要領で議論されている教科書の内容・分量の精選を踏まえ、動画の総量に上限を定める方向が示されました。
教科の特性で4つに分ける
上限は一律ではありません。①技能の習得にあたって動画の活用が特に有効と考えられる教科、②観察・実験を通して学ぶことが重要である教科、③言語活動の充実に向けて動画の活用が効果的と考えられる教科、④それ以外の教科──という区分を踏まえて、受理種目・受理単位ごとに上限の時間数を定めるという考え方です。
なお「動画」の定義も広く取られています。再生操作によって静止画を連続して自動表示するもので、スライドショーやアニメーションも含むとされました。静止画を並べて音声を付けたものも動画として数えられることになります。
動画固有の審査観点
動画には、内容の正確性のほかに固有の観点が置かれました。不安や恐怖を感じさせる映像、強い光や点滅を含む映像が心身に与える影響への配慮。そして「視聴する者が通常知覚できない技法で潜在意識に働きかける表現を行わないこと」を要件として明示する、という項目もあります。
理科については固有の基準として、動画は「実際の実験及び観察を通して学習がなされるよう、適切な配慮がなされていること」が挙げられました。動画で実験を見せて済ませないための歯止めです。動画教材そのものの設計の考え方は「学べる」動画教材のつくり方でも扱っています。
外部リンクは掲載しない

「発行者が編修・管理できるもの」に限定
構成面でもっとも影響が大きいのがこの項目です。教科書として掲載可能なデジタルコンテンツ等は「教科書発行者の責任において編修し、管理することが可能なものに限定し、外部のウェブページのアドレスや教科書ではない教材へのリンクは掲載しない」ことを要件としてはどうか、とされました。
いまの紙の教科書は、二次元コードで外部の教材へ飛ばす作りが一般的です。その運用が、デジタル教科書では成り立たなくなります。外に置いてリンクするのではなく、教科書の中に入れて責任を持つか、教科書の外の教材として切り離すか。二択になります。
紙が主、デジタルが従
もう1つ、原則が明記されました。学習指導要領に示す「内容」「内容の取扱い」の事項は、文字および静止図画によって不足なく取り上げることとし、デジタルコンテンツは文字・静止図画の記述と密接な関連を有するものであることを要件とする、という組み立てです。例外は、外国語の「聞くこと」のための音声など、教科特性上必要な場合に限られます。
さらに、紙とデジタルを組み合わせた形態では、同一の文字・静止図画を紙とデジタルに重複掲載することは原則として認めない方向です。認められるのは、動画やシミュレーションを活用するにあたって必ず参照する必要がある記述など、デジタル部分を使ううえで欠かせない内容に限る、とされました。紙をそのままPDF化してデジタル部分に添える、という作り方は取れません。
デジタルにも「ページ」がある
構成の要件も具体的です。デジタル部分の文字や図画の記述についても、「児童生徒がスクロールやクリック、拡大・縮小等することなく端末の画面内に一度に表示して判読できる分量ごとに、ページ番号等を振って区切る」ことを要件としてはどうか、とされています。
理由は明快で、教科書は教師と児童生徒が一緒に使うものだからです。「ここを開いて」が成立しなければ授業になりません。無限スクロールのWebページのような作りは取れないということです。あわせて、系統的・発展的に構成され、網羅的・羅列的になっていないこと、紙とデジタルの相互の対応関係を教科書内に明示することも要件に挙がっています。
AIの搭載は、まだ決まっていない
骨子案は、AIの教科書への搭載について可否そのものを保留しました。今後の技術の進展を踏まえつつ、当面は次の観点を整理していく必要がある、という書き方です。
- 教育や授業の在り方、教科書の役割や教材との役割分担も踏まえた、教科書へのAI搭載の必要性
- どのようなAIが教科書への搭載の対象となり得るか
- AI自体の性能や信頼性、出力結果の適切さ・正確さを担保する方法
- 教科書検定の意義・役割との関係の整理
- 検定においてどのような基準、方法、体制で審査を行い得るか
前提には、先に触れた「出力される結果の適切さ、正確さを、教科書発行者が確実に説明することができ」るものに限定する、という条件があります。生成AIのように出力が毎回変わるものを、この条件のもとで検定にかけられるのか。そこが整理されない限り、教科書本体にAIは載らないという構図です。
一方、次期学習指導要領の審議まとめ素案では、全教科にAIの記述が入り、国が教材を年1回以上更新する条件整備まで示されています(全教科の学習指導要領に「AI」が入る)。学習指導要領はAIに踏み込み、教科書検定は慎重に構える。同じ2026年の夏から秋に、方向の違う2つの判断が並んでいるのは、教科書が「検定を経た主たる教材」であることの重さゆえです。
教材制作の現場から見た論点

「校正体制」そのものが提出物になる
骨子案の後半、デジタルとは別立ての「その他の教科書検定に関する諸課題」に、見逃せない項目があります。検定済みの教科書の編修・校正体制の確保です。
