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コラム

デジタル教科書の指針「素案」を読む──紙とデジタルの組み合わせが基本、完全デジタルは小5以上の外国語・実技系に限る

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ICT教育・GIGA
デジタル教科書の指針・素案「紙とデジタルの組み合わせが基本」。開いた紙の教科書とタブレットが並ぶバナー

2026年10月22日、文部科学省の「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議」(第6回)に、指針の素案が示されました。タイトルは「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等に関する指針の策定に向けて~紙とデジタルをスマートに使い分け、学びの可能性を広げる~(素案)」。2030年度から使われる新しい教科書を、どの学年・どの教科で、紙とデジタルをどう組み合わせてつくるのかを、指針の形で初めてまとめたものです。結論を先に言えば、全学年・全教科でハイブリッドが中心、全てがデジタルの教科書は小学校高学年以上の外国語・実技系の一部に限る。本コラムでは、配付資料(資料4=素案の本体、参考資料4=これまでの委員の意見、参考資料7・8=校長会の意見書)の記述をたどりながら、何が決まりつつあり、何がまだ決まっていないのか、そして教材をつくる側に何が求められるのかを整理します。

この記事の要点

  • 2026年10月22日の検討会議に示された指針の素案は、2030年度以降の教科書を全学年・全教科で「紙とデジタルを組み合わせたハイブリッド」中心とする方向を示した
  • 全てがデジタルの教科書は小学校低・中学年では認めず、小学校高学年以上の外国語と実技系教科の一部(音楽・図画工作・美術・技術分野・高校の芸術・情報など)に限って認め得るとした
  • 完全デジタルを認めない教科・学年ではハイブリッドでも「主に紙」、デジタルは補助的・補完的とし、低・中学年は概ね紙で構成する。一方で「紙の本文+二次元コード」に限らない組み合わせも例示された
  • 根拠は発達段階(認知科学の知見)、採択権者の意向調査(ハイブリッド希望が8〜9割)、教科ごとの効果的な学習場面の表の3つ。指針はまだ素案で、年内にも策定の見込み

10月22日に示された「素案」とは

2026年の法改正・指針策定から、2027年の著作・編集、2028年の小学校の検定、2029年の採択を経て、2030年度に使用開始となる導入スケジュール

法改正を受けた「大臣指針」の案

2026年6月に成立した学校教育法等の一部改正法(令和8年法律第37号)で、教科書は紙だけでなくデジタルな形態を含み得るものになりました。改正前の学校教育法では教科書は紙の図書のみと解されていましたが、改正により、紙とデジタルを組み合わせたハイブリッドな形態の教科書のほか、全てが紙の教科書、全てがデジタルの教科書も想定されることになります。どの形態であっても、文部科学大臣の検定を経て発行され、採択権者が採択し、学校で使用義務のかかる教材として使われる点は同じです。法改正の中身はデジタル教科書が正式な「教科書」にで解説しています。

施行は2027年4月1日ですが、これは著作・編集、検定、採択・供給に必要な期間を踏まえたもので、実際の導入は次期学習指導要領が全面実施される2030年度から小学校を皮切りに段階的に、という流れです。教科書検定の工程としては、2027年度に著作・編集、2028年度に小学校用の検定、2029年度に採択、2030年度に使用開始、と進みます。

なぜ「指針」が必要なのか

法律は3つの形態を可能にしただけで、どの学年・教科にどの形態がふさわしいかは書いていません。そこで、中央教育審議会のデジタル教科書推進ワーキンググループの審議まとめ(2025年9月24日)が、新たな教科書の発行や採択に当たって紙またはデジタルの活用が期待される学年や教科、学習場面について一定の指針を国が示すことを提言しました。改正法の国会審議でも、教科特性や発達段階を踏まえた教科書の形態の在り方が議論されています。

これを受けて文部科学大臣が検討会議に検討を要請し、検討会議は2026年4月から委員の意見発表や外部有識者のヒアリングを重ねてきました。7月の会議では「効果・健康・現場の声」の3つの論点が整理され(デジタル教科書の導入検討はいま)、8月の第5回では紙とデジタルがそれぞれ効果的な学習場面や発達段階についての意見が整理されています。今回の素案は、その議論を「指針に明記すべき内容」として取りまとめ、これに基づいて文部科学大臣が指針を策定するよう求める、という体裁の文書です。

素案の構成は4章です。第1章がデジタルな形態を含む教科書の在り方(法改正の概要、基本的な考え方、形態の在り方、アクセシビリティ)、第2章が教科書発行者への留意点、第3章が採択権者への留意点、第4章が学校への留意点です。本コラムもこの順に読んでいきます。

まだ「素案」、年内にも策定の見込み

資料の日付は「令和8年○月○日」のままで、会議の回数も「計●回」と空欄です。つまり検討会議としての取りまとめの案であり、これをもとに文部科学大臣が指針を策定する、という段階です。報道では、意見公募を経て年内にも策定される見込みとされています。素案自身も、導入後の活用状況や研究の進展を踏まえて「必要に応じて随時見直しを行っていくことが必要」と書いており、確定したルールとして読むのは早すぎます。

配付資料は文部科学省の会議ページで公開されています。

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素案の出発点──「二項対立」に陥らない

「紙かデジタルか」の二択ではなく、学習場面ごとに紙とデジタルを使い分けるという素案の考え方

紙を中心とした学習環境を基本に、デジタルの特性が活きる場面で

素案の第1章「2 基本的な考え方」は、文部科学省のこれまでのスタンスを確認するところから始まります。GIGAスクール構想による1人1台端末の整備を通じて、従来の紙を中心とした学習環境を基本としつつ、デジタルの特性が活きる場面での活用を進めてきた。今回の制度改正もこの考え方に基づく、というものです。

