
「この用語は、説明なしで問題文に書いてよいのか」。高校の「情報Ⅰ」は2022年度に必履修科目になり、2025年からは大学入学共通テストでも出題されていますが、教科の歴史が浅く、どの用語がどの程度まで共通の前提になっているのかがはっきりしません。作問する大学や、教える高校の先生が判断に迷うのはこの点です。その判断材料として、情報処理学会の情報入試委員会が2026年10月13日、「情報科全教科書用語リスト第2版」を公開しました。2026年度版の「情報Ⅰ」教科書に合わせた改訂です。本コラムでは、公開されたスプレッドシートを実際に開いて、何が入っているのか、「総意率」をどう読めばよいのか、改訂でどんな用語が増え、どんな用語が消えたのかを確認し、入試問題をつくる側から見た使い方と注意点を整理します。
この記事の要点
- 情報処理学会は2026年10月13日、高校情報科の全教科書131冊の索引に載った6,108語を整理した「情報科全教科書用語リスト第2版」を公開した(CC BY-SA 4.0)
- 用語ごとの「総意率」が0.5以上なら、各社教科書の半分以上に載っている「総意語」とみなせる。総意語は2022年度版の383語から2026年度版の436語に増えた(公開データを当社で集計)
- 2026年度版の改訂で、生成AI・エコーチェンバーは初登場で総意語に入り、多要素認証は0.18から0.72に上がった。DTPやTwitterは索引から消えた
- 作問では、総意率が高い用語は説明なしで使い、低い用語は出題を避けるか説明を付ける。ただし公式の出題範囲ではなく、索引に無いことは本文に無いことを意味しない
「情報科全教科書用語リスト第2版」とは

131冊の教科書の索引から6,108語
このリストは、2026年度時点で出版されている高校情報科の検定済み教科書131冊の索引に載った用語を、すべて集めて整理したものです。対象は「情報A」「情報B」「情報C」(2003年度〜)、「社会と情報」「情報の科学」(2013年度〜)、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」(2022年度〜)の3世代にわたります。収録は6,108語で、そのうち1,854語に説明が付いています。
教科書本体ではなく索引を調べたのは、索引が「教科書をつくった人たちが重要だと考えた語」を抜き出したものだからです。作成にかかわった角田博保氏は、学会誌『情報処理』2024年12月号の解説で、このリストを「入試問題に現れてよい用語を判断するための基盤として使える」ものと位置付けています。
同じ内容でも教科書によって表記が違うため、入れ替えても意味が変わらない語は同義語としてまとめてあります。たとえば「10進法|十進法」のように縦棒で区切って1語として扱い、こうした同義語のまとまりは700種類あります。リストはGoogleスプレッドシート(xlsx)で公開されていて、ライセンスはCC BY-SA 4.0(表示・継承)です。
第1版から何が変わったか
第1版は2024年4月に公開され、2022年度版までの教科書が対象でした。第2版では、2026年度に出版された「情報Ⅰ」の教科書13冊(うち10冊は2022年度版の改訂)の索引語が加わりました。説明付きの用語は第1版の最終版(ver.1.3)の698語から1,854語へ約2.7倍に、カテゴリ分けは約1.6倍に細分化されています。
構成も変わりました。各用語の行には、次の列が並びます。
- 属性:2022年度版から2026年度版への改訂で、その用語が継続して載ったのか、新たに載ったのか、削除されたのか
- コード(領域):学習指導要領「情報Ⅰ」の内容のどこに当たるか(例:「1ア」=問題を発見・解決する方法、「4ウ」=データの収集・整理・分析)
- カテゴリ・説明:領域の中の細かな分類と、用語の意味の要約
- 総意率:世代ごとに、どれだけの教科書に載っているかの指標。「情報Ⅰ」は2022年度版(率3.0)と2026年度版(率3.1)を分けて算出
- 掲載教科書:その用語が載っている教科書のコード(「東31」のように出版社1文字+世代1文字+番号1文字)
説明が付くのは、2022年度版で2社以上(1社なら4冊以上)に載った用語と、2026年度版で2社以上に載った用語、または「情報Ⅰ」として初めて登場した用語です。
「総意率」の読み方

教科書の冊数だけでなく、出版社の数も見る