検定済みの教科書は、採択を経て学校で使われる期間、統計資料の更新や客観的事情の変更による記述の変更、新たに発見された誤記の訂正が必要になります。その正確性を担保するには発行者の責任による編修・校正体制の構築・維持が不可欠だとして、「検定後の見本の提出に合わせて、採択・供給の間の編修校正関係者名簿の提出を求め、発行者における検定済みの教科書の編修・校正体制を確認することとしてはどうか」とされました。
つまり、校正体制を持っていることを書面で示す必要が生じます。これまで社内の運用に委ねられてきた部分が、制度の側から可視化を求められる形です。あわせて、教科書協会等の研修に「デジタルツールの活用を含む効果的な著作編修の方法」を取り入れることを促す、という項目もあります。
訂正できるタイミングが決まっている
デジタルなら誤りをいつでも直せる──そうはならない方向です。骨子案は、誤記・誤植等の訂正は承認を得次第、供給済みのデジタル部分に随時反映してよいとする一方、それ以外の訂正(統計資料の更新など)の反映は学校の長期休暇中の時期に限るとしています。単元の途中で資料が頻繁に変わると、教師の指導にも児童生徒の学習にも支障が生じうるためです。
加えて、訂正内容だけでなくその反映時期も併せて周知すること、教科書を使っている児童生徒自身にも分かりやすく伝わるよう配慮することが求められています。制作側から見れば、修正の計画性がこれまで以上に問われるということです。
動画には台本の提出が要る
手続き面から1つだけ。検定申請では、動画・音声についてファイルとともにスクリプトの提出を求める方向が示されています。検定意見が付いた場合の修正表にも、スクリプトの原文と変更文、あるいは静止画と説明文による原案と変更案を記入することになります。
これは実務上、動画を「台本のある制作物」として管理していないと成り立たないことを意味します。撮って編集して終わり、ではなく、話す内容が文字で確定していて、差分が説明できる状態。紙の原稿で当たり前にやってきた進め方を、動画にも適用することになります。デジタル教材の設計全般についてはデジタル教材制作の設計ポイントもご覧ください。
よくある質問(FAQ)
これは決まったルールですか?
いいえ。骨子案は全体が「〜としてはどうか」という提案の形で書かれたたたき台です。文部科学省は秋頃までに審議会としてのとりまとめを行う予定としており、内容は今後変わりえます。
ゲームや漫画は一切使えないのですか?
骨子案が挙げたのは「教科の本質的理解と関わりの薄い娯楽の要素が多く含まれたゲームや漫画」です。形式そのものを禁じたものではなく、3つの要件(本質的理解に資する/活用目的と方法が明確/授業時数の中で使う)を満たすかどうかで判断される整理になっています。
動画は何分までですか?
具体的な時間数はまだ示されていません。教科の特性を4区分し、受理種目・受理単位ごとに上限を定める、という方向が示された段階です。判断材料として、現状では1点の教科書の二次元コード先に合計5時間を超える動画が置かれている例があることが問題視されています。
二次元コードは使えなくなりますか?
骨子案は、外部のウェブページのアドレスや教科書ではない教材へのリンクを掲載しないことを要件とする方向を示しています。教科書の一部として発行者が編修・管理するコンテンツと、教科書の外の教材とを、はっきり分ける考え方です。
教科書にAIは載りますか?
現時点では未定です。搭載の必要性、対象となるAIの範囲、出力の正確さを担保する方法、検定の意義との関係、審査の基準・方法・体制という5つの観点を整理していく必要がある、とされた段階にとどまっています。
教材会社にはどんな影響がありますか?
大きく3つです。ドリル・図鑑・講義動画といった定番形式が教科書本体には載せにくくなること、外部リンクが使えず教科書の中に取り込むか外に切り離すかの二択になること、そして編修・校正体制の可視化と、動画のスクリプト管理が求められることです。
まとめ
9月2日の骨子案は、「デジタルだから何でも載せられる」という前提を早い段階で否定しました。線引きの根拠は3つの要件──教科の本質的理解に資すること、活用目的と方法が明確であること、授業時数の中で使う学習活動が想定されていること。授業を置き換えるものではなく、授業で使うものという一点で、ゲームも図鑑もドリルも講義動画も同じ理由で外れていきます。
制作が始まるのは2027年度です。決まりきってから動くには近すぎます。そして骨子案は、コンテンツの中身だけでなく、つくる側の体制そのもの──編修・校正の関係者名簿、訂正の計画性、動画のスクリプト管理──にも踏み込みました。ここは、これまで見えにくかった仕事が制度上の要件になる部分です。
エデュコンは、デジタル教材制作でデジタル教科書やドリル・演習問題アプリを、校正・校閲で教材の品質担保を、いずれも企画から一貫して承っています。デジタル教科書時代の教材設計と校正体制について、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。





