そのうえで、文章を深く丁寧に読み込む、一覧性を生かして全体を俯瞰する、手を動かしながら書き込む、といった紙に馴染みやすい学習活動は、今後も変わらず授業の中で必要な活動として位置づけられる、と明記しました。デジタルの良さとして挙げられているのは、英語の現代の標準的な発音を実際に聞いて確認する、図形やグラフを画面上で動かして視覚的に理解する、理解度や進度に合わせて動画・音声を繰り返す、音声読み上げや文字拡大で使いやすくする、といった点です。

「紙かデジタルか」ではなく「どの場面でどちらが効くか」

素案は繰り返し、「紙かデジタルか、デジタルかリアルかといった、いわゆる『二項対立』に陥ることなく」と書いています。教科や学習場面といったミクロなレベルで、紙・デジタルのいずれが効果的かという視点で考えることが重要だ、という立場です。この考え方は、検討会議の第1回から委員が繰り返し述べてきたことでもあります(参考資料4)。「紙かデジタルかのアバウトな議論の段階ではもはやない」「大枠でばっさりと紙・デジタルを固定的に分けることには慎重であるべき」といった意見が並んでいます。

もうひとつ、素案は新しい教科書に求められる方向として、次期学習指導要領に合わせた内容・分量の精選と、教科書「を」教える授業から教科書「で」教える授業づくりへの転換を実現するための、問いや評価課題、学習過程が明確になった教科書への改善を挙げています。デジタル化は、量を増やす方向ではなく、精選と授業づくりの転換を支える方向で進める、ということです(精選の議論は教科書は「精選」の時代へで解説しています)。

形態の結論──3つのルール

小学校4年生以下は概ね紙、小学校5年生以上はハイブリッド中心で、外国語・実技系の一部は完全デジタルも可という学年と形態の整理

素案の第1章「3(5)デジタルな形態を含む教科書の形態の在り方について」が、今回の核心です。2030年度以降の「当面の取り扱い」として、形態のルールを3つに整理できます。

ルール1:全学年・全教科でハイブリッドが中心

まず「基本的には全ての学年・教科において、ハイブリッドな形態の教科書が中心的な役割を担うことを想定」します。各教科に紙・デジタル双方の活用が効果的な学習場面があること、採択権者の意向がハイブリッドに集中していることが理由です。全てが紙の教科書も制度上は残りますが、素案は「教科書は紙とデジタルを組み合わせて構成されるようになる」と見ています。

ルール2:完全デジタルは「小学校高学年以上」かつ「外国語・実技系の一部」

完全デジタルを認め得る教科。小学校高学年は外国語・音楽・図画工作、中学校は外国語・音楽・美術・技術分野、高等学校は外国語・芸術(書道を除く)・情報・専門学科

全てがデジタルの教科書は、「まずは一部の学年段階・教科において認め得る」という扱いです。条件は2つ重なります。

- 学年:小学校低学年・中学年では認めない。小学校高学年以上に限って認め得る
- 教科:外国語と、いわゆる実技系教科等の一部に限る。具体的には、小学校高学年の音楽・図画工作、中学校の音楽・美術・技術・家庭(技術分野に限る)、高等学校の芸術(書道を除く)・情報・専門学科で開設される各教科、に相当する教科

外国語が挙がる理由として、素案は「本文に合わせて音声や動画を再生することで、本文の内容の理解が深まりやすくなる」教科であり、教科書の全体をデジタルで一体的に作成・活用した方が効果的な場合がある、と説明しています。高校の専門学科については、職業の過程でICT端末を使うことが想定される科目や実技の比重が高い科目が多く、高校生という発達段階も踏まえて、発行者の創意工夫の幅を広げる、という位置づけです。

裏を返せば、国語・社会・算数/数学・理科・道徳・保健体育などは、どの学年でも完全デジタルは認められないことになります。中学校の技術・家庭でも、完全デジタルを認め得るのは技術分野だけで、家庭分野は含まれません。教科の線引きは、次期学習指導要領に向けた答申等を踏まえる必要がある、と留保がついています。

ルール3:ハイブリッドでも、完全デジタル不可の教科は「主に紙」

完全デジタルを認めない教科では、ハイブリッドでも主に紙で、デジタルは補助的・補完的。低・中学年は概ね紙

ハイブリッドの中身にも方向が示されました。完全デジタルを認めない教科・学年では、ハイブリッドであっても主に紙で構成し、デジタルは学習内容を理解する上で補助的・補完的に組み込みます。特に小学校低学年・中学年は「概ね紙で構成するものとし、デジタル部分はより限定的なもの」とします。一方、完全デジタルを認め得る教科・学年では、ハイブリッドの場合に主にデジタルで構成することもあり得るとされました。

つまり、中学校の理科や社会でハイブリッドをつくる場合も、本体は紙で、動画やシミュレーションは紙の記述を補う位置づけになります。「主に紙」「補助的・補完的」が具体的に何割を指すのかは、素案には書かれていません。検討会議でも、教師側のノウハウの蓄積や検証なしに「デジタルが何%」と決めてしまうのは拙速だ、という意見が出ていました(参考資料4)。

「紙の本文+二次元コード」に限らない

ハイブリッドの2つの形。紙の本文に二次元コードを付ける形と、本文もデジタルにして端末上に書き込む形

ここで見落とせないのが、ハイブリッドの具体的な姿についての一文です。素案は、ハイブリッドは「紙部分に本文を掲載し、紙部分に記載された二次元コードからデジタル部分に遷移する形態に限られるものではない」と明記しました。例として挙がっているのが国語です。説明文の単元を本文も含めてデジタルで制作し、端末上での書き込みやマーカーによる色付けで、文章の構成を把握したり情報を整理したりする学習を行いやすくする、という形です。