総意率は、ある用語について教科書執筆者の間でどれだけ合意(コンセンサス)がとれているかを表す指標です。1つの出版社が複数の教科書を出していることがあるため、同じ冊数に載っていても、より多くの出版社が載せている用語の方が合意が強いと考えます。そこで「載っている教科書の数×その出版社の数」の平方根を「総意度」とし、総意度の小さい順に用語数で重みを付けて積み上げた割合(累積相対度数)を総意率としています。値は0より大きく1以下です。
計算はやや込み入っていますが、読み方は単純で、解説シートには「大まかに言えば、総意率が0.5以上の用語(総意語と呼ぶ)は、各社教科書の半分以上に載っていることに対応」とあります。0.5を超えていれば、多くの受験生が教科書で目にしている用語と考えてよい、という目安です。
総意語は383語から436語へ
公開データから、「情報Ⅰ」で総意率が0.5以上の用語を数えてみました(同じ用語が複数の領域にまたがって複数行ある場合は1語として数えています)。2022年度版では383語、2026年度版では436語で、改訂を経て「多くの教科書が共通して載せる用語」は1割余り増えています。
ただし、比べる母数が違う点には注意が必要です。2026年度版の集計には改訂版13冊に加え、2026年度も販売されている2022年度版3冊が含まれていて、2022年度版の集計は12冊です。数字は「共通の前提が広がる方向にある」という傾向として読むのが適切です。
2026年度版の改訂で、何が増え、何が消えたか

8つの属性で「改訂の動き」がわかる
2026年度版の「情報Ⅰ」には、2022年度版を改訂した教科書が10組あります。属性の列は、この10組の旧版と新版を比べて、用語が索引にどう扱われたかを示します。基本は「継続」「新規掲載」「削除」の3つで、新規掲載はさらに3つに分かれます。他社の2022年度版には載っていた語が加わった「協調」、2022年度版のどの教科書にも無かったが、それより前の世代の教科書には載っていた「復活」、これまでのどの教科書にも無かった「純増」です。
これらの組み合わせで、属性は8種類あります。1語ずつ数えると、純増が482語、復活が191語、どの組でも削除されて新版のどこにも載らなくなった「削除」が198語でした。協調と継続だけで削除がない、つまり「純粋に必要性が増えている」用語は587語、継続と削除だけで新たな掲載がない「掲載率が下がった」用語は246語です。削除・協調・継続がすべて混ざる「コンセンサス混乱状態」の用語も352語あります。
初登場で総意語に入った「生成AI」「エコーチェンバー」
純増482語の中で、いきなり総意率0.5を超えた用語が2つあります。「生成AI」(0.54)と「エコーチェンバー」(0.52)です。生成AIは2026年度版の7冊(4社)の索引に載りました。人工知能のカテゴリでは、ほかに「ディープラーニング」(0.36)、「プロンプト」(0.32)、「ハルシネーション」(0.22)が純増で入っています。
ほかに純増で目立つのは、「散布図行列」(0.48)、「移動平均」(0.44)、「回帰式」(0.35)といったデータ分析の用語、「メタバース」(0.44)、「MR(複合現実)」(0.32)といった仮想世界の用語、「GPU」(0.40)、IPアドレスの「ネットワーク部」「ホスト部」(各0.40)、「擬似言語」(0.35)、「情報セキュリティの3要素」(0.32)などです。
総意語に上がった「多要素認証」「LATCH」
すでに索引にあった用語で、総意率が大きく上がったものもあります。
- 多要素認証:0.18 → 0.72。2022年度版では1冊にしか無かったが、2026年度版では10冊に載った
- LATCH(情報を整理する5つの観点):0.18 → 0.77
- ランサムウェア:0.46 → 0.75
- 回帰直線:0.44 → 0.75
- 相関係数:0.53 → 0.86
- フィルターバブル:0.18 → 0.56
- Society 5.0:0.46 → 0.68
2022年度版の総意率が0.5未満で、2026年度版で0.5以上になった用語は98語あります。セキュリティ、データ分析、情報社会の課題といった分野で、教科書間の足並みがそろってきたことがわかります。
索引から消えた「DTP」「Twitter」