「主に紙」の教科であっても、単元や学習活動によってはデジタルが本文を担う──紙とデジタルの境目を、教科単位ではなく単元・学習場面の単位で設計する余地が残されています。検討会議でも、「現行の紙の教科書+二次元コードコンテンツといった作りではなく、紙とデジタルでそれぞれの相乗効果を発揮するようにバランスよく配分された教科書作り」の方向性を指針で確認してほしい、という意見が出ていました。

今後の見直しと、AIの扱い

素案は、以上の形態の在り方について、デジタル技術の発展、学校現場での利活用状況、発達心理学・認知科学・脳科学の研究の進展、文部科学省が今後も実施する実証研究の成果を踏まえ、必要に応じて随時見直すとしています。「当面の取り扱い」という表現は、この見直しを前提にしたものです。

AIについては、入力や操作に対して応答・提案など新たな内容を生成するAI、評価や音声・画像認識を行うAIを教科書に搭載することは、教材としてのAI活用を進める中で、実証研究の成果やガードレール付きのAIをはじめとする教育分野に特化したAIの性能を注視しつつ、技術の進展を踏まえながら「検討を進めることが必要」とされました。可否はまだ示されていません。

なぜそう決めたのか──3つの根拠

「ハイブリッドが基本」という結論を、発達段階・採択権者の意向調査・効果的な学習場面の3つの根拠が支える構図

素案は結論の前に、根拠を4つの節に分けて書いています。制作や採択の判断に関わる3つを中心に見ていきます。

根拠1:発達段階──低・中学年と高学年は分けて考える

小学校低・中学年は具体物や体験で理解する段階として紙を基盤に、高学年以上はデジタルの活用を広げるという発達段階の考え方

発達心理学や認知科学の専門家の指摘として、低年齢の子どもは注意制御を行う機能が未発達で、ワーキングメモリ(情報を一時的に頭の中に保持しながら、同時にその情報を処理・操作する脳の働き)の負荷による影響を受けやすいことが挙げられています。小学校の中でも、体験的な理解や具体物を使った思考が大切で、基礎的な学力を身につけていく段階である低学年・中学年と、高学年は区別して検討すべきだ、というのが素案の立場です。子どもの認知リソースは大人より少なく、小学生と高校生では状況も大きく異なるため、「小学校段階から高等学校段階までを一律に考えることは適当ではない」としています。

全てがデジタルの教科書を小学校低・中学年で認めない判断は、この整理から直接導かれています。あわせて、低・中学年は「読解に係るスキルを形成する重要な期間である」という指摘も引かれています。検討会議では、学校が共同で学ぶ場であることを押さえ、共同注意の観点から特に小学校低学年ではまず紙を基盤とすべきだ、という意見もありました。一方で、読みのスキルは小学校低・中学年で修了するものではなく、小・中・高それぞれに形成段階がある、という指摘もあります。

根拠2:採択権者の意向調査──ハイブリッド希望が8〜9割

採択権者の意向調査でハイブリッドを希望した割合を示す帯グラフ。小学校88.3%、中学校86.3%、高等学校78.4%

文部科学省は2025年10〜12月、全国の採択権者(国公私立の小・中・高等学校段階の教育委員会と学校)に「教科書の形態に関する意向調査」を行いました(回答率は小・中学校段階71%、高等学校段階81%)。結果は次のとおりです。

- ハイブリッドを望む:小学校段階88.3%、中学校段階86.3%、高等学校段階78.4%
- 全てが紙を望む:小学校段階6.1%、中学校段階6.5%、高等学校段階16.8%
- 全てがデジタルを望む:小学校段階5.5%、中学校段階7.1%、高等学校段階4.7%

ハイブリッドの中身を見ると、小学校低・中学年では全教科で「ほぼ紙か、紙の方が多い」構成を望む回答が多く、小学校高学年・中学校では教科によって「デジタルの割合が半分程度以上」を望む回答が多く見られました。紙とデジタルの使い分けの考え方については、学校段階・教科によってさまざまでしたが、学習内容(単元)や学習過程・活動場面の特徴に応じて使い分けるのが望ましい、という回答が多い傾向でした。

全てがデジタルを望む回答は、低・中学年では概ね全教科で10%未満でしたが、高学年以上では小学校高学年の図画工作、中学校の地図・美術・保健体育、高等学校の情報・理数・看護などで10%以上ありました。完全デジタルの対象を外国語・実技系に絞った判断と、この分布は重なっています。もっとも、中学校の地図や保健体育、高校の理数・看護のように、一定の希望があっても素案の対象には入らなかった教科もあります。

根拠3:紙・デジタルそれぞれが効果的な学習場面の表

紙が効果的な場面(読み込む・見比べる・書き込む)と、デジタルが効果的な場面(動画で確認・動かして試す・音声で聞く)の対比

素案には、教科共通と教科別に「紙の活用が効果的な学習場面」「デジタルの活用が効果的な学習場面」を並べた表が載っています。教科書発行者・学校・教師の参考になるよう整理されたもので、たとえば次のような対比です。

- 教科共通:紙は一覧性・俯瞰性で全体を確認する、複数ページを見比べる、ページをめくりながら既習事項を確認する、自由に書き込んで復習する、デジタルの操作性によらずに集中して文章を読み込む、じっくり考えたり手書きで考えを深めたりする場面。デジタルは動画やシミュレーションで視覚的に確認する、情報収集などを行い試行錯誤して考えを形成する、書き込みを学習支援ソフトで瞬時に共有・比較する、音声や動画を自分のペースで再生する場面
- 国語:紙は説明文や物語文を読み込む、長文の余白に自由に書き込む、書写でお手本をなぞったり硬筆・水書用筆で書いたりする場面。デジタルは段落ごとに色分けして構成を把握する、朗読音声で韻文や古典のリズムを味わってから音読する、スピーチのモデル動画を見てから話す場面
- 社会:紙は複数の資料を同時に見比べる、地図や年表を俯瞰的に捉える場面。デジタルは写真などの資料を拡大して確認する、グラフや地図の表示を切り替えながら考察する場面
- 算数・数学:紙は筆算、教具での作図、ヒストグラムや箱ひげ図を実際に描く、二次関数のグラフを実際に描く、樹形図で場合分けを可視化する、証明を実際に行う、長さを測る場面。デジタルは図形の回転・変形の試行錯誤、関数の変化やグラフの視覚的理解、面積や体積のイメージ、データを実際に用いた統計の理解、学習データの処理・分析
- 理科:紙は計算や作図、複数の図表を複数人で確認する、表示する端末の影響を受けないため色(花や生物、炎色反応など)を伴う学習の場面。デジタルは実験の手順を動画で事前に確認する、天体の動きや生物の成長、分子構造を視覚的に理解する、時間変化のある現象をアニメーションやシミュレーションで見る、ミクロの現象を拡大する場面
- 外国語:紙は既習事項を振り返って比較する、複数ページにまたがる本文を読み込んで要点を捉え、本文を引用しながら考えを伝える場面。デジタルは標準的な発音の確認、読み上げとハイライト表示による音読、文の構成要素の視覚化、動画で場面や文化に触れる、テキスト・音声・図表・動画から総合的に文脈を読み取る場面
- 実技系:紙は楽譜を見て演奏する場面。デジタルは楽器の奏法を動画で確認しながら演奏する、楽譜に連動させて模範演奏を鑑賞する、材料・使い方を動画で確認する、参考作品を立体的に鑑賞する、絵画を拡大して細部まで鑑賞する、ソースコードをコピーして不足部分を自ら書いて実行する(情報)、心肺蘇生法の手順を動画で身に付ける(保健体育)、調理の手順を確認する(家庭)場面

素案は、この表は「一例」であり、紙が効果的な場面でデジタル教材を併用することも、その逆もあり得る、発達段階によっては妥当しない場合もある、と断っています。紙教材とデジタル教材、どう使い分ける?で整理した「場面で選ぶ」考え方が、国の文書でも採られた形です。

根拠4:「現行のデジタル教科書」で確認された効果

現行のデジタル教科書の使用状況。半分以上の授業で使う教師が約6割、4回に1回以上使う教師が約7割

素案は「現行のデジタル教科書」(2019年度から紙の教科書に代えて使える代替教材として導入され、小学校5年生から中学校3年生の英語、算数・数学を中心に国費で提供されてきたもの)の実証研究の成果にも触れています。2025年度の大規模アンケート調査では、小中学校等の教師の使用頻度は年々増加し、半分以上の授業で使う教師が約6割、4回に1回程度以上の授業で使う教師が約7割に及んでいます。児童生徒を対象とした設問では、「いつも使う」児童生徒ほど授業内容の理解や主体的な学びについて肯定的な回答が多く、使うようになってからその教科を好きになったという回答もありました。操作ログの先行研究では、家庭学習で英語のデジタル教科書を学習上意味のある形で操作していた生徒の定期テストの成績が高い傾向も確認されています(実証研究の詳細はデジタル教科書の「効果」は?で解説しています)。

一方で、紙とデジタルで文章の理解度を比較する先行研究は、年齢やデジタルへの慣れなどの条件によって紙優位の結果もデジタル優位の結果もあり、「一概に述べることは困難」としています。学習効果は文章理解だけでなく、動画や音声による説明が可能になる点も含めて捉える必要がある、というのが素案の整理です。

「紙への回帰」の読み方

スウェーデン・フィンランド・ノルウェーは紙とデジタルのバランスへ、デジタルを推進する韓国・エストニアはPISAトップクラスという「紙への回帰」の読み方

スウェーデンなどで教科書をデジタルから紙に戻す動きがあるという指摘についても、素案は1節を割いています。スウェーデンはデジタル教育の推進以降もTIMSSでは過去3回とも得点が向上し、PISAは2015年・2018年に向上したのち2022年・2025年に低下しました。スウェーデン教育庁の報告書では、PISAの成績と学習以外でのICT機器の使用には負の相関がある一方、学校での学習のための使用との相関は明確ではない、と分析されています。フィンランドやノルウェーの政府は、デジタルを捨てて紙に戻るのではなく、デジタルとアナログのバランスを取る方針です。他方、デジタル教科書を推進する韓国やエストニアは、2025年のPISAでも読解力を含むいずれの分野でもトップクラスでした。

これらを挙げて素案は、「紙への回帰」が指摘される国も実は紙とデジタルのバランスを取る改革をしており、日本の方向性と軌を一にする、と結論づけています。諸外国は教科書の定義や使用義務、検定の有無が日本と異なることにも留意が必要だ、と注記しています。

校長会はどう見ているか

校長会の意見。全国連合小学校長会は「小4以下は完全デジタルを避けたい」、全日本中学校長会は「学年より教科特性で区分」

参考資料として、全国連合小学校長会(2026年9月4日)と全日本中学校長会(2026年8月24日)の意見書が添えられました。素案の学年・教科の線引きは、この2つの意見書とほぼ重なっています。