反対に、改訂で新版のどの教科書の索引からも消えた用語もあります。2022年度版で総意率が比較的高かったものでは、「DTP」(0.41)、「Twitter」(0.36)、「テレビ放送」「ラジオ放送」「電子書籍」「近代郵便制度」(各0.28)、「絶対パス」「相対パス」(各0.28)などです。サービス名の変更や、メディアの歴史をたどる記述の整理が背景にあるとみられます。
総意率が0.5以上から0.5未満に下がった用語は45語で、「相関」(0.65 → 0.37)、「昇順」「降順」(0.62 → 0.44)、「絶対参照」(0.60 → 0.40)、「DNSサーバ」(0.60 → 0.48)などが含まれます。
入試問題をつくる側は、どう使うか

説明なしで使うか、説明を添えるか、外すか
角田氏の解説は、リストの使い方として「試験問題を作る際に、総意率が高ければ説明なく使い、低ければ試験問題に載せないか、説明を付けて載せるかといった判断に使う」ことを最初に挙げています。
たとえば、生成AIの関連で「ハルシネーション」を問題文に書くとき、総意率は0.22で、2026年度版でも1社2冊の索引にしか載っていません。説明を付けずに書けば、その教科書で学んでいない受験生には意味が通じない可能性があります。一方で「生成AI」は0.54なので、説明なしで使っても多くの受験生にとって既知の語と考えられます。用語ごとに、問題文でそのまま使うのか、注を付けるのか、言い換えるのかを決める根拠になります。
多肢選択問題の選択肢づくりに
もう1つの使い方は、多肢選択問題をつくる補助です。同じ領域やカテゴリの用語を集めて、付いている説明を示し、どの用語が正しいかを選ばせる。あるいは用語を示して、複数の説明から正しいものを選ばせる。角田氏の解説が挙げる使い方で、カテゴリが細分化された第2版では、紛らわしい選択肢の候補を同じカテゴリから拾いやすくなっています。
移行期は、2つの版の総意率を両方見る
作問で見落としやすいのが、受験生がどちらの版の教科書で学んだかです。2026年度版で学ぶのは、改訂版を採択した学校で2026年度に「情報Ⅰ」を履修する生徒からです。1年次に履修すれば2029年1月、2年次に履修すれば2028年1月に共通テストを受ける学年にあたります。2027年1月の共通テストや、同じ年度の個別学力試験の受験生は、ほとんどが2022年度版で学んでいます。
つまり、2026年度版で総意語になった用語でも、当面の受験生にとっては教科書に無かった可能性があります。逆に、2026年度版の索引から消えた用語を問題文で使っても、いまの受験生には通じるかもしれません。しばらくは、率3.0と率3.1の両方を見て、どちらの版でも一定以上の総意率がある用語を、説明なしで使える語の目安にするのが安全です。
使うときの3つの注意
公式の出題範囲ではない
共通テストの「情報」は、高等学校学習指導要領に基づいて出題されます。このリストは学会の委員会が教科書の索引を人手で整理した資料で、公式の出題範囲を定めたものではありません。解説シート自身も、「完璧に正確とはいえない」とし、領域コードの分類には主観による部分も多いと断っています。作問の判断材料の1つとして使い、最終的には学習指導要領と解説、教科書本文に当たる必要があります。
索引に無いことは、本文に無いことを意味しない
リストが調べているのは索引です。索引から消えたからといって、教科書の本文から消えたとは限りません。たとえばデータの尺度では、「名義尺度」「順序尺度」「間隔尺度」の総意率は2026年度版でも0.84ありますが、同じ4つで1組になる「比例尺度」だけが0.89から0.22に下がっています。本文では4つを並べて扱いながら、索引に載せる語を絞っただけかもしれません。「相関」が下がり「相関係数」が上がったのも、索引に載せる語の選び方が変わった可能性があります。数値が大きく動いた用語ほど、教科書の本文で扱いを確かめることが大切です。
表記ゆれは、別の用語として残ることがある
同義語のまとめは人手で行われていて、すべての表記ゆれが1語にまとまっているわけではありません。たとえば「PNG形式」は削除になっていますが、「PNG|png」は0.28から0.69に上がっています。索引の表記が「PNG形式」から「PNG」に変わったと考えるのが自然です。総意率を見るときは、似た表記の行も合わせて検索するのが確実です。問題文の表記を決めるときにも、どの表記が多くの教科書で使われているかを確かめる材料になります。
よくある質問(FAQ)
情報科全教科書用語リスト第2版はどこで入手できますか?