小学校長会:「4年生以下はフルデジタルを避けたい」

小学校長会は、一律の導入ではなく段階的・限定的に導入して効果と課題を検証することが妥当だとしたうえで、「4年生以下はフルデジタルの教科書使用は避けたい」と述べています。低学年では、紙教材全体を俯瞰しながら学習する経験や、筆圧・はね・はらいなどの運筆、実物を操作する身体感覚を損なわないようにしたい。入学直後の1年生は、児童全員が紙の教科書を手に取り、担任と一緒に声に出して読む習慣や環境を整えることが重要だ、という理由です。低学年は端末操作の習得に個人差が大きく、指導に相当な時間を要することへの懸念も書かれています。

教科別には、低学年の国語・書写・算数は紙が望ましい。3年生以上の理科・社会では実験器具の扱いや地域・産業の映像資料などデジタルを取り入れた構成が望ましい。高学年の外国語や図工・音楽・体育などの実技系ではデジタル中心の構成も取り入れたい。どうしても完全デジタルとするなら外国語が望ましい、としています。同じ学年でも児童の実態はさまざまなので、教員が、場合によっては児童自身が、デジタルか紙かを選べるようにすることも考えたい、という提案もあります。

中学校長会:「学年より教科特性で区分を」

中学校長会は、全てがデジタルの教科書は教科の特性や学習活動の内容を踏まえて限定的かつ段階的に導入するのが適当だとし、国語(長文読解・文章構造の把握・書き込みによる思考整理)、社会(地図・年表・統計資料の比較)、道徳(教材をじっくり読む)、数学(途中式の記録や作図、試行錯誤の過程を手書きで残す)は紙中心、英語・理科・音楽・美術・保健体育・技術・家庭はデジタル中心の構成が望ましいとしました。中学校では「学年による区分よりも教科特性による区分の方が適切」というのがポイントです。

中学校では1人1台端末が教科書閲覧以外にも協働学習や情報共有に使われていることから、教科書機能への過度な依存による教育活動への影響も考慮すべきだとし、通信障害・端末故障・災害時の学習保障の観点から、紙を完全に代替することには慎重な検討が必要だ、とも述べています。要望としては、教科特性に応じた導入基準を明確に示して学校に過度な判断負担が生じないようにすること、紙とデジタルの割合を柔軟に設定できる制度にすること、非常時にも学習機会が保障される仕組みを整備することを挙げています。

素案とのずれ:理科の位置づけ

なお、中学校長会が「デジタル中心」に挙げた理科は、素案では完全デジタルを認めない教科に入り、ハイブリッドでも「主に紙」の側です。小学校長会も3年生以上の理科・社会でデジタルを取り入れた構成を望んでいます。素案の表でも、理科は実験手順の動画や天体・分子のシミュレーションなど、デジタルが効果的な場面が多く挙げられている教科です。現場の希望と素案の線引きがずれている箇所として、今後の議論や意見公募で論点になる可能性があります。

検討会議ではどんな意見が出ていたか

検討会議で出た3つの視点。学習設計から考える、思考を止めない、教科書と教材の役割分担

参考資料4は、第1回検討会議で示された10の論点と、第5回までの委員・外部有識者の意見の対応関係を整理したものです。素案の行間を読むうえで参考になる意見をいくつか拾います。

「教科書の形態だけを切り出して決めることへの違和感」

形態の在り方については、「実際の学習は教科書だけで完結するものではなく、教材やノート、端末、教師による指導を組み合わせて成立するため、教科書の形態だけを切り出して紙かデジタルかを決めることには少し違和感がある」「単元や学習場面に応じて、何を学ばせるためにどう使うのかという学習設計から考えることが大事」という意見がありました。紙にしてもデジタルにしても「いかに使うか、授業や学習環境をどうデザインするかに尽きる」という発言もあります。素案が「二項対立」を避け、ハイブリッドの姿を固定しなかった背景には、こうした議論があります。

デジタル教材の設計についての指摘

教材をつくる側に直接関わる意見もあります。「教材は答えを教えるものではなく、答えを導く力を育てるもの。デジタル教材は動画やヒントを提示しやすいが、ヒントを出すこと自体ではなく、どのタイミングで、どの程度ヒントを出すかという設計がこれから重要になる」「デジタル教材の作成に当たり、子供の思考を止めない設計を考えておくことが重要」「学習支援ソフト上で意見を共有すると、良い意見に引きずられて自由な発想を妨げる危険もある」といったものです。デジタルの機能に没入して授業そのものから逸れる、機能に関する発話が増えて表現内容ではなく表現自体に凝ってしまう、という懸念も挙がっています。

発行者・採択側からの要望

教科書発行者や採択権者に関わる意見としては、「3種類の形態を全て発行するのではなく1種類の形態を選択して製作するという明示的な方針が確認されれば、各自治体の不安感は解消される。是非指針に明記いただきたい」「音声や動画はデジタル教科書にふさわしい内容として厳選することを教科書作成の大事な方針として打ち出してほしい」「デジタルコンテンツは採択時に内容を確認・対比する利便性が紙より劣るため、機能やコンテンツの内容を把握できる資料やリストが別途備えられていることが望まれる」などがありました。後述する第2章・第3章の留意点は、これらに応える形になっています。高校からは、教科書と教材の明確な区分、デジタルであることの教育的な必然性、コンテンツの量ではなく教育効果の重視、更新・訂正のルールとバージョン管理の明確化、学校・教師の負担を増やさないこと、の5原則が提案されています。

アクセシビリティ──多様性の包摂

デジタル教科書のアクセシビリティ機能。拡大、ルビ、音声読み上げ、色反転、字幕・速度調整

素案の第1章「4 障害等による学習上の困難の軽減に向けた方策」は短い節ですが、制作側には重要です。デジタル部分に拡大やルビ振り、音声読み上げといったアクセシビリティ機能を備えることで、障害等による学習上の困難の軽減や、日本語指導が必要な児童生徒の学びの支援につながる。これは次期学習指導要領の基本的な考え方のひとつである「多様性の包摂」の実現に資する、という位置づけです。

現行のデジタル教科書とビューアには、文部科学省の標準仕様書で拡大・ルビ振り・色反転・リフロー表示・音声読み上げなどの標準実装が求められています。新しい教科書では、これに加えて、新たに教科書として認められる動画・音声に対応したアクセシビリティ機能も含めて標準実装が図られるよう、標準仕様書を策定するとしています(8月の会議で示された字幕・再生速度調整の方針はデジタル教科書に字幕・速度調整が「標準装備」へで解説しています)。

さらに、紙媒体では学習が困難な児童生徒を対象に、検定教科書のデジタル版を教科用特定図書等として無償給与できるようにすることを踏まえ、より高いアクセシビリティ機能を備えることなどを含めた標準規格を、当事者や発行者の意見を聞きながら策定する、としました。教科書発行者には、この標準規格に適合したデジタル版の発行に努める義務がかかります。検討会議では、視覚障害特別支援学校等で文字の拡大や色反転によって現行のデジタル教科書を使っている児童生徒が多いこと、障害の有無にかかわらず必要な児童生徒がまず試せる共通機能が大切であること、構造化データの作成コストを価格設定に盛り込む必要があることなどが指摘されています。

発行者・採択権者・学校への留意点

関係者ごとの留意点。発行者は形態を1つにしてよい、採択権者はデジタル部分も調査研究する、学校は紙だけで教えない

素案の第2章以降は、関係者ごとの留意点です。制作に関わる部分を中心に見ます。

教科書発行者:複数形態の発行は求めない

文部科学省は、同じ内容の教科書を「全て紙」「ハイブリッド」「全てデジタル」の複数の形態で発行することを求める意図はないと明言しました。発行者が、紙・デジタルそれぞれが効果的な学習場面を踏まえて適切な形態を選ぶことが望ましい、という考えです。日本の教科書制度は民間の発行者の創意工夫を生かした著作・編集が基本であり、デジタルについても「創意工夫をこらし、スマートにデジタルを取り入れながら、適切な形態を選択」することが期待される、と書かれています。

検定の要件は教科用図書検定調査審議会の検討を経て検定基準等として示されます(9月の骨子案はデジタル教科書に載せてよいもの、いけないもの、10月の第一次論点整理はデジタル教科書の動画は「1本3分程度」までで解説)。ビューアについては、アクセシビリティ機能に加え、デジタル部分の印刷・ダウンロード機能や拡散防止機能を含む標準仕様書が示される予定で、発行者と配信事業者はそれを踏まえたビューアの開発と、ビューアで閲覧することを前提とした著作・編集が求められます。

デジタル教材との連携は「オープンかつ公平」が原則です。教科書やビューアの世界に閉じて連携を模索すると局所最適になるとして、校務支援システムや連携基盤、ポータルサイト、各種学習ツールを含む教育DX全体の動向を踏まえた全体最適の設計を求めています。複数の学習ツール間で相互連携を可能にする仕組みの実装は、文部科学省が引き続き検討します。

採択権者:二次元コード先も調査研究の対象に

現在の紙の教科書の二次元コード先のコンテンツは教材扱いで、これも含めて調査研究し選定資料に載せるかどうかは都道府県でばらつきがありました。新制度では、学習指導要領に照らして真に必要なデジタルコンテンツは教科書の一部になるため、採択時の調査研究の対象になります。逆に、調査研究の対象はあくまで「教科書」に限定されることが望ましく、教科書以外の教材が採択に影響しないよう、採択時に教材を一体で提供すること(連携するデジタル教材へのリンクを表示すること)は標準仕様書で認めない、とされました。

調査員(多くは学校の教師)の負担を減らすため、発行者がデジタル機能とコンテンツの情報を一覧化して採択権者に提供する仕組みを整備すること、共同採択地区でない市町村教育委員会同士や都道府県教育委員会同士の共同調査研究を活用すること、2025年度から運用が始まった需要数集計の新システムも踏まえて都道府県教育委員会が需要数報告の期限を遅らせるなど採択スケジュールを見直すことも書かれています。採択は2029年度以降です。採択結果とその理由について保護者や地域住民に説明責任を果たすことは、デジタルを含む教科書でも変わらない、と念押しされています。発行・採択の仕組みそのものはデジタル教科書の発行・採択はどう変わる?で解説しています。

学校:紙の部分だけ使う指導は「あってはならない」

学校での使用について、素案ははっきり書いています。学校教育法の規定により学校では教科書を使用しなければならない。これは教科書を隅々まで網羅的に教えなければならないという意味ではないが、ICT環境や教師の資質能力を理由に、ハイブリッドの教科書の紙の部分のみを使い、デジタル部分を使った指導を行わないという状況はあってはならない。授業を構想するときは学習指導要領の記述に立ち戻り、単元全体を見通しながら、デジタル部分も含めて教科書「で」教えることが望ましい、としています。こうした授業設計を支えるため、デジタル学習指導要領の実現に向けた検討も進めるとしています(学習指導要領が「デジタル」になる)。

手書きの重要性

デジタル教科書で書き込み・共有したうえで、紙のノートに手書きでまとめるという組み合わせ

同時に、手書きの重要性も強調されました。今回の制度改正は学習内容を分かりやすく学びやすくすることが主旨であり、それによって理解したことや考えたことをノートに手書きでまとめて定着を図ることは引き続き重要だ、という整理です。実証研究の実践例として、デジタル教科書の書き込み機能や抜き出しツールで文章構成を整理し、学習支援ソフトで友達と考えを共有したうえで、最終的な自分の考えは紙のノートにまとめる(中学2年・国語)、デジタル教科書で各工程の写真を拡大して確認し、書き込み機能で考えを共有したうえで、詳細に考えをまとめる際は紙のノートを使う(中学2年・社会)といった組み合わせが紹介されています。プリントやワークシートなどの紙の教材やノートを活用しながら、効果的に書く活動を確保することが求められ、文部科学省も書く活動への影響を継続的に把握するとしています。