情報処理学会 情報入試委員会のWebページで、Googleスプレッドシート(xlsx)として公開されています。ライセンスはCC BY-SA 4.0(表示・継承)です。用語リスト本体のほかに、「解説」「注の説明」「コードとカテゴリの説明」「教科書コード対応表」のシートがあります。
総意率が0.5以上なら、入試に出してよい用語ですか?
総意率0.5以上の「総意語」は、各社教科書の半分以上に載っていることに対応する目安です。説明なしで問題文に使える語かどうかを判断する材料にはなりますが、公式の出題範囲ではありません。出題の可否は、学習指導要領と教科書本文を確認したうえで判断する必要があります。
2027年1月の共通テストは、どちらの版の教科書が前提ですか?
2027年1月に受験する生徒の多くは、2022年度版の「情報Ⅰ」教科書で学んでいます。2026年度版で学んだ生徒が受験生に加わるのは、2年次履修なら2028年1月、1年次履修なら2029年1月からです。共通テストの出題は学習指導要領に基づくもので、特定の版の教科書を前提にするものではありませんが、作問の参考としては率3.0(2022年度版)の総意率も合わせて見るのが安全です。
情報Ⅱや、旧課程の用語も入っていますか?
入っています。「情報Ⅱ」の教科書と、「情報A・B・C」「社会と情報」「情報の科学」の教科書の索引語も収録されています。旧課程の世代には総意率(率2・率1)と掲載教科書が、「情報Ⅱ」には掲載教科書が付いています。古い世代でよく使われた用語が「情報Ⅰ」でどう扱われているかを比べることもできます。
まとめ
情報処理学会の「情報科全教科書用語リスト第2版」は、高校情報科の全教科書131冊の索引から6,108語を整理し、2026年度版の「情報Ⅰ」への改訂を反映したものです。用語ごとの総意率で、その語が各社教科書にどれだけ共通して載っているかがわかり、属性の列で、改訂によって新たに載ったのか、消えたのかがわかります。総意語は2022年度版の383語から2026年度版の436語に増え、生成AIやエコーチェンバーは初登場で総意語に入りました。
作問では、総意率の高い用語は説明なしで使い、低い用語は出題を避けるか説明を添える、という判断の根拠になります。当面は2022年度版で学んだ受験生が中心なので、2つの版の総意率を両方見ることも欠かせません。公式の出題範囲ではないこと、索引に無いことが本文に無いことを意味しないことを踏まえて、教科書本文と合わせて使うのが前提です。
共通テスト「情報Ⅰ」のこれまでの出題傾向は、共通テスト「情報I」2年目の評価とはで整理しています。問題文の用語や表記の確認は、入試問題の校正・校閲チェックリストの観点とも重なります。
エデュコンは、大学・高校・中学の入試問題の作成と、出題ミスを防ぐ第三者の校正・校閲・点検を承っています。「情報Ⅰ」の作問や、問題文の用語が教科書の範囲に収まっているかの点検、高校「情報」の教材・問題制作についても、お気軽にご相談ください。
出典(一次資料): 情報処理学会 情報入試委員会「情報科全教科書用語リスト第2版」(2026年10月13日公開・CC BY-SA 4.0。解説シートおよび用語リスト本体)。角田博保「高等学校情報科全教科書用語リスト」『情報処理』Vol.65 No.12(2024年12月)。総意語の語数・属性ごとの語数は、公開されたスプレッドシートを当社で集計したもの(同じ用語が複数行ある場合は1語として計数)。
この記事を書いた人 / 監修
エデュコン教材制作チーム
創業以来、500社以上の教育機関様の教材制作を支援。
入試問題の傾向分析から、最新の学習指導要領(情報Iなど)への対応まで、現場の声を反映した「使いやすく、効果の出る教材」づくりを徹底サポートしています。
教育・IT・編集のプロフェッショナルが集まる専門チームが記事を監修しています。
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