健康面の配慮

健康面の目安。目と画面の距離は30cm以上、30分に1回は20秒以上目を休める

健康面では、視力低下などへの懸念を踏まえ、既存のガイドライン(「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」など)に記載された事項、たとえば目と画面の距離を30cm以上離す、30分に1回は20秒以上画面から目を離して目を休める、といった指導の周知徹底が必要不可欠だとしました。教科書や端末は家庭でも使われるため、教職員への周知に加えて保護者への啓発も行う。姿勢や視距離に加え、目の疲れ・頭痛・首や肩の痛みといった症状や、家庭学習や娯楽目的を含めたスクリーンタイムについて継続的に調査し、使用状況と健康への影響の関係を検証する、としています。

脳科学分野の先行研究については、測定対象のスクリーンタイムが娯楽目的であって学習目的ではないこと、統計的に有意でも効果量が小さいことを確認しつつ、「標本数や効果量は小さくとも、統計的に有意な影響が示唆されていることは事実として受け止める必要がある」と書いています。検討会議では「健康被害のエビデンスがないことは、健康影響がないことではない」という意見もありました。健康面の論点はデジタル教科書と子どもの健康で詳しく扱っています。

教師の指導力、ネットワーク、情報活用能力

導入の前提となる教師の研修・教員養成と、必要な通信速度を確保した学校の割合(2025年 約64%、2028年度 約95%の見込み)

動画・音声を含むデジタル部分が使用義務のかかる教科書の一部になることで、全ての教師に、これまで以上にデジタルも活用した指導力が求められます。各教育委員会での研修や学校への指導・助言、都道府県レベルの広域研修の充実が期待されるほか、教員養成段階でもデジタル教科書を実際に活用した取組は必ずしも十分ではないとして、教職課程でデジタル学習基盤の活用法を一体的に学べるようにすること、大学教員や学生の利用を限定するライセンス条件の在り方について発行者と調整することが挙げられています。

前提となるネットワークは、2025年12月時点で必要な速度を確保している学校が約64%、2028年度までに約95%の学校設置者で確保される見込みとされ、2030年度までに全校で確保することが課題です。情報活用能力の抜本的向上に向けた教材開発や研修、端末を学習に関係のない目的で使わないためのフィルタリングや利用時間帯の制限、学校設置者・学校・保護者の間での確認・共有も求められています。

教材制作の視点から

教材制作の5つの軸。紙のどこを補うか、外国語・実技系はデジタル一体、思考を止めない、アクセシビリティは最初から、教科書と教材の線引き

「補助的・補完的」の中身をどう設計するか

多くの教科で、デジタル部分は「主に紙」の教科書を補う位置づけになります。これは、デジタルコンテンツの出番が減るという意味ではありません。素案の表が示すとおり、実験手順の動画、図形や関数の操作、天体や分子のシミュレーション、朗読音声といったコンテンツは、紙の記述のどこを、どう補うのかが説明できてはじめて「補助的・補完的」になります。検定の論点整理でも、動画は紙の記述と密接な関連を持つこと、紙とデジタルを組み合わせる形態ではどのページ・項目に関連するかを相互に示すことが要件になりつつあります。紙のページと結びついた設計が、これまで以上に求められます。

量についても、検討会議で「音声や動画はデジタル教科書にふさわしい内容として厳選を」という要望が出ており、検定側では動画1本3分程度、教科書1点あたり20〜90分という上限案も示されています。「補助的・補完的」は、点数を絞り、1本ごとのねらいを説明できることとほぼ同義だと考えてよいでしょう。

外国語・実技系は「デジタル一体設計」の土俵へ

一方、外国語と実技系の一部は、完全デジタルも、デジタル中心のハイブリッドも認め得る教科です。本文に合わせて音声や動画を再生する、楽譜に連動させて模範演奏を聴く、楽器の奏法や調理の手順を動画で確認する、参考作品を立体的に鑑賞する、ソースコードをコピーして実行する──こうした体験を前提に教科書の全体を設計できる、という意味で、制作の自由度がもっとも大きい領域です。外国語では、音声の正確性や、どの英語の変種を基本に用いるかといった「外国語音声に関する方針」の提出など、検定側の要件もあわせて押さえておく必要があります。

「思考を止めない」設計

検討会議の意見にあった「どのタイミングで、どの程度ヒントを出すか」「子供の思考を止めない設計」は、デジタル教材の設計原則としてそのまま使えるものです。操作できる、すぐに答えが出る、動画で見せられる、というデジタルの長所は、裏返せば、考える前に答えに触れてしまう、機能の探索に没入してしまう、という短所にもなります。素案が紙に求めた「じっくり考える」「手書きで考えを深める」場面を奪わないコンテンツ設計が、ハイブリッドの教科書では特に問われます。デジタル教材制作の設計ポイントで整理した「紙のPDF化で終わらせない」視点は、ここでも有効です。

アクセシビリティは後付けにしない

拡大・ルビ・読み上げ・色反転・リフローに加え、動画の字幕や再生速度調整が標準実装になる方向です。これらは制作の最後にビューアが付けてくれる機能ではなく、テキストの構造化、画像の代替テキスト、動画のスクリプト、音声の文字情報など、コンテンツ側で用意しておくものに依存します。検定側でもすべての動画・音声にスクリプトの提出を求める方向であり、アクセシビリティと検定対応の準備は重なります。だれもが使えるデジタル教材のつくり方で解説した基本を、最初の設計に組み込むことが近道です。

教科書の外の教材との線引き

採択時に教材のリンクを表示しないこと、教科書部分と教材を明確に識別できること、連携はオープンかつ公平であること。素案と検定の議論を合わせると、教科書の一部としてのデジタル部分と、教科書の外の教材の線引きが制度の軸になります。今は二次元コード先に置いている補助コンテンツを、教科書に取り込んで検定を受けるのか、教材として教科書と連携させるのか。学習指導要領コードによる教材との連携も含め、どちらの土俵でつくるのかを早い段階で決めることが、制作の出発点になります。検討会議では「教科書と教材の役割分担こそがこれまで現場を支えてきた重要な構造」という指摘もあり、教科書の外側の教材が担う役割──個別最適、基礎・基本の徹底、多様なアプローチ──は、むしろはっきりしていくと考えられます。

よくある質問(FAQ)

指針は決まったのですか?

いいえ。10月22日に示されたのは検討会議の「素案」です。資料の日付や会議回数も空欄のままで、これをもとに文部科学大臣が指針を策定します。報道では意見公募を経て年内にも策定の見込みとされています。策定後も、活用状況や研究の進展を踏まえて随時見直すとされています。

小学校4年生以下はデジタル教科書を使えないのですか?

全てがデジタルの教科書が認められない、という意味です。ハイブリッドの教科書は使えますが、低・中学年は「概ね紙で構成し、デジタル部分はより限定的」とされています。

中学校の理科や社会で、デジタル中心の教科書はつくれますか?

素案では、完全デジタルを認め得るのは外国語と実技系の一部(中学校では音楽・美術・技術分野)です。理科や社会はハイブリッドでも「主に紙」で、デジタルは補助的・補完的な位置づけになります。中学校長会は理科をデジタル中心が望ましい教科に挙げており、今後の論点になり得ます。

ハイブリッドは「紙の本文+二次元コード」の形に決まっていますか?

いいえ。素案は、その形態に限られないと明記し、国語の説明文の単元を本文も含めてデジタルで制作する例を挙げています。教科の目標や内容、学習のねらいに応じて、紙とデジタルをスマートに組み合わせることが重要だ、という書き方です。

「主に紙」とは、デジタルは何割までという意味ですか?

素案に割合の数字はありません。「主に紙で構成し、デジタルは補助的・補完的に組み込む」「低・中学年は概ね紙で構成し、デジタル部分はより限定的」という表現にとどまります。検討会議でも、割合を先に決めることは拙速だという意見がありました。

高校はどうなりますか?

完全デジタルを認め得る教科として、外国語のほか、芸術(書道を除く)・情報・専門学科で開設される各教科が挙がっています。採択権者の意向調査でも、高校の情報・理数・看護などで完全デジタルを望む回答が一定割合ありました。高校は学校ごとに教科書を採択するため、各教科・科目の学習状況と併せて選択するのが適切だ、という意見も検討会議で出ています。

教科書会社は紙とデジタルの両方を出さないといけませんか?

いいえ。文部科学省は、同じ内容の教科書を複数の形態で発行することを求める意図はない、と明言しています。

教科書にAIは載りますか?

今回も可否は示されていません。応答や提案の生成、評価、音声・画像認識を行うAIの搭載は、実証研究の成果や教育分野に特化したAIの性能を注視しつつ「検討を進めることが必要」とされています。検定側の議論でも同様に保留されています。

全てが紙の教科書は残りますか?

制度上は残ります。意向調査では全てが紙を望む回答は小学校段階6.1%、中学校段階6.5%、高等学校段階16.8%でした。素案は、基本的には全ての学年・教科でハイブリッドが中心的な役割を担うと想定しています。

いつから使われますか?

2030年度(令和12年度)から、次期学習指導要領の全面実施に合わせて小学校から段階的に導入されます。2027年度に著作・編集、2028年度に小学校用の検定、2029年度に採択という工程です。導入までの流れはデジタル教科書はいつから?正式導入までのスケジュールにまとめています。

まとめ

10月22日の素案で、2030年度以降の教科書の形態について、「全学年・全教科でハイブリッド中心」「完全デジタルは小学校高学年以上の外国語・実技系の一部」「完全デジタル不可の教科はハイブリッドでも主に紙、低・中学年は概ね紙」という3つのルールが示されました。根拠は発達段階、採択権者の意向調査、教科ごとの効果的な学習場面の表、そして現行のデジタル教科書の実証研究です。校長会の意見書とも大筋で重なる一方、「紙の本文+二次元コード」に限らないハイブリッドの例示や、理科の位置づけ、割合の数字がないことなど、設計の余地と論点も残っています。

発行者には「形態は1つでよい」「教材との連携はオープンかつ公平に」、採択権者には「デジタル部分も調査研究の対象に」「教材のリンクは採択時に表示しない」、学校には「紙の部分だけで教えない」「手書きと健康への配慮を」という留意点が並びました。

教材をつくる側にとっては、紙のどこを補うのかを説明できるデジタルコンテンツ、外国語・実技系でのデジタル一体設計、思考を止めない設計、最初から組み込むアクセシビリティ、そして教科書の外の教材との線引きが、当面の設計の軸になります。指針が確定するまでの間も、この5点は動かないと考えてよいでしょう。

エデュコンは、デジタル教材制作でシミュレーションや演習アプリを、英語音声の制作で外国語教材の音声を、紙教材の編集・制作で紙の教科書・教材の企画から校正までを承っています。紙とデジタルを組み合わせた教科書・教材の設計について、お気軽にご相談ください。

